コンビニおもてなし6号店とオザリーナ温泉郷 その4
その夜、シャラ達のステージを拝見させてもらいました。
会場は、それなりのお客さんで埋まっています。
まぁ、そのお客さんはオザリーナ温泉郷内で工事を行っていたルア達ルア工房の面々と、このオザリーナ温泉郷にお店を出すために集まってこらている商会や商店の皆様ばかりなんですけどね。
そんな一同を前にして、まずシャラがステージの中央に立ちました。
シャラは、日中着ていた少し痛み気味な服装ではなく、とてもきらびやかな衣装をその身にまとっています。
「今日はアタシ達のステージに集まってくれてどうもありがと~。アタシ達の踊りをしっかり満喫して、ついでにお酒と料理も満喫してってね」
そう言うと、シャラはお客さんに向かってウインクしていきました。
そんなシャラに
「おぉ! いいぞいいぞ!」
と、ルアが一番の歓声をあげています。
……お酒を飲むときのルアっておもいっきりオヤジになるんですよね、ホント……
で、そんなルアや僕達の前で、シャラは達のステージが始まっていきました。
ステージの端では、吟遊詩人のレイレイが、どこか中国風な衣装を身につけて、ミニハープのような楽器を弾きながら歌を歌っていきます。
その歌に合わせて、シャラ達が舞いを舞っていきます。
その舞いはなかなかなものでした。
シャラの舞いがダントツで上手くてですね、思わず目を奪われてしまった次第です。
他のメンバーは、シャラほど踊りが上手くはないのですが、シャラの後方でシャラをもり立てるような集団ダンスに終始していまして、それが、いい感じにシャラの踊りを盛り上げているのです。
僕の世界で例えるなら、宝塚歌劇団の小型版とでもいいましょうか。
レイレイの歌と演奏もかなりのものです。
時に激しく、時に楽しく、時に艶やかに……
魔法拡声器などを使っていないのですが、その歌声は会場中に響いています。
それに、演奏が綺麗にからまっていく感じですね。
そんなレイレイに負けじとシャラ達も踊りを繰り広げ……
そんなステージを見ながら、ルア達は楽しそうに酒を飲み、料理を食べています。
会場内では、点心を運ぶような押し車を、シャラの仲間が押して回っています。
その押し車の中に、料理やお酒が乗っているんです。
つまり、お客さんは席に座っているだけで料理や酒が回ってくる仕組みになっているわけです。
「へぇ、なかなか考えているなぁ」
僕は感心しながらその押し車や、ステージを見つめていました。
なかなかではあるのですが……問題点がまったくないわけではありません。
まず、みんなの身なりです。
普段着よりは豪奢な衣装ではあるのですが……やはり経年劣化といいますか、長年使っているのでしょうね、かなりくたびれているのがよくわかります。
あと、顔にしている化粧もいまいちな感じです。
これは、使っている化粧品がいまいちなのでしょう。
ついでに言うと、髪型もですね、衣装に合わせてそれなりに盛り盛りな感じになっていたのですが、踊っている間にどんどん崩れていっています。
これは、しっかり髪を結える人がいないんでしょうね。
また、その背後の舞台もややくたびれているといいますか……やはり簡易式のステージだけあって少々安っぽい感じがぬぐえません。
さらに、料理もですね……品数はあるのですが、干した果物や、干したお肉などの、保存食がメインです。
これは、移動しながら営業していたため、どこででも出せるように仕方なくそうなったのと、踊りを見ながら食べやすいように配慮された結果なのでしょう。
何しろこの会場の席は全席座椅子風の椅子ですので、床の上に座っているのと変わりがありません。そのため、お酒や食べ物をすべて膝の上に置いたトレーの上で食べないといけないわけですからね。
僕は、シャラ達のステージを見つめながらそんなことを考えていました。
◇◇
「どう?どう?結構すごかったでしょ!」
ステージが一段落したところで、シャラが僕のところへ駆け寄って来ました。
「うん、確かになかなかなものだったよ、たださ……」
ここで僕は、踊りの最中に気になったことをシャラ達に伝えていきました。
どうやらシャラ達も、僕が指摘した事に気が付いていたようでして、
「あはは……すごいな店長ちゃんってば……1回のステージでそこまでわかっちゃうなんて」
そう言いながら、苦笑していた次第です。
すると、そんな僕達のところにルアが歩み寄ってきました。
「店長、そのステージの件だけどさ、アタシ達が改装してやるよ」
「ほ、ほんとですか!?……あ、で、でも私達、そんなにお金が……」
「なぁに、ルア工房の関係者の入場料を少々サービスしてくれればそれでいいよ」
ルアは、笑いながらそう言いました。
すると、シャラ達はぱぁっと顔を輝かせながら
「「「よろしくお願いします!」」」
おじぎし、一斉に声をあげていきました。
……さて、後は他のことですね……
まず衣装に関してはテトテ集落の皆さんに相談してみようと思います。
テトテ集落の皆さんは、ルシクコンベから仕入れている布を使用して子供服を中心にあれこれ作成なさっていますからね、シャラ達の踊り用の衣装を新調することも可能でしょう。
化粧と髪に関しては、ナカンコンベのマクローコに相談してみようと思っています。
マクローコは美容室を経営していまして、主にナカンコンベの風俗街のお姉さん達の化粧や髪の毛の手入れを行っています。
コンビニおもてなしで生成していますクキミ化粧品を使っていますので化粧品の質もばっちりですし、何よりマクローコの腕前がピカイチですからね。
料理に関しては、コンビニおもてなしが提供させてもらおうかと思っています。
点心スタイルで提供されていますので、肉まんや春巻き、餃子やシューマイなどの点心料理を提供しまして、押し車で配布するスタイルにしてもらったらどうかな、と思った次第です。
矢継ぎ早に話を進めていく僕。
それをシャラ達は目を丸くしながら、何度も頷きつつ聞き続けています。
「あの……そこまで出来るとホントにありがたいのですけど……その……私達にはお金が」
シャラ達は、再び顔を曇らせた次第です。
そこで、まぁ、僕が考えたのがコンビニおもてなしの宣伝看板を出させてもらうことでした。
「宣伝看板?」
「うん、ステージの端に、衣装・料理提供コンビニおもてなし、髪結い・化粧担当マクローコ美容室って看板をださせてもらってさ、その宣伝料と相殺させてもらう方法でどうかな、と思ってるんだ。ついでに、劇の最初か最後に、シャラ達が『衣装提供はコンビニおもてなし』とか言って宣伝してくれれば……」
僕がそう言うと、シャラ達は
「そ、そんなことでいいのでしたら、ぜひぜひさせてください!いくらでもやりますよ!」
そう言いながら何度も頷いていた次第です。
そんなシャラ達の背後では、
「あ、あれ?……お金の御用事の気配が消えた?」
「お呼びじゃなくなったみたいですね~……」
いつの間にか出現していた魔女魔法信用金庫のポリロナとマリライアが、しょぼんとしながらすごすごと転移ドアで帰って行く姿が確認出来ました。
……どうやら、シャラ達に貸し付ける気満々だったようですね。
まぁ、実際のところ宣伝と相殺っていうのは方便といいますか、表向き対等取引をしたことにしただけです。
こうしておけばシャラ達も気兼ねなく僕の申し出を受けることが出来るでしょうしね。
ただ、料理代とマクローコ美容室の利用料は、ある程度軌道に乗ったらきっちり支払ってもらうつもりですけどね。
そんなわけで、シャラ達の移動酒場のグレードアップ計画がスタートした次第です。
はてさて、この後どうなっていきますか……