コンビニおもてなし、秋の新商品 その4
各地のコンビニおもてなしの支店ならびに出張所に、秋の新商品が並んでいきました。
もちろん、僕が店長を務めていますコンビニおもてなし本店も例外ではありません。
今日も店の中ではアルリズドグさんがエビの着ぐるみを着て販促を行ってくださっています。
……ただ、アルリズドグさんってば、結構大柄なんですよね。
そのため、弁当コーナーの真横で販促をされますと、弁当コーナーの脇にあります飲み物コーナーを完全に塞いでしまっているんです。
……う~ん、このままじゃ、弁当と一緒に飲み物を買おうと思ってくださっているお客さんの邪魔だなぁ
レジの中からその光景を見つめていた僕はそんな事を考えていました。
すると
僕の足下にスアが出現しました。
転移魔法でそこに出現したスアは、僕に向かって、
「……まかせ、て」
そう言うと、アルリズドグさんに水晶樹の杖を向けていきました。
すると……なんということでしょう……って、あれ?
なんか……見た目全然何にも変わっていないような……
僕の視線の先では、アルリズドグさんが相変わらず
「さぁ食え! ほら食え! もっと食え!」
そんな台詞を口にしながら笑顔で試食を配り続けています。
その様子に変わった感じはありません。
その周囲の棚にも、別段変化はありません。
ですが……
よく見ていると、そんなアルリズドグさんの周囲で変な事が起き始めていたのです。
弁当を購入なさったお客さんが、アルリズドグさんの後ろに回り、飲み物を手に取られているのです。
アルリズドグさんは全く動いていません。
そのため、飲み物コーナーを完全に塞いでいるはずなんです。
ですが、お客さん達は、スアが魔法を展開して以後、普通に飲み物を手にとられているではありませんか……
僕は、店内に設置してある防犯カメラの映像に視線を向けました。
これ、レジ下に配置してありまして、店内の死角部分をチェック出来るようになっています。
僕が元いた世界に、コンビニおもてなし本店の店舗があった頃から設置してあったこのカメラは、屋上に設置してあります太陽光発電システムによって発電されています電気を使用して稼働しているのですが……
その画像に写っているアルリズドグさんを見た僕は、思わず目が点になってしまいました。
その画像は、アルリズドグさんを真横から写しているのですが……そこに写っているアルリズドグさんってば、ペラッペラなんですよ。
例えるなら、紙相撲のお相撲さんとでもいいますか……体の厚みがまったくなくなっているんです。
真正面からみれば、普通のアルリズドグさんですが、横に回れば厚みがないため、先ほどまでその体によって隠されていた飲み物コーナーがはっきり見えるようになっていたのです。
おそらく、これがスアの魔法だったのでしょう。
「スア、ありがとう。助かったよ」
僕は、小声でそう言いながらスアに向かって親指をたてながら笑顔で向けました。
そんな僕に、スアも笑顔で親指をグッと立てていた次第です。
◇◇
今日のコンビニおもてなしは、弁当コーナーよりも、スイーツコーナーが大人気です。
何しろ今日から秋のヤルメキススイーツが並んでいるわけですからね。
朝一から多くのお客さんがヤルメキススイーツコーナーを見つめておられたのですが……
はい、やはりおられました……オルモーリのおばちゃまです。
開店して間もないというのに、オルモーリのおばちゃまはヤルメキススイーツのコーナーを囲んでおられるお客さまの列に、普通に混ざっておられます。
「まぁまぁ、ヤルちゃまの新作ってば、どれも美味しそうねぇ」
オルモーリのおばちゃまは満面の笑顔でそう言いながら商品をカゴにいれています。
その動きには、一切の迷いもよどみもありません。
そんなオルモーリのおばちゃまの動きに触発されてか、どれを買おうか迷っておられたお客様の多くが
「そうね、秋の新商品なんだし全部買うのが当然よね」
「確かに……どれも美味しそうなんだもん……全部食べてから考えればいいわ」
