61章 餅まき
アカネは空を飛ぶ仕事にやってきた。
空を飛んでいるところをみたいのか、多くの観客が集まっていた。ざっくりといって、10000人はいるのではなかろうか。治療魔法を見せたときよりも、人数は明らかに多かった。
観客の割合は、大人6、子供が4くらいだった。大人の人数が上回っているのは、意外な印象を受ける。ショーのようなもののは、子供に好まれるイメージがある。
年齢層は3歳くらいの子供から、90を超えるのではないかという高齢者まで集まっていた。幅広い年齢層が、空を飛ぶところに興味関心を持っているようだ。
男女比は女性の割合が多いかな。この街においては、女性の方が空を飛ぶことに興味を持っているのかもしれない。
アカネが登場すると、観客は大いに盛り上がることとなる。平和なところに、一ヵ所だけ地響きが鳴っているかのようだった。
「アカネ様・・・・・・」
「アカネ様・・・・・・」
「アカネ様・・・・・・」
「アカネ様・・・・・・」
「様」ではなく、「さん」づけにしてくれるとありがたい。庶民の生活を送っていたからか、
「様」と呼ばれるのは抵抗が大きい。
マツリが集まった観客に対して、挨拶をしていた。
「本日は会場にお集まりいただきまして、ありがとうございます。アカネさんが皆様の前で、空を飛ぶところを披露します」
空を飛ぶところを見られるとあってか、会場は異様な熱気に包まれることになった。
「アカネさん、空を飛んでください」
「はい」
アカネは身体を浮かすと、会場内は大きな歓声が沸いた。
「おお、すごい」
「スーパーマンだ」
純粋な疑問も口にする者もいた。
「どうやって飛んでいるんだろう」
「人間が空を飛べるなんて思わなかった」
一定の高度になったところで、マツリから声をかけられる。
「アカネさん、空中バックテンをしてください」
「はい」
空気抵抗が小さいからか、地上よりもスムーズにバックテンをすることができた。
会場内は大きな拍手に包まれていた。自分が褒められているのかと思うと、おおいに照れてし
まった。
「アカネさん、空中を移動してください」
○○マンになった気持ちで、空中を移動する。地上を歩いているときとは異なる、快適さを感じることとなった。
「アカネさん、空中で眠ってください」
宙に浮いている状態で、人間は眠ることはできるのかな。アカネはそのようなことを考えてしまった。
ゆっくりと瞼を閉じるも、すぐに眠るのは厳しそうだ。
アカネは眠れないというのを伝えるために、手で×のポーズを作った。
「アカネさんは身体と心が充実しているので、睡眠は難しそうですね」
会場内は元気な笑いに包まれることとなった。
「アカネさん、ここにあるリンゴを空中に浮かせてもらえますか?」
「はい、わかりました」
アカネが魔法を使うと、リンゴは宙に浮くこととなった。観客はおおいにどよめいたあと、大きな拍手をしていた。
「アカネ様、すごい」
「リンゴが宙に浮くところは初めて見た」
万有引力の法則からすれば、リンゴが宙に浮くのはあり得ない。アカネの魔法だからこそ、なしえる技である。
「オレンジ、バナナ、キウイを宙に浮かせてください」
アカネは魔法を使用して、次々と宙に浮かせていく。果物が空中を舞っているところを見ると、テレビの画面さながらに感じられた。
観客の視線は空中に浮いている、4種類の果物に集まっている。
「アカネさん、果物を元に戻してください」
「わかりました」
宙に浮かせていた果物に魔法をかけると、ゆったりとしたスピードで元の場所に納まっていった。
「アカネさん。ありがとうございます」
果物を空中に浮かせるのは楽しかった。時間があれば、家においてもやってみたい。
次はどんなことをするのかなと思っていると、段ボール箱のようなものが登場することとなった。
「アカネさん、空中で段ボールに入っている餅を撒いてください」
段ボールの中身は餅だったのか。肉や魚などが入っているのかと思っていた。
アカネは段ボール箱を宙に浮かせる。モノを自由に浮かせるのは、とても楽しかった。
「餅を拾うと、一等から六等の景品が当たることもありますよ。一等はセカンド牛300グラムですので、一生懸命拾いましょうね」
セカンド牛が景品であると知った直後に、会場は大いに盛り上がることとなった。こちらの世界では、肉を食べる機会はないのかな。
「アカネさん、高度を下げてください」
高い位置でまいてしまうと、餅を拾いにくくなる。アカネは高さを調節することにした。
「それくらいで大丈夫ですよ」
アカネは段ボールの中身を開封する。中には結構な数の餅が入っていた。2000個くらいはあるのではなかろうか。
「これから餅撒き大会をスタートします」
拾う立場ならよかったのに、と思いながら餅を撒くことにした。均等にいきわたるよう、魔法で量を調節する。子供が拾いやすいよう、スピードについても調整した。
「セカンドライフの住民」は、餅を必死に拾い集めていた。その様子を見ていると、自分の子供時代を思い出すかのようだった。景品欲しさに、一生懸命拾っていた。
夢中で撒いていたからか、段ボールの中にある餅はすぐになくなった。アカネはそのことを残念に思わずにはいられなかった。
地上では餅を拾えたことを喜んでいる者、餅を拾えなくて悲しんでいる者がいた。全員分の餅はないので、これについては致し方ないといったところかな。参加者の数に対して、餅の数があ
っていないのが原因だ。
「アカネさんに盛大な拍手をおおくりください」
会場は溢れんばかりの拍手で包まれる。大人はやや静かに、子供は大きく叩いているのが印象的だった。