コンビニおもてなし、秋の新商品 その3
コンビニおもてなしチェーン店で一斉に始まった秋の新製品フェアは、好調な滑り出しです。
クエビを使ったエビチリは、思った以上にお客さんに好評でして、初日に準備した弁当があっという間に完売店が続出してしまった次第です。
本店の営業を魔王ビナスさんに任せて、僕はアルカちゃんと一緒にエビチリの追加作業を行っていった次第です。
アルカちゃんが普通味
僕が辛口味
それぞれの担当料理を頑張って作成していきます。
まだ子供のアルカちゃんでは、さすがにコンビニおもてなし全店で販売するだけの量を短時間に作成することが出来ません。
ですので、辛口の調理を終えた僕が、すぐに助っ人に加わりました。
「パパ上様、いたらぬ嫁で申し訳ないアル」
アルカちゃんは、本当に申し訳なさそうな表情を浮かべながらも、一生懸命作業を行ってくれています。
そんなアルカちゃんに、僕は、
「アルカちゃんは頑張ってくれてるよ。さ、一緒に終わらせようか」
そう言いながら、中華鍋を振っていきました。
そんな感じで、初日は都合3度も追加作業を行った次第です。
これは、各地で試食を行ってくれたアルリズドグ商会のみなさんのおかげも存分にあったと思っています。
各地にあります各コンビニおもてなし本支店ならびに出張所へと出向いてくださったアルリズドグ商会の皆さんは、揃いのエビの着ぐるみを着て
「クエビのエビチリですよ~」
「新発売ですよ~」
「よかったら試食してみてくださいね~」
「いいから食えって! 食えばわかるさ!」
各地で、目一杯試食をピーアールしてくれたんですよね。
ナカンコンベにありますコンビニおもてなし5号店では、
「むむ、試食ですって!? それはこのコンビニおもてなしの試食マスター、ルービアスに対する挑戦状ってことですね!」
と、ルービアスの試食魂に火がついてしまったらしく、5号店だけは試食配布が2人で行われていたそうなんですよね。
まぁ、そのおかげで5号店でのエビチリ弁当ならびにエビチリまんの売り上げがすごいことになっていたわけです、はい。
これを受けまして、おもてなし商会のファラさんとも相談した僕は、
「アルリズドグさん、クエビを大量に仕入れさせて頂こうと思います」
そう、アルリズドグさんにお伝えいたしました。
すると、アルリズドグさんは、
「おぉ! 心の友よ!」
歓喜の涙を流しながら、僕を抱きしめて……と、いいますか、アルリズドグさん……こ、これベアハッグ……ぎ、ギブアップっていいたいけど、それすら出来そうにないって言うか……これ以上締め上げられたら中身がでちゃう……
それほどの熱烈な感謝を伝えられたわけです、はい。
ちなみに、いろんな意味でやばかった僕は、飛んできたスアの魔法のおかげでどうにか生き延びることが出来た次第でございます……いや、マジでやばかったです……
その後、仕入れに関してファラさんと打ち合わせをしたアルリズドグさん。
「はっはっは。いやほんと、ファラ殿にはかなわんな」
そう言いながら苦笑していました。
そんなアルリズドグさんの前で、ファラさんも笑顔です。
「いえいえ、これからもこういったいいお値段でお付き合いさせてくださいね」
そう言いながら、そろばんで肩を叩いておられます。
ホント、ファラさんの仕入れ交渉術はすごいんですよね。
仕入れる時には、とことんまで値切りとばして……でも、相手に損が出ないように配慮することも忘れずにしっかりきっちり仕入れてくれています。
そのおかげで、おもてなし商会もきっちり黒字を維持し続けているんですよ。ホント、頼りになります。
「……そうなのよ、これが私の本来の姿なのよ……なのに、なんであのサワコとか言う小娘には、いいように言いくるめられてしまうのかしら……」
……気のせいか、転移ドアをくぐってナカンコンベへと戻っていかれていたファラさんが、妙に難しい顔をしながらブツブツ言っていた気がしないでもないのですが……
◇◇
この日の営業を終えたコンビニおもてなしの店内で
「て、て、て、店長さん、あ、あ、あ、あの……新商品を見て欲しいでおじゃりまする」
僕の横へ駆け寄って来たヤルメキスがそう言いながら深々と頭をさげました。
そんなヤルメキスに連れられて厨房に行ってみますと、そこには数種類の試作品が並んでいました。
ヤルメキススイーツでは、プリンの製造販売を行っていたのですが……
そこに並んでいたのは、そのプリンをアレンジした商品の数々でした。
「さ、さ、さ、最近バックリンが食材として入荷し始めましたので、そ、そ、そ、それをアレンジしてみたでおじゃりまする」
ヤルメキスが言っているバックリンとは、僕の世界で言うところの栗のことです。
以前から、このバックリンを使用したモンブランなんかを作成していたヤルメキススイーツですが、今年は、そのモンブランに加えまして……
プリンの上にモンブランクリームをのせた、モンブランプリン
プリンを中心に、甘く煮たバックリンや生クリーム・フルーツを添えたプリンアラモード
バックリンをペースト状にして餡子をくるんだバックリンまんじゅうなんかも並んでいます。
これは和風スイーツを得意にしているケロリンが作成したんでしょう。
僕は、それを一つずつ口に運んでいきました。
「うん、どれも美味しいよ、これならお店に出せるね」
そう言いながら、ヤルメキスに向かって右手の親指をグッと立てていきました。
そんな僕の合図を受けまして、
「あ、あ、あ、ありがとうでごじゃりまするうううううううう」
そう言いながら、ヤルメキスはその場で土下座をしていった次第です。
最近は、ケロリンやアルカちゃんの土下座を見慣れていた僕ですけど……気のせいでしょうか、ヤルメキスの土下座ってば、どこか神々しい……そんな気がしないでもないといいますか……これも年期の差ってやつなんでしょうかねぇ……
◇◇
そんなわけで、ヤルメキススイーツにこれらの商品が新たに加わることになりました。
僕のアドバイスで、バックリンの甘露煮なんかもラインナップに加わっています。
これとは別に、焼き栗の実演販売も行ってみることにしました。
コンビニおもてなしの倉庫の中に、焼き栗機がありますので、それをひっぱりだして来ました。
熱した石の熱で栗を焼いていき、その石を鉄の棒が回転しながら攪拌していくこの機械ですが、使ってみたところ問題なく稼働しました。
残念ながら機械が1台しかありませんので、試験的にこの機械をララコンベにありますコンビニおもてなし4号店に置いてみることにしました。
ここコンビニおもてなし4号店では、ララコンベまんじゅうを実演販売していますララデンテさんがいますからね、一緒にこの焼バックリンの実演販売もやってもらおうと思ったわけです。
最近のララコンベは、近隣に出来たオザリーナ温泉郷のおかげで来客者数がぐーんと増えていますからね。
「あぁ、まかせな! ララコンベまんじゅうも、この焼きバックリンも売りまくってやるよ!」
僕から説明を聞いたララデンテさんは満面の笑顔でそう言ってくれました。
気さくに応じてくれているララデンテさんですけど……このお方、すでに肉体がなくなっていて、今は思念体だけで存在している、僕の世界で言うところの幽霊的な存在なんですよね。
なんともはや、ここまで会話が成立して、その上頼もしいことこの上ない幽霊でしたら、いくらでもウェルカ……あ、いや、そんなに来てもらっても困るかな……
そんなわけで、本日から新たな新商品がコンビニおもてなしに並ぶことになりました。