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 俺たちは地下鉄の線路で、大量のスライムを狩り、レベル上げをしていた。
 そして裕太たち四人はレベル三十五になり、小春も三十一になった。

 線路の奥からは、とめどなくスライムが出てくる。
 ただ、赤くなったスライムにウオーターを何発か当てると、急激に冷えて割れてしまうので、レベル上げは単純な作業と化していた。

 ただ、俺のレベルはいまだに不明。
 だけど、裕太たちとそう変わらないはず。

「いやいや、やっぱお前の魔法はおかしいって!」

 そう思っていたけど、裕太が文句を言っている。 
 俺が意識しないでウオーターを使ってしまったことで、この線路が瞬間的に水没してしまったからだ。

 すぐに水は引いたものの、スライムが押し流されてしまい「ちょっと!? 夏哉くんの魔法、加減くらい出来ないの?」と、由美まで文句を言われてしまった。

「あ、そう言えばっ」
「夏哉先輩どうしたでござる?」
「……葛谷? きみに先輩呼ばわりされる覚えはないんだけど?」

 葛谷はどうやら、小春が気になっているらしい。
 それで俺に取り入ろうとしているが、小春は渡さん。

「小春は渡さん」
「ちょ!? どうしてそれを――!!」

 どうしてもこうしてもない。
 でも、いまはそれより気になる事がある。

「いやね、ファイアスライムがどうなったのか、誰か調べた?」

 俺がそう言うと、みんなブレインネットワークの掲示板を検索し始めた。

「他にもあるんだな」

 掲示板を見ながらそう言ったのは裕太。
 他にも、とは、タロットキャロット以外に、プロトタイプARC装着者の集団があり、様々なチーム名で活動を始めていると言う事だ。

 その中の一つ〝東京ステーションズ〟という一団が、多大な犠牲を出し、ファイアスライムに敗北。
 その結果、東京駅周辺は異世界へ転移していた。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 あれから十日、モンスターが現れて十四日が経過した。
 そして、ブラックフットが、ららぽーと豊洲を再度襲撃する事はなかった。

 しかし、都内各所でブラックフットの蛮行が行われている、というスレッドが掲示板に建ち並び、多くの人から非難されていた。
 その蛮行とは、食料品や日用品の強奪、及び暴行殺人と書込まれていた。

「ふう……やっと終わった」

 二リットルのペットボトルは、ARC改ざん水溶液で満たされている。
 その数、五十本。
 日下部さん夫妻にこれを渡し、増やし方を教えておけば、多くの人のノーマルARCをプロトタイプARCに改ざんすることが出来る。

 つまり、見えないモンスターに怯えずに済むどころか、反撃するための魔法まで使えるようになるのだ。
 まあ、反撃するか逃げるかは、当然自己判断となってくるが。

 第一目標とした「家族全員で生き残る」、その事は叶わなかったが、俺には小春がいる。
 ただ、小春はあれ以来、あまり話さなくなり、精神的に不安定になっていた。

 レベル上げの時も、あのファイアボールの連射をし、地下鉄のトンネルが崩落するのでは、と心配になるくらいだった。

 父さんと母さんを殺し、小春をこんな目に遭わせた南風原を殺す。
 こんな事を考えていたら、父さんから、家族をダシに人殺しをするんじゃ無い、と怒られるかもしれない。

 でも、この復讐だけはやらせて欲しい。

(ごめんな、父さん)

「小春、水溶液の配達に行ってくるから待ってろよ」

 そう言うと、コクコクと頷いている。
 これでようやく行動が出来る。
 そう思いながら俺は台車を押し始めた。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 本日、俺たちはビッグフットジャパンを襲撃する。

 第一目標、、南風原の殺害。
 もちろん、それが無謀だと分かった上での作戦だ。

 今回それに参加するのは、たったの四人。俺と裕太、それに佐野と葛谷だ。

 そうなるまでは紆余曲折があり、最終的に小春と井上由美が居残りとなった。
 というのも、小春はまだ精神的に安定しておらず、血生臭い現場に連れて行く事が出来ないと判断し、由美に見張りをお願いし留守番となったから。

「出発しよう」

 午前零時。マンション前に集まったメンツは首を縦に振った。
 俺は日本刀を持ち、裕太と佐野は格闘技用のオープンフィンガーグローブ付けている。

 これらは、地下鉄に潜りスライム狩りをする俺たちに「これを使えば、もっと楽になるのでは?」と、マンションの住人からもらった物だ。
 葛谷は自前で、二メートル超えの和弓を持っていた。

 そして、俺たちには、あまり時間が残されていない。
 すでに食料が付きかけているからだ。

 もちろんそれは俺たちだけではなく、マンションの住人を含め、世界規模での話だろう。
 だから今回の作戦が成功すれば、俺たちはこのマンションから出て、各々の行き場を探す事にした。

 俺と小春は、神奈川にある祖父の家を目指すつもりだ。

 しばらく歩いていると、裕太と葛谷の声が聞こえた。

「……うまくいってるみたいだな」
「で、ござるね」

 視覚操作で〝関東地区掲示板〟を開くと、ブラックフットを誘き寄せるため、フェイクスレッドがいくつか建ててあった。

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