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 あのあと、裕太、葛谷、由美、佐野の四名が合流し、強敵であるファイアスライムを、俺とマーガレットで倒す事にした。
 裕太たちは小春を加え、リキッドスライムとグレーシャースライムを担当し、難しいようなら六本木エリアから引き離す事とした。

 ただ、アトモスフィアスライムの行方が分からなくなっており、掲示板では「見失った」と騒ぎになっていた。

「お兄ちゃん? 無理しちゃダメよ?」
「ああ、大丈夫」

「夏哉、分かってんだろうな? ――死ぬなよ」
「ああ、俺はお前以上に諦めが悪いからな」

 今生の別れでもあるまいし、妙なフラグを立てる裕太を軽く睨み、俺とマーガレットは首都高渋谷線、高木料金所へ向かった。

 残された時間がどれだけあるのか知らないけど、やると決めたのなら最後まで足掻かせてもらう。
 そう思って、俺は全力疾走を始めた。

「あっ!? ちょっ、待って!」

 待たないし。
 いつの間にか仲間面しやがって、この女。

 首都高の高架を焼きながら進むファイアスライム。
 その移動速度は遅く、俺はあっという間に追い付いた。
 ずっと先の方からファイアスライムに攻撃をしているのは、誘導しているやつらだろう。
 魔法の射程距離、百メートルまで近づき、俺は集中をする。
 土の属性魔法を意識し、強く押し固め、限りなく硬化させる。
 固く固く、巨大な円筒形状。
 しばらくすると、そのイメージが固まり、ファイアスライムの上空から黒光りする巨大な円筒が落ちてきた。
 その大きさは、ファイアスライムがすっぽりと入るサイズで、轟音と共に首都高を揺らしながら着地した。
 その上で、周囲にソイルウォールを重ね掛けし、倒れないように安定させる。

「ちょ!! あんたの魔法って、ほんとに出鱈目ね!?」

 追い付いてきたマーガレットが失礼な事を言っている。
 でも俺はそれを無視して集中をする。
 何故なら、硬化させた円柱が赤くなっているからだ。
 あのままだと、すぐに溶けるか割れてしまう。
 俺は別の属性を意識し、円柱の上空に水を出現させ、すぐに伏せた。

 真っ赤に焼けた石をコップに入れ、水を掛ける。
 そんなイメージだったけど、上空にあった水のかたまりは、赤くなった円筒が溶け始めると、轟音と共に爆散した。

【爆裂魔法を確認しました】
「……」

 裕太が言ってたな、そんな魔法。
 タロットキャロットも、これで五十名が即死した。
 アスファルトに這いつくばりながら、ファイアスライムの先を見ると、先導していた奴らは、一目散に逃げていた。

「ちょっと?」
「なんだ?」

 怒りを含んだ声に、振り向かずに応える。
 俺の横に立っていたマーガレットは、今の衝撃波で後方へ吹っ飛ばされていた。
 まあ、それでどうにかなる奴ではないだろう。

「あんた日本人でしょ? 共闘って意味、知ってる?」
「ああ」
「ちょっ! なによ、その言い方は!?」

 ああ、うるさい。
 どうしてこうも馴れ馴れしいのだろうか。
 南風原の身内だと言っておきながら、厚かましいと思わないのか。

 金属っぽい光沢を放つマーガレットを見る。

「それさ、全身を|強制複合現実化《FMR》してるだろ?」
「そっ、そうだけど何か?」
「なら無傷だろ?」
「……そうだけどさ」

 こいつの距離感が不思議だ。
 だけど、構ってる暇は無い。

 しかし、その後の攻撃をしても、アイスバレットは途中で蒸発し、ウィンドカッターは空気が歪みただの風となった。
 ファイアスライムは、そんな俺たちを敵だとすら認識していない。
 しかし、あの爆裂魔法がこちらへ向けて使われたら、俺たちは簡単に血煙になってしまう。
 だから俺は、雪国で作るかまくらのイメージで土のドームを作り、万が一はそこに避難するようにした。

「ん~」

 その後も打つ手は無く膠着状態が続き、アスファルトに這いつくばったまま観察をしていると、ファイアスライムの表面が、何か膜のようなもので被われていると気づいた。

「何だろな?」
「何がよ?」
「あの膜みたいなやつ」
「……袋?」

 マーガレットは、いつの間にか俺の横で這いつくばっていた。
 しかし、袋?
 そんなものが必要なのか?

「……」
「何をするつもり?」
「斬る」
「……えっ!?」

 立ちあがった俺は、腰に差した刀を任意で|強制複合現実化《FMR》させ、全力で走り出した。
 ただ、距離を百メートルでキープしていたので、レベルの上がった俺は、瞬時にファイアスライムへ肉薄していた。

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