コンビニおもてなし6号店とオザリーナ温泉郷 その3
それぞれの部屋に入って寝入ったシャラ達と入れ替わるように、温泉宿の裏に建築されている役場兼商店街組合の建物からオザリーナが姿を見せました。
オザリーナ温泉郷の責任者であるオザリーナは、彼女の元メイドである従業員達と一緒にこの建物の中に住んでいます。
地上3階地下2階の石造建築のこの建物ですが、
地下は倉庫
1階が商店街組合
2階が役場
3階がオザリーナ達の居住施設
と、このような構造になっています。
オザリーナは、当面、
オザリーナ商会の会長
オザリーナ温泉郷の責任者
オザリーナ商店街組合の代表
オザリーナ温泉宿の女将
と、一人四役こなす予定になっています。
今はまだ規模が小さいオザリーナ温泉郷ですので、まぁ、オザリーナ1人でも十分こなせるだろうってことでこの体制になっているんですけど、この体制はオザリーナ温泉郷が大きくなったら他の人に替わってもらう方向で考えています。
とはいえ、現時点では人材不足甚だしいオザリーナ温泉郷ですので、今のところ適任者がまったくいないわけです。これも今後の課題ですね。
と、まぁ、そんな状況の中、姿を見せたオザリーナは周囲を見回しながら目を丸くしていました。
そりゃそうですよね。
昨日の夜まで閑散としていたオザリーナ温泉郷の中がいきなり活気に満ちあふれているんですから。
そんなオザリーナと、ちょうどコンビニおもてなし6号店の中にある転移ドアをくぐって姿を見せたルアとお弟子さん達も呼び寄せた僕は、今朝から今にかけての状況を説明していきました。
僕の言葉を聞いたオザリーナは、
「で……では、この皆さんは全て、このオザリーナ温泉郷にお店を出してくださる……」
「あぁ、そうだよ」
僕の言葉を聞いたオザリーナは、感極まった表情をその顔に浮かべながら、
「こ、これで勝つる!」
右手の拳を握りしめながら力強くそう言われました。
で
ルアには、ドンタコスゥコや、彼女が連れて来てくれた商会・店舗の皆さんと打ち合わせをしてもらうことにしました。
ルア達は、このオザリーナ温泉郷で建物造成工事の真っ最中ですからね。
「ついでだしな、任せとけ」
ルアはそう言いながら、ドンタコスゥコを中心にしてオザリーナ温泉郷内を歩いて回っている一団の方へ向かって駆け出していきました。
◇◇
ルアと、ドンタコスゥコ達の話し合いの結果、このオザリーナ温泉郷内に作成する皆様の店舗建物に関してはすべてルア達ルア工房が請け負うことに決定しました。
ルア工房は、以前は辺境の辺境にあるド田舎の辺境都市と言っても過言ではない辺境都市ガタコンベに店を構えている小規模な工房に過ぎませんでした。
それが、コンビニおもてなしで使用する弁当入れなどコンビニおもてなし関連の資材を作成し、コンビニおもてなし関連の施設をあちこちで施工していくうちに、今ではかなり有名かつ大規模な工房になっている次第です、
これには、ナカンコンベへ支店を出したことも大きく関係しています。
ナカンコンベには、ブラコンベを中心とした辺境都市連合全ての都市の人口を合わせた総人口よりも多くの人々が暮らしています。
ルアはそこに支店を構えて、ナカンコンベの公共事業なども頻繁にこなしているのですが、
早い・安い・堅実
として、ナカンコンベでも頭角を現し始めているほどなんです。
そんなもんですから、ドンタコスゥコ達も当然ルア工房はご存じでして、
「じゃあ、この温泉郷の建築工事はあのルア工房が請け負っているってのか!?」
「あのナカンコンベで有名な!?」
話し合いの最中にも、皆さんは口々に感嘆の声をあげながら、ルア達を見つめていました。
そんな皆さんの視線の先で、ルアは
「いやぁ……それほどでも」
と、照れ笑いを浮かべながら恐縮しきりの様子でした。
ルアによりますと、
「そうだな、ルア工房総動員で作業にかかるから、長く見積もって1週間ってとこだな。全部の建物が出来上がるまでに」
とのことでした。
で
それを聞いた僕は、チュパチャップとも相談した結果、今日からコンビニおもてなし6号店を開店することにいたしました。
ルアから、すでに建物が出来ているとの報告を受けていまして、このあと引き渡しを行う予定になっておりますので、オープンはその後ということになります。
これは、
ここに住んでいるオザリーナ達
ここで工事を行っているルア達ルア工房のみんな
ここでお店を開くことになっているシャラをはじめとした商店・商会のみなさん
こういった方々を相手として営業を行おうと考えたからなんです。
これぐらいの少人数相手にお店を始めていけば、新店舗を任されたみんなも慣れやすいだろうと考えた次第です。
特に、今回は新人が約半数いますし、店長のチュパチャップも新人店長ですからね。
でもまぁ、みんなしっかり研修もこなしていたし、問題なく営業も行っていけるんじゃあ……
「きゃあ、またすっころんじゃったぁ」
「きゃあ!? またスカートを引き釣り降ろさないでくださぁい」
……なんか、アレーナさんがすっころんで、チュパチャップのスカートを引き下ろす光景がすっかりお馴染みになりつつあるんですけど……いや、これは由々しき事態ですよね、実際のところ……
これに関しては、何か手を考えないとと思いつつ……何もないところで転びまくっているアレーナさんをどうしたらいいのやら……
◇◇
こうして、コンビニおもてなし6号店が開店した次第です。
なし崩しだった上に、お客さんが限られている中での開店でしたので、ナカンコンベにあります5号店が開店した際のようにいきなり大盛況とはいきませんでしたけど、このオザリーナ温泉郷で作業なさっておられるほぼ全ての皆様がご利用くださったものですから、少ないながらもそれなりの売り上げを記録出来た次第です。
「まだまだです、頑張ります」
今日の営業を終えた店内で、僕に今日の報告をしてくれたチュパチャップは、そう言いながら両手でガッツポーズを作っていました。
チュパチャップと閉店した店内であれこれ話を続けていると、そんなコンビニおもてなし6号店にシャラがやってきました。
「あ、店長ちゃん、よかったらアタシ達の踊りステージも見に来てよ。アタシ達も今夜から営業を開始するんだ」
そう言いながら、シャラは笑顔を浮かべています。
「へぇ、そうなんだ」
「うん、コンビニおもてなしさんもオープンしたし、負けてられないと思ってさ」
「そうだね、一緒に頑張って行きたいね」
僕とシャラがそんな会話をしていると、そこにチュパチャップが笑顔で割り込んできました。
「シャラさん、私、このコンビニおもてなし6号店の店長のチュパチャップです。よろしくお願いいたします」
そう言って右手を差し出すチュパチャップ。
シャラも笑顔でその手を握り返しました。
「アタシ、シャラ&レイレイ移動酒場のシャラ。こちらこそよろしく」
笑顔で握手を交わし合う2人。
僕もまた、笑顔でその2人を見つめていた次第です。
こうして、若い人達が切磋琢磨しながら頑張ってくれたら、きっとこのオザリーナ温泉郷もうまくいく……そう思っていた次第です、はい。