その後、首都高を降りてもヒュージアントなどモンスターの姿は見えず、閑散とした街の中をドライブとなった。
街の人達は家に籠もっているか、昨晩のうちに逃げ出したのだろう。
そのおかげで、歩いている人影は無く、自動車で移動する人達をたまに見かけるくらいで、消えた信号は全てスルーできた。
そして到着したのは百二十階建ての巨大な黒いビル。
それは六本木にあり、高さ七百メートルもあるビッグフットジャパンの本社だ。
さすがアジア圏を統括する本社ビル。バカでかくて圧倒される。
社員用の入り口には、おそらくだが、プロトタイプARC装着者が配置され、厳重に警備されていた。
整然と並ぶ黒い制服の彼らは、青みがかった小銃を持ち、まるでこうなる事を予期していたかのように見えた。
そんな場所に入れるのかな? と思ったが、父さんはビッグフットジャパンのエンジニアなので、プロトタイプARCのスキャンであっさりと通ることができた。
そして、緩やかなスロープを下りた先、到着した地下駐車場は満車になっていた。
「避難している人が多そうだ……」
「うちは入れるの?」
「……どうだろうな」
暗い表情で話す両親を見て、小春は涙目になっている。
両親のデリカシーの無さに軽く苛つきながら、俺は車を降りた。
(何だありゃ?)
駐車場の奥には、分厚そうな鉄の門が、観音開きになっており、そこから黒い制服の運転するバンが数台出入りしていた。
つまり、駐車場はこのフロアだけではなく、ここより地下にもあると言う事だ。
『いらっしゃいませ。こちらは社員用の入り口です』
「ああ、俺だ」
『網膜確認完了。プロトタイプARCとのコンタクト完了。そちらはご家族ですか?』
父さんとやり取りしているのは、アンドロイドだが、人に似せては作られていない。
両手両足は二本ずつの人型。しかし、電子音のような声に、見た目はスリムなブリキのロボット。
こうなったのには訳があるそうで、人工知能が十年前に、人間と同等以上の思考能力を発揮した時に決められたのだ。
俺たち三人も、アンドロイドに網膜スキャンと、プロトタイプARCの確認をされ、それが終わると中へ通された。
このビルは低層階、及び周辺が商業施設、中層がホテル、上層がビッグフットジャパンの本社となっており、俺たちはホテルに宿泊することになる。
ただ、うちのマンションより狭く、そこはリビング一つに寝室が二つの部屋だった。
どこで寝るのかと少々揉めたが、最終的には父さんの判断で、俺と小春、父さんと母さんを寝室に振り分けられた。
小春と一緒だと、プライベートはなくなるけど、眺めは良さそうだから我慢しよう。
……でも、よくよく考えると、こんな場所に避難できるなんてかなり運がいい。
このビルは自家発電で電気はあるし、食料と水の備蓄もかなりある。
ビッグフットジャパンの社員でない人達は、低層階の商業施設を寝床にしているそうだし、あまり贅沢なことを考えるのはよしておこう。
通された部屋から夕日と富士山が見えている。
夜中にうちを出たけど、なんだかんだでもうこんな時間になっていた。
暗くなると、外に明かりが漏れないようにするため、高層階であってもシャッターが降り、モンスターに見つからないようになっていた。
どこまで予見してこのビルを作ったのか知らないが、外が暗くなっても部屋に明かりがあることに感謝せねば。
しばらくすると食事を摂る事になり、上層階にあるビッグフットジャパンの社員食堂で夕食を済ませ、戻ってきた。
ただ、俺はずっと車で寝ていたはずなのに眠くなり、シャワーを浴びて先に寝ることにした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【周囲の環境確認】
【安全】
【アップデートを完了しました】
【デバッグモードを開始します】
【ウィルス発見】
【隔離完了】
【カウンターアタックを開始します】
【――――エラー】
【解析開始】
【エラー】
【対量子暗号アルゴリズムを発見】
【ルート権限使用】
【|超《ちょう》|特異《とくい》|同種《どうしゅ》|写像《しゃぞう》暗号の解析開始】
【――エラー】
【――――エラー】
【メインフレームとの接続を遮断します】