そんな事を口になさりながら、ヤルメキススイーツの新商品を、オルモーリのおばちゃまと同じように全商品買い物カゴにつめていった次第です、はい。
オルモーリのおばちゃまは、ヤルメキスの義理のおばあさんなわけですし、ヤルメキスが
「わ、わ、わ、わざわざお店にお越しくださらなくても、わ、わ、わ、私が持って帰るでごじゃりまするのに」
いつもそう言っているそうなのですが、オルモーリのおばちゃまは、
「いつもお店で頑張っているヤルちゃまの商品でしょ? お店に買いにいかないとね、おばちゃま、ヤルちゃまに失礼だと思うのよね」
笑顔でそう言われるんだそうです。
オルモーリのおばちゃまは、いつもそんな感じです。
ヤルメキスがパラランサくんと結婚する前からヤルメキススイーツを気に入ってくださって、お友達の皆様にも積極的に宣伝してくれていたんですよね。
ある意味、ヤルメキススイーツがここまで急成長していった影の立役者と言っても過言ではないと思っています。
先日オープンしたばかりのオザリーナ温泉郷も、興味を持って遊びに行ってくださったオルモーリのおばちゃまが、あちこちで「とってもよかったわ」そう喧伝してくださったおかげで、想定外の速さでお客様が殺到しましたしね。
もっとも、オザリーナ温泉郷のみんなも頑張っていたからこそ、オルモーリのおばちゃまに気に入ってもらえたわけだし、頑張っているからこそお試しで来てくださったお客さん達が常連さんになっているわけですし、そのおかげでオザリーナ温泉郷が右肩上がりで急成長し続けているわけです、はい。
これだけ、コンビニおもてなしやその関連施設に貢献してくださっているにも関わらず、オルモーリのおばちゃまは決してえらそうにしないし、特別扱いの強要もなさいません。
いつもお客さんの列に、お客さんとして並んでくださり、ニコニコ笑いながら自分の順番をお待ちくださるのです。
僕がお礼を言っても、オルモーリのおばちゃまは
「いえいえ店長さん。むしろこんな素敵なサービスや商品を提供していただけて、こちらがお礼を申し上げないといけないと、おばちゃま、思っているのよ」
そう言いながら笑ってくださるばかりなんですよね。
ホントに、ありがたい次第です。
そんなオルモーリのおばちゃまの後方支援もございまして、本日のヤルメキススイーツも新商品を中心に絶好調です。
アルリズドグさんやその部下の皆様が頑張ってくださっているクエビ関連商品も、昨日以上の売り上げを記録しています。
レジ横の中華まんも、ついでで購入してくださるお客さんが非常に多く、支店から追加補充の依頼が殺到していました。
そんなわけで、コンビニおもてなし秋の新商品フェアは、2日目も大盛況だった次第です。
◇◇
「いやぁ、今日も頑張ったなぁ」
その夜、お風呂に入りながら僕はそんな声をあげていました。
肉体的には疲れていますけど、心の中は充実感でいっぱいです。
すると、一緒にお風呂に入っているパラナミオが、
「パパ、今日もお疲れさまでした。肩をもんであげます!」
そう言いながら、湯船につかっている僕の横から右肩をもみ始めてくれました。
すると、その左側で湯船につかっていたリョータが、
「じゃあ、左肩は僕がもんであげます!」
そう言いながら、僕の左肩に手を伸ばしてくれました。
そんな2人に続きまして、
「では、私は右足を」
と、アルトが
「ムツキは左足ニャし!」
と、ムツキが、
「で、では、アルカは頭を担当するアル」
そう言いながら、アルカちゃんが背後から頭をもんでくれました。
アルカちゃんだけは、体にバスタオルを巻き付けています。
あ、僕も下半身にはタオルを巻いていますからね、もちろん。
そんなみんなにマッサージされながら、僕は
「みんなありがとう。とっても気持ちいいよ」
笑顔でそう言いました。
すると、そんな僕の真正面に転移魔法で出現したスアが、
『……私は、あとで、ね』
思念波でそう伝えてきました。
と、まぁ、そんなわけで、みんなに癒やしてもらえて元気満々な僕だったわけです、はい。
さぁ、今日も頑張らないと。