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「おぉう、久々の筋肉痛」

 翌日の朝、九時過ぎに起きると、俺の両親は長期の海外旅行へ行くような大きな荷物をまとめ、茶を飲みながらソファーに沈みくつろいでいた。

 こんな時に何やってんだよ、と思いつつ「何その荷物?」と聞くと「昨日の夜、この辺り一帯が停電して、エレベーターが動かなくなった。だから、車で車中泊をする」と言い出した。
 泊まる先は、ららぽーと豊洲の駐車場。

 ……う~ん。うちは三十四階だし、父さんと母さんに対し、健康のため毎日階段を使おう、とは言えない。
 まあ、俺も毎日階段はやだけどね。

 そんな事を考えていると【こちらへ向かっているファイアスライムを倒して下さい】という文字が表示された。
 うちの両親は既存のARCなので、モンスターは見えないし、そんな文字情報は表示されない。

 だから俺は「とりあえず外出は待って」と言い、ジャージ姿に着替え、うちから飛び出した。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

〝関東地区掲示板〟の中で〝ファイアスライム〟で検索をすると、すでに由美がスレッドを立てており、そこでは色々な作戦が議論されていた。
 その中でも目に留まったのが、昨日のファイアボール、ウオーターに加え、風属性ウィンドカッター、土属性ソイルウォールが魔法として使えるようになり、現在試し打ち中という会話だった。

佐野『ファイアスライムは汐留から新大橋通りに入ったところだ』
由美『佐野さん、分かってるとは思うけど……』
佐野『ああ、見つからないように慎重に、だろ? 大丈夫だ』
裕太『いまどうなってる?』
由美『リーダー、おっそーい!』

 どうやら佐野さんが偵察に出ているようだ。
 他の書き込みを見ると、佐野さん以外にも数名が偵察に出ている。

裕太『すまん』
由美『いいけどさ、裕太はどんな作戦を考えてるの?』

 昨日は命がけの戦いだったというのに、ずいぶんとやる気に満ちている。
 スレッドを読んでいくと、昨日のメンツは一人も欠ける事無く、今回のファイアスライム討伐に参加するようだ。

 道路には乗り捨てられた車がたくさんあり、人通りも無く閑散としている。
 そんな中、自転車を漕ぎながら考える。

佐野『おい』
由美『?』
佐野『おいおい!? 何だか知らねぇけど、黒い制服を着た奴らがファイアスライムに攻撃を始めたぞ?』

 佐野さんの書き込みで、スレッドのログが加速する。

由美『いったい何が起こってるの?』
佐野『い、いや分かんねぇ。何なんだあいつら。ファイアスライムにウオーターで攻撃しては撤退を繰り返してるぞ?』

裕太『佐野さん、ファイアスライムはどっちに向かってます?』
佐野『あ? ああ、いま環二通りに入ったところだから、このまま行くと、築地大橋を渡る事になるな……』

裕太『俺たちは全員築地大橋前に集合して迎え撃つぞ。あの辺りは人口密集地だから、ファイアスライムが橋を渡ったらヤバい』

 そう書込んだ途端、またログが流れ始めた。
 そして俺は全力で自転車を漕ぎ始めた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 築地大橋前に到着し、メンツを確認すると全員が揃っていた。
 しばらく待機を言い渡し、築地大橋を見ていると、遠くから南下してくる黒い制服を着た一団が見え、その後ろには、こちらへ向かってくる赤黒い巨大なスライムの姿が見えた。

 楕円体のファイアスライムは、昨日のリキッドスライムと同じく、直径が四メートルくらいありそうだ。

「おいおい?」
「うっわ、やっば!」

 佐野さんと由美が声を上げる。
 視線を追うと、黒い制服の三人が、背中にファイアボールが受け、火だるまになっていた。
 映画でしか見た事が無いその光景は、燃えさかる人の形から聞こえる絶叫で、俺たちを震撼させた。

「ARC、あのファイアスライムはどこから来たんだ?」
【あれは東京駅方面のボスモンスターです】

「は? 東京駅のボスモンスター? それがここまで来てるって事は……もしかしてあいつら、命がけでMPKやってんのか!!」
【モンスター・プレイヤー・キルはゲーム用語で、この場面では適切ではありません】
「まあそりゃそうだけどよ、実際あいつらは、東京駅から築地大橋まで引っぱってきてんだろ? 意味的には変わりないと思うけどな」

 俺が音声入力で会話をしていると、仲間たち百名もARCで確認しているようだった。
 そうこうしていると、黒い制服を着た集団は、築地大橋から隅田川へ飛び込み始めた。

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