バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第三話

「か、可愛い……!」
 既に通学の話が通っているメイドに持ってきてもらった制服は、あまりにも可愛らしすぎて──二十歳を過ぎて諦めたわたし好みのデザインそのものだった。
 セーラー襟に、大きなリボン。フリルのついた膝上のスカート。スカート丈は短いけれどペチコートを履くので、下着が見える心配はない。紺色の生地に襟やプリーツに沿ってあしらわれている白のストライプが映えている。おまけに指定の靴はニーハイブーツ。
 つまり、おおよそ十代の女子にしか着用が許されないデザインなのである。
 なぜ世間知らずのわたしが服装の適齢を知っているかと言うと──わたしが二十歳の時に遡る。
 魔法の研究に明け暮れる傍ら、間違えて購入してしまった流行の服飾雑誌を手に入れた。そこに書かれていた『二十代が着ると痛々しく見える服十選』という記事──それらは、まさにわたしが好んで着ていた服のデザインたちだったのである。
 わたしは慌てて、それらの服に別れを告げた。もしかしたら大好きな使用人たちにも「痛い」と思われていたのではないかと怖くなったのだ。
 短い丈のプリーツスカート、膝上のロングブーツ、大きなリボンやフリル──わたしが大好きで、それでも諦めた「可愛い」が、魔法学校の制服には詰め込まれていた。
「お嬢様、お似合いですよ!」
 姿見の前で感動するわたしの隣に、コリンが駆け寄ってくる。その反対側で、制服を持ってきてくれたメイドがニコニコと頷く。
「ほ、本当? 痛くない? 似合ってる?」
「イタイ……? 意味はよく分かりませんが、本当に似合ってます!」
 素敵ですよ、とダメ押しにコリンが笑う。
 わたしはコリンから全身鏡に映る自分に視線を移す。
 本来十代が着用する制服でも、見た目に違和感がないのは、わたしの病気も理由の一つだ。
 わたしが学校に通えなかった理由でもある先天性の病、『成長止め』──年齢に対して見た目と体力の成長が恐ろしく遅いのだ。二十六歳のわたしだが、見た目は十六歳ほど。体力に至っては十歳程度だ、と医者から診断を受けている。
 見た目が若いのは不幸中の幸いと言えるだろうが──問題は体力だ。それをカバーするためのお付きのもののコリンなんだろう。わたしが限度を超えた無茶や無理をしないように、見張るため。
 もう戻れないと思った「可愛い」に再び触れることができ、さらに持病をフォローしてくれるコリンもいる……。
 ……ほんの三年間だけ、なら……。
「……コリン」
「はい、お嬢様」
「……わたし、魔法学校に入学するわ」
「……! はい!」
 花が咲いたように、心底嬉しそうに返事をするコリン。
 コリンの、こういう喜怒哀楽を素直に表現できるところが、わたしは好きなのだと再確認した。

しおり