(お兄ちゃんごめんなさい。ジッとしているなんて出来なかったの)
これからわたしは南風原に復讐する。
(でもさ、これくらいの階段でへばるなんて、あり得ない)
だから、階段を軽々と
「小春ちゃん、大丈夫?」
「……へ、平気です」
やっと、七十階にあるビッグフットジャパンのフロアに辿り着き、息を整える。
でも少し様子がおかしい。
このフロアに誰も居ないってあり得るのかな。
いや当たり前なのかもしれない。
だって、もう深夜の二時過ぎだし。
「あんまり考えずに来ちゃったけど、誰も居ないね~。ここにわたし達の仇はいるのかな?」
「ええっ!? 由美さん、ここに南風原がいるって確認してないんですか?」
「えっ? だって確認のしようが無いじゃない?」
「そりゃそうだけど……」
少し早まったかもしれない。
お兄ちゃんたちは、侵入経路から居場所の推測までやっていたのに、もっとよく聞いておけば良かった。
まあでも、ここは敵の本拠地。
暴れてれば南風原も出てくると思う。
「そんなに考え込んでないで、ここから上のフロアは、シラミ潰しに見ていくよっ!」
由美さんは元気にそう言って通路を歩き始めた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七十階から八十階まで、誰も居ないオフィスを探し回り、南風原どころか誰とも会わず仕舞いだった。
しかし、八十一階は社食になっているので、深夜でも誰か居るはず。
だから、わたしと由美さんは、そのフロアを見ずに、上の階へ向かった。
そして八十八階。
『こんばんは』
「うひょっ!?」
驚いたのは由美さん。
明かりが消えたフロアに入ると、ブリキのアンドロイドが話しかけてきた。
『ここは立入り禁止です』
「そんな事知らないわ」
『どうやって入られましたか?』
「……鍵を壊してからに決まってるでしょっ!!」
由美さんはそう言って、アンドロイドを薙刀で斬った。
元々あれは竹製で、練習用のものだけど、|強制複合現実化《FMR》させると、金属に変化する。
軽くしなやかなそれは、斬ったり突いたりするのに、室内でもとても取り回しがいいと由美さんは言っていた。
わたしが持つコンパウンドボウも、元々はマンションの人にもらった竹製の和弓だったけど、|強制複合現実化《FMR》すると、こんな形に変化してしまった。
アーチェリー部では、こんな滑車が付いた弓を使う人は居ないし、公式競技ではリカーブボウが主流なのに。
もちろんコンパウンドボウに触ったのは初めて。
(だけど……これ、本当に使いやすい。リリーサーが無いから、指が千切れそうだけど……)
暗闇から現われた三体のアンドロイドが、由美さんを拘束しようと動いている。
わたしがストリングを引くと、何もない空間から矢が現われる。
そして狙い、放つ。
するとアンドロイドの一体に矢が生え、膝から崩れ落ちた。
すかさず二の矢を放ち、二体目を倒す。
「小春ちゃん、助かったよっ!」
と、最後の一体は、由美さんの薙刀が首をはね飛ばした。
しかし、突然銃声が聞こえ、わたし達はその場に伏せた。
「奥に誰か居るっぽいね」
由美さんは小声で話す。
確かに奥の方に人の気配を感じるけど、動かずこちらを探っているようだ。
「無駄よ。そこに居るのはまる見えなんだから」
女の声が聞こえると、近くにあるモニターがついた。
「これ、わたしたち?」
「あちゃー、小春ちゃん、これ拙いかも」
監視カメラの映像なのか、モニターには、わたしと由美さんが映し出されていた。
でも、わたし達も、銃の対策を考えずに来たわけじゃない。
「小春ちゃん、いける?」
「うんっ!」
私の声と同時に、連続でソイルウォールを使い、このオフィスにたくさんの壁を作る。
連続で魔法を使っているので、いくつもの壁が重なっていき、ミルフィーユみたいに分厚くなっていく。
お兄ちゃんのソイルウォールには届かないけど、わたし達もレベルアップしているのよ。
「そんな事しても、無駄よ?」
さっきと同じ女の声が聞こえると、オフィスの明かりがついた。
その瞬間、何も見えなくなり、眼が明かりに慣れる頃、わたし達二人は小銃を構えたブラックフットに取り囲まれていた。