第五話
「元男子校なんて、聞いてないわ……!」
入学式前に、指定されたクラスに入ってわたしは驚愕した──わたし以外、全員男子生徒だったのだ。なんと、あのクソガキも同じクラス。席が離れているのが不幸中の幸いである。
同性なら楽勝で家に連れて行けると思ったのに……!
歳の離れた異性との接し方なんて知らない。コリンのように幼少期からの付き合いがあり、身分関係がはっきりしている人間としか触れ合ってこなかった。
十も年下の男の子と、どうやって友達になれって言うのよ……!?
愕然としつつも、黒板に示されていた自分の座席に座る──すぐに担任教諭が入ってきた。
担任による軽い挨拶が行われた後に、入学式が行われるホールに向かう。ホールは見渡す限り、ほぼ男子生徒だ。女子生徒は数えられるほどしかいない──元男子校だけあって、さすがの男女比だ。絶望する。
ふわふわした座席に座って、退屈な入学式を眺める──新入生代表挨拶のアナウンスと共に、今朝のクソガキが登壇した。
「あっ」
思わず声を上げてしまった。それを隣に座っていたクラスメイトの男子が聞きつけたのか、
「どうしたの? 知り合い?」
優しい声色。ふわふわした髪と、その髪色と同じ明るい茶色の瞳。少しダボッとした制服。コリンほど幼い雰囲気はないが、人懐っこそうで中性的な男子が、こちらを不思議そうに見ていた。
「ちょっと朝、彼とバトって……」
わたしはひそひそ声で事情を説明する。可愛らしい外見のクラスメイトは、ぷっと小さく吹き出した。吹き出し方も可愛らしい。
「バトったの? あの人、理事長の息子だよ、すごいね〜」
それを聞いて、クソガキの横柄な態度に納得がいった。
……だから「俺に逆らわない方がいい」とか言ってたのか。
親の権力で、お前なんてどうとでもできるんだぞ、という脅しのつもりで。
──くだらない。
「……理事長の息子って言っても、ただ親が権力を持ってるだけの子どもでしょ」
──自分でお金を稼いだこともないくせに。
わたしの呟きに、クラスメイトは、そのくりりとした目をさらに大きくした後、
「……へぇ〜。随分、大人びたこと言うね。本当に同い年?」
興味深そうに聞いてきた──またやっちゃった、とわたしは脳内で自分を叱る。
「や、やだな〜、同い年に決まってるじゃない」
「ふーん……」
彼はそれ以上追求してこなかった。その代わり、右手が差し出される。
「ボクの名前はノア。キミ、クラスで唯一の女子だよね? よろしく」
「……アンよ。こちらこそ、よろしく」
握手をしながら見つめてくるノアの視線は、秘密を見透かされそうで、どことなく居心地が悪かった。