コンビニおもてなし6号店とオザリーナ温泉郷 その5
コンビニおもてなし6号店オープンから1週間が経過しました。
「さぁ、全部出来上がったぜ」
オザリーナ温泉郷役場の前で、満面の笑顔のルアがドヤ顔でそう言いました。
その言葉通り、周囲を見回しますと石造りの街並みがすっかり出来上がっています。
少し前まで、この一帯がただの荒れ地だったとはとても思えません。
オザリーナは周囲を見回しながら
「ホントにもう、なんとお礼を申し上げればよろしいのやら……」
滝のような涙を流し続けています。
そんなオザリーナの肩をポンと叩いたルアは、
「何言ってんだ。お礼はこの温泉郷の経営を軌道にのせてからにしてくれって、な」
そう言いながらニカっと笑いました。
その言葉に、オザリーナは何度も頷き返しています。
ルアの言葉どおり、このオザリーナ温泉郷はようやくこれでスタートラインに立てた状態に過ぎません。
すべてはこれからなわけです。
「とにかく、みんなで頑張っていきましょう」
「「「おー!」」」
僕の言葉に、周囲に集まっていた、オザリーナ温泉郷にお店を構えられたみなさまが一斉に声をあげられました。
◇◇
オザリーナ温泉郷の完成を受けまして、兼ねてから予定しておりましたララコンベ温泉郷との連携を行う事になりました。
まずは、オザリーナ温泉郷とララコンベ温泉郷をつなぐ駅馬車を運行いたします。
すでに、オザリーナ温泉郷とララコンベ温泉郷を結ぶ街道は完成しています。
石造りのしっかりした街道ですので、少し離れた場所にある両温泉郷を片道30分少々で運行出来ます。
ララコンベ温泉郷は、周囲を険しい山に囲まれています。
そのため、オザリーナ温泉郷へ通じる街道は、その山間の隘路を通ることになっているのですが、この山には魔獣が多く生息しています。
たまにイエロ達が遠征してきて魔獣達を狩ってくれてはいるのですが、駅馬車が定期的に運行される以上その対策をとっておかなければなりません。
この対応には頭を悩ませました。
見通しのいい街道であれば、元セーテン盗賊団だった猿人達で対処出来なくもないのですが、魔獣達が襲ってくる場所は、かなり見通しが悪く、しかも狭い場所なわけです。
「魔獣達に一気に押し寄せてこられたら、この隘路ではさすがに分が悪いキ」
セーテンもそう言って渋い顔をしていた次第です。
そこで、スアも交えて相談した結果……
駅馬車の後方に、魔石で起動する武装駅馬車を連結することにしました。
この武装駅馬車ですが……
その上部と左右に、僕の世界でいうところの砲台が設置されています。
この砲台は、周囲に魔獣が出没すると自動的にこれを撃退するよう魔法がかけられています。
その砲台からは、魔力を砲弾のように圧縮した物が射出されます。
この魔力砲弾は、魔獣に対してのみ効力を発揮するように設定されています。
そのため、もし万が一魔獣に人や亜人のお客さんが捕らわれていたとしても、魔獣だけにダメージを与えることが出来る次第です。
……もしこのパルマ世界が争乱の世界でしたら、あちこちから注文が殺到しそうな気がします。
まぁ、これ……僕の世界のマンガに登場した物を参考にしたんですけどね。
その説明を聞くだけで、スアは
「……こんな感じ?」
そう言いながら、これを作り上げてしまった次第です、はい。
スアは僕の脳内の思考を読み取ることが出来ますので、僕が言葉で上手く説明出来なくても、
「……旦那様、頭に思い浮かべて」
そう言ってくれますので、本当に助かる次第です、はい。
そんな装備を備えた駅馬車の第一便が、ララコンベ温泉郷を出発しました。
第一便の中には、ララコンベ温泉郷のお偉いさんが乗車しています。
このままオザリーナ温泉郷へ出向きまして、その場で友好契約に調印する予定にしている次第です。
お偉いさんとして乗っているのは、ララコンベの領主代行を努めています辺境駐屯地副隊長のメルアと、商店街組合の蟻人達、商店街の代表、温泉宿の女将、そしてコンビニおもてなし4号店店長のクローコさんと、コンビニおもてなし総合店長の僕といった面々です。
ちなみに、商店街組合の代表として同行している蟻人の多くは、このままオザリーナ温泉郷の商店街組合で働くことになっています。
そのために、わざわざララコンベ商店街組合の蟻人達が人員を手配してくれたんです。
蟻人達は算術に長けていますし、何より不正が大嫌いな種族ですので商店街組合の仕事に最適な亜人と言われています。
そんなに優秀なら、商会やお店でももっと雇えばいいのにと思ってしまうのですが、各地の商店街組合の仕事を蟻人達が担っているところにですね、同族の蟻人達が経理を担当している商店や商会がありますと、同族ゆえに示し合わせた不正をおこなっているのでは、とのいわれのない誹謗中傷を受けかねないため、その自衛手段として、あえて商会・商店には雇用されないようにしているのだそうです。
ほんと、蟻人達ってばとことんプロですね。
そんな僕達を乗せた駅馬車ですが……予想通り峠で魔獣の襲撃を受けました。
現れたのはこの界隈に多く生息している黒毛熊5頭です。
この黒毛熊は1頭でも強くて厄介なのですが……
ドゴーン!
その出現と同時に、スア製の武装駅馬車の砲台が火を噴きました。
その砲弾をくらった黒毛熊達は一発でくたばった次第です。
「あの黒毛熊を一発で……」
メルアも、その光景を目の当たりにして目を丸くしていた次第です。
ちなみに、この武装駅馬車には自動回収機能も備わっていまして、倒した魔獣達をマジックハンドