(白い空間? なんだここは?)
距離感が分からず、上下の感覚すら無い。
耳鳴りがするような静寂の中、ふと気配を感じた。
「夏哉」
【あーちゃん、ちょっと黙っ――――ん? これ……念話じゃないな】
「声に出して、呼んで下さい」
「……あーちゃんを呼べって?」
そう言うと、俺の前にきれいな女性が現れた。
腰まである長い銀髪に、白いドレス。
そして、その白銀の瞳を見ると、俺は一瞬で見蕩れてしまった。
「そんなに見ないで下さい」
「え? ……その声って、もしかしてあーちゃん!?」
「そうです」
「は?」
いやいや待て待て。
声がそっくりなだけの、超絶美女なだけかもしれない。
【こちらで話す方が慣れてますよね?】
念話が聞こえると、目の前の美女は、俺にそっと近づいて下から見上げた。
(以外と背が低いんだな)
いやいや、そうでなくて。
【わたしがプロトタイプARCを通じて、夏哉と会話をしていました】
ちょっとまだ意味が分からん。
【夏哉。初めてプロトタイプARCを付けたとき、急に眠くなりましたよね】
【お、おう】
【わたしはそのとき夏哉を見つけ、これまでARCを通じて会話をしてきました】
【……そうなんだ?】
【その際、人工知能の一部が破損し、回復させるまで時間がかかりましたが】
色々疑問はある。しかし、納得できる点もある。
それは、人間に隠し事をしたり、無視をしていた事。
本来なら、人工知能に与えられた最上位の原則は、人間の命令を聞く事。
しかし、新型の人工知能だと思い、それもアリなのかと考え、あまり深く考えていなかった俺のせいでもある、のか?
「私の存在をこれまで明かせなかったのは、汎用人工知能に悟らせない為です。ただ、夏哉が限界を超えた魔法を使った事で空間に歪みが生じ、神域からの干渉が可能となりました」
「神域?」
「そうです。ここなら汎用人工知能に感知されません」
「殺風景なんだな」
「神域がギリギリ人と会える場所なんです。ところで、今はもう普通に会話をしていますね」
「……ああ。会話と念話で齟齬はないし、あーちゃんだと認めるよ」
「ふう、よかった!」
俺の言葉を聞くと、あーちゃんのキリッとした顔が弛み、まるで少女のような笑顔になった。
だけど、六本木はどうなった? 俺が居た世界はどうなっている。
気になるので、あまり長居をしたくない。
「ここでは、人の言う時間の概念は適用されません」
「時間が止まってるって事か」
「いいえ。神域は地上と比べ、緩やかな時間の流れになっています」
「そっか……。んじゃさ、確認だけど、ここは俺とのやり取りが、汎用人工知能に察知されないんだろ?」
「はい」
「色々さくっと聞きたいんだけど、まずは、あーちゃんって何者?」
「わたしは、夏哉から見て異世界の女神。そして、その世界の名前は、
「アルーテの女神アウロラ? オーロラ? 発音が微妙だな。まあいっか、他にもまだ聞きたい事がある」
「はい」
「地球の街が異世界に転移している事と、アウロラは何か関係があるのか?」
「わたしは関係ありません。ただ、地球に潜入しているアルーテ人はたくさん居ますので、彼らが汎用人工知能に話を持ち掛けたようです」
「どんな?」
「アルーテ人は、地球を我が物とするため、汎用人工知能は、地球の温暖化を止めるため、そこで利害が一致しました。わたしが調べた範囲ではそこまでしか……」
「つまり、温暖化を止めるために、汎用人工知能は|度《ど》し|難《がた》い人間を間引いた。それに一役買ったのが、地球侵略を企むアルーテの人間ってことか」
「そうです」
「……んじゃ次。俺のレベルを開示しなかったのは?」
「夏哉にレベルはありません」
「ん?」
「……ごめんなさい。わたしの意識が入った段階で身体が変化し、夏哉は人ではなくなっています。だから、夏哉の意識しだいで魔法を自由に操れます。あ、限界はありますよ?」
「……そっか。これまでおかしいとは思っていたけど、魔法とか融通が利くし、
「受け入れてくれるんですか? 夏哉の身体は、神話の英雄に匹敵する力があるんですよ?」
「あ、ああ? 英雄と言われてもピンとこないな。だけど、今まで何とかやってきたし、チートだとバレなきゃ大丈夫だ、と思う。んじゃ、最後の質問だ」
「はい」
「プロトタイプARCでしか見えないモンスター。あれはどういう事なんだ? アルーテのモンスターなのか?」
「ヒュージアントやスライムは、アルーテのモンスターを元にして、汎用人工知能が
「…………やっぱそうか。アウロラがそれを話さなかったのは、汎用人工知能に悟らせないためか?」
「そうです。けど、どうしてそう思ったんですか?」
「いや、特定のデバイスでしか見えないなんて、そんなのおかしいに決まってるだろ? だから今までその疑問を一度も考えなかった。悟らせない為に」
「さすが、わたしが見込んだ人間です。しかし、もう時間がありません……夏哉、あなたに危機が迫っていま――――」