そうか。俺だけではない。大切な人を亡くしたのは。
目の前で何故か|呆《ほう》ける四人を見てそう思った。
「裕太……」
「ああ」
裕太を見ると、眼の奥には復讐の炎が灯っていた。
その矛先は、もちろんビッグフットジャパン。
「お前は、昔から諦めが悪かったよな」
「はあ? 夏哉に言われたかねぇよ」
「これから、どうすんだ?」
「まあ、あれだ。俺はビッグフットジャパンに乗り込んで、けりを付ける」
「気が合うな。俺もそうしようと思ってたんだ」
そんな話をしていると、ディーゼルエンジンの大きな排気音が聞こえ、さっき見た装甲車が列を成してここから去っていく。
あれはブラックフットの装甲車で、南風原が今回の指揮官だったのだろう。
南風原が負傷し、それで撤退を始めたってところか。
「なあ、裕太」
「……分かってるよ。ここには居られない」
ららぽーと豊洲は一度MPKをされかけ、今回は襲撃に遭った。
ビッグフットジャパンが、ここに固執する理由は知らないが、留まればまた同じ事の繰り返しになるだろう。
だから、別の場所へ移動しなければならない。
ただ、俺の両親を含め、大勢の人々が死んでいるのを放置するわけにもいかない。
「父さんと母さんの埋葬だけでもさせて欲しい」
俺がそう言うと、全員が頷いた。
もちろん彼らの家族も埋葬する。
「夏哉くんよぉ、俺らの親を埋葬するのはいいけどよ、他に死んでる人達はどうすんだ? 俺たちで埋葬するのか? 正直言って、こんだけの人数を、俺たちだけで埋葬するなんて不可能だぞ」
確かにそうだ。ここに居た人たちは、優に千名を超えていた。
人が人を、こんなにたくさん殺せるものなのか。
今は豊洲公園に居るのでそうでもないが、中へ入るとまるで地獄のような光景が広がる。
「佐野さん、タロットキャロットのメンツも埋葬したいんだが……」
裕太の口振りからすると、おそらく生き残ったメンツはここに居る四人だけなのだろう。
「なあ裕太、俺たちはレベルアップしてるだろ?」
「ああ」
「だからさ、常人より力があるし、出来るだけ多くの人を埋葬してあげたいんだけど、その場所が無いんだよな……。だから、家族だけをこの辺りで火葬して、お墓を作ってあげようと思う」
「……そうするか」
ここに遺体を放置すれば、たぶんスライムの餌食になる。
それでどういった影響が出るのか分からない。
だけど、この状況を|鑑《かんが》みると、ベストではないが、ベターな選択肢ではあるだろう。
モンスターが現れて四日目。
俺たちは家族を失った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
遺体を集め、穴を掘っていると、いつの間にか周辺のマンションから人が集まり、俺たちを遠巻きに見ていた。
「こんにちは、|日下部《ひかべ》と申します」
「はい?」
その中の一人が俺に声をかけてきた。
「手伝わせてもらってもいいですか? 年寄りで申し訳ないけど」
「……え?」
日下部さんは、隣に奥さんを連れており、二人とも六十代だという。
そして、その後ろに大勢の人たちが集まっており、そのほとんどがノーマルARC装着者だった。
だが、彼らはこの状況を理解しており、掲示板に建てられた〝【ビッグフット】ららぽーと豊洲【大量殺戮】〟から情報を得ていた。
俺たちは、日下部さんと、周囲のマンション住人達に手伝ってもらい、全ての人々を埋葬する事が出来た。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ここは、豊洲にあるマンションの一室。
何故こんなところに居るのかというと、みんなで埋葬しているときに「空いてる部屋があるから、そこを使って下さい」と、日下部さん夫妻に声をかけられたのだ。
しかも、四階部分の五戸を無料で貸してくれるそうで、俺と小春はその中の一戸をありがたく借りる事にした。
日下部さん夫妻は、CMでよく見る凄腕の眼科医で、マンションを棟で持つ資産家だった。
日下部さんが掲示板で情報を集めていたところ、アシッドスライム戦のスレッドで俺たちの名前を知り、元々コンタクトを取る予定だったとも言っていた。
翌日、俺はブラックフットと、それに指令を与えるビッグフットジャパンが、何を目的に動いているのか調べる事にし、あーちゃんからの情報と、裕太たちのプロトタイプARCから情報を聞いていた。
当初は、自分たちが助かるために、人を殺してでも食料を奪う事が目的だと思っていたが、そうではなかった。
【ブラックフットは、アメリカにあるメインフレームからの指示で、あんな蛮行をやってるんだな?
【はい】
【まあ、……それをどうやって知ったのかは置いといて、あいつらの目的は?】
【ビッグフットジャパンにある、メインフレームとの直通端末でなければ分かりません】
【ふ~ん】
どうでもいい。
メインフレーム、つまり汎用人工知能からの指示だとしても、父さんと母さんを殺したのは南風原なのだから。