数秒後、中から爆発音が連続して聞こえてくる。
「中に赤いスライムが混じってたぞ? ちょい油断しすぎ」
「げっ!? マジか!! すまねえ!!」
俺が注意すると、裕太は大げさに仰け反り、謝罪してきた。
しかし、こんな事なら他のエレベーターを使っても同じだろう。
「佐野さん、俺たちは階段を使います」
「お? おう、頼むぜ!」
俺が佐野に話しかけた事で、ちょっと面食らっていたが、こんな状況だし、仕方が無い。
と言うのも、俺はあの暴行事件から、佐野とは一言も話していなかったからだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
非常階段を下りきると、鍵のかかった扉があった。
俺はすかさずウィンドカッターを使い、|蝶番《ちょうつがい》を切り落とした。
裕太と葛谷は、倒れてきた扉を受け止め、音を立てないように奥へと進んだ。
そこには以前見た装甲車が数台停まっていた。
「スライムが多いでござる……」
まあ、半透明なやつだ。
放置でもいいだろう。
そう考え、俺たちは歩みを早めた。
むき出しのコンクリート壁と床。天井には色々なケーブルが吊ってある。
節電のためなのか、薄暗くなっており、遠くまで見通せない。
三人とも極力足音を立てないように歩く。
しばらくすると、複数名の気配を感じ、俺たちはソイルウォールを使った。
すると連続する発砲音が聞こえ、弾丸がソイルウォールに当たり始めた。
「あいつらも警告無しじゃねえか」
「どうした?」
「いや、何でもない」
俺のぼやきに裕太が反応したが、それどころでは無い。
なぜなら、ソイルウォールがあっという間に削られているからだ。
おそらく、あの小銃も|強制複合現実化《FMR》されているのだろう。
だが、それも織り込み済み。
「裕太、葛谷、やるぞ」
そう言うと、複数枚のソイルウォールが出現し、円筒の中に俺たちが入っている状態になった。
その円筒が天井まで届くと同時に、俺は内側からウィンドカッターを使い、こぶし大の穴を開けた。
そこから外を見て、ウオーターを使用し、穴をソイルウォールで塞いだ。
こうすれば俺たちの外に水が発生し、どんどん水位を増していく。
この円柱には水が入らないように、何度も練習をした。
水が引いた頃合いを見計らって、俺たちはウィンドカッターで円柱をを切り裂き、外へ出た。
「きれいさっぱり流されたでござる」
「夏哉の魔法は、なんでそんなに出鱈目な威力なんだ?」
「……知らねえよ」
とは言ったものの、魔法の威力調節は、どうやら他の人は出来ないようだ。
(チート野郎呼ばわりされるのが、少し恐い。黙っておこう)
まだ膝近くまでの水位はあるものの、近くにあった装甲車はひっくり返り、人の気配もなくなっていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あそこが詰め所かな?」
俺の言葉に二人は頷く。
「この魔法さ、ゲームみたいに、MPが無くてよかったよな」
裕太は今さらそんな事を言っている。
まあ、俺もゲームをやった事はあるので、知らないわけじゃないけど。
「んじゃ始めるでござる」
水はまだ完全に引いていない。
ここは地下なので、地上へ組み上げるポンプがフル回転しても、そこそこの時間はかかるだろう。
俺たちは詰め所から狙われないようにソイルウォールを何枚も作っていく。
その上で、水に触れないように足場も作っていく。
そして俺は水面に向け、アシッドボールを放った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「そろそろいいかな?」
魔法はいつものように調整が出来るので、アシッドボールを丸く飛ばすのではなく、酸の液体として水に混ぜ込んだ。
それが詰め所の方へ流れていくと騒ぎが起こり、しばらくすると静かになった。
「夏哉、大丈夫か?」
「死んでないでござるか?」
「ちゃんと練習通りに出来てれば平気だ」
裕太と葛谷の問いに応え、しばらく時間をおき、完全に水が引いたのを確かめたあと、強烈すぎない酸の効果を確かめに行く。
大きな観音扉をくぐり詰め所に入ると、そこには錆びてボロボロになった銃がたくさん転がっていた。
「ブラックフットの連中は、奥に避難してるっぽいな」
俺の呟きに、二人は頷く。
俺たちは何も、ブラックフットを皆殺しに来たわけでは無い。
目指すは南風原の殺害だ。
ただ、先行している小春と由美がどこに居るのか不明、という不安要因がある。
小春たちは、この酸の攻撃も知っているので、大丈夫だとは思うが。
通路を奥へ進み、階段を上がる。
するとそこは一面に畳が敷かれた、体育館ほどの広さがある武道場だった。
「気配を感じるか?」
「ああ」
「誰かくるでござる」
裕太と葛谷が返事をすると、奥の扉から右腕に包帯を巻いた南風原が現れた。