第四話
「アンさんは、頑張りすぎです」
有無を言わさず荷物を奪われた女子寮までの道のり。コリンはわたしを叱った。
「寝る間も惜しんで練習していますよね? 隈、すごいですよ」
「だ、だって……、クラスのみんなが頑張ってるのに、主役のわたしが大根役者なんて……」
「アンさんは大根じゃありませんよ。マークくんが上手すぎるだけです」
暗くなった自然の中、寮へと続く舗装された道を歩く。わたしより歩幅の大きいはずのコリンが、わたしを置いて先を進むことはない。
「でも……」
「でもじゃないです。それで、『成長止め』の症状がぶり返していますよね? さっきの過呼吸を忘れたんですか。今日はもう練習しないで、さっさと寝てくださいね」
どっちが大人なんだか分からない。わたしは蚊の鳴くような声で返事をした。コリンに聞こえているかは定かではない。
女子寮に到着して、コリンは荷物をやっと返してくれた。コリンは何度も振り返りながら、男子寮へと帰って行った。
……情けない。
マークに差をつけられて、デリックに心配されて、ノアにダメ出しされて、コリンに助けられて。
本当にわたしは二十六歳なんだろうか──『大人』なんだろうか。
「【リカバリー】」
水属性魔法【リカバリー】を唱えた。回復魔法だ。これで、多少は目の下の隈も薄くなっただろう。もっとも、『成長止め』は魔法では治らないが。
……こんなんじゃ、ダメだ。
爪が手のひらに食い込むほど、強く拳を握りしめる。
わたしはもっともっと、頑張らないと、いけないんだ。
だって、わたしは──立派な大人なんだもの。