実は、日下部夫妻にマンションを引き払うと話したところ、俺たちが余所余所しかったのを不審に思われ「何をするつもりじゃ?」と、いつもの好々爺から雰囲気が一変し、怒濤の追求を受けてしまった。
その眼力に気押され、俺たちは今回の襲撃作戦を話してしまい、こっぴどく叱られた。
『しかしだな……その気持ち、分からんでも無い。だが、復讐は負の連鎖を生む。そうさせないためには、残された者がその気にならないように、圧倒的な力で叩き潰さなければならない。君たち子供に、そこまで出来るわけが無い』
そう言われたが、それでもなお、俺たちの決意は変わらず、復讐を遣り遂げると言い張っていたところ、日下部さんは折衷案を提示してきた。
『夏哉くんたちの気持は変わらんな……。それなら、ワシがマンション住人に話をして、ブラックフットの連中が本社ビルから出るように、掲示板を使ってフェイク情報を流すとしよう。もちろん夏哉くんたちの作戦は伏せておく』
そのフェイクスレッドを見ていると、いくつか予定にないスレッドあった。
「おいおい、ずいぶん効果があったみてぇだな」
佐野がそう言う。
そのスレッドには、ブラックフットの殺戮行為の画像が貼り付けられており、日本中の閲覧者から、かなり厳しく糺弾されていた。
そしてこんな夜中なのに、誰が煽動したのか、渋谷、新宿、池袋、上野、秋葉原、その五カ所で抗議集会が開かれていた。
その矛先はビッグフットジャパン。
そのせいなのか、ビッグフットジャパンへの道のりでは、ほとんど人に会う事も無く、すんなりと六本木まで足を進める事が出来た。
「……こっちは予想通り少ないな」
俺がそう言うと、三人は頷く。
ビルの角からビッグフットジャパンの入り口を見ると、前のようにブラックフットがたくさん居るわけではない。
おそらく、マンションの皆さんが流したフェイク情報に釣られ、ブラックフットの大多数が出払っているのだろう。
もしかして、抗議集会の方にも行っているかもしれない。
すると突然、ビルを警備しているブラックフットの一人が、頭を矢で射貫かれて倒れた。
「――おいおい? ありゃ即死だぞ。月明かりだけなのに中々やるなぁ? 予定とは違うけど」
佐野の声と同時に、俺と裕太は葛谷を見る。
そもそもの作戦は、俺のファイアボールでビルを攻撃し、残り少ない人員を全て外に出したあと、大手を振って潜入するというものなのだ。
「い、いや、何もしてないでござる! あ、ちょっ!? 小春ちゃんと由美先輩がっ!」
葛谷が指した方を見ると、そこにはブラックフットに奇襲をかけ、弓を持つ小春と、薙刀と持つ由美がビルへ駆け込んで行くところだった。
「あいつらっ!?」
「俺たちもいくぞっ!」
俺の声に裕太が応え、四人は走り出した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あ~あ、容赦ねぇな」
走りながら、佐野が言う。
ビッグフットジャパン本社ビルへ入った俺たちは、胸を射貫かれ、袈裟斬りで倒れたブラックフットを尻目に走っていた。
もちろん、先に居る小春と由美に追い付くためだ。
おそらく南風原は地下にいる。
先日見たあの大きな入り口の奥だ。
「裕太、小春たちは、最初からこうするつもりだったのかな?」
「どうだろうな? でも、みんな身内が殺されてるから、おとなしく待てないのも分からなくも無い」
深夜だが、ビルの中は煌々と明かりがつき、一般の避難者も大勢居る。
小春たちのおかげで、避難者たちの大多数は起きており、何事なのかと怯えた表情で見られていた。
ここを襲撃した一味だと思われているからだろう。
そして彼らは、おそらくノーマルARC装着者で、モンスターが見えない人たちだ。
俺たちは「すいません」と頭を下げながら、エレベーター前に到着した。
【距離二十メートル。刀の
「――うおっ!?」
上から降りてきたエレベーターに乗ろうとすると、中からスライムが溢れ出した。
ちらりと見ると、裕太と佐野のグローブ、葛谷の和弓は、すでに|強制複合現実化《FMR》されていた。
「ヤバいな。ここは俺が片付ける。先に行ってくれ」
佐野がかっこいい事を言い、半透明のスライムを次々と狩っている。
このタイミングで、スライム満タンのエレベーターが来るということは……。
俺たちが天井を見ると、そこには当たり前のように、防犯カメラが設置されていた。
もちろん一つだけではなく、色々な角度から不審人物を映すように、複数台ある。
つまり、このスライムは、ブラックフットが俺たちに差し向けたという事だ。
まあ、でも仕方が無い。
小春たちが突入しているのだから、このカメラを通じて、ビッグフット側は俺たちの事も知っているはずだから。
「佐野さん、頼みます!」
裕太は佐野に任せる事を即決し、エレベーターにいるスライムに攻撃をしようとした。
「待つでござる!」
すると弓を構えた葛谷が、裕太を制した。
その瞬間、俺はソイルウォールを使い、エレベータの扉を塞いだ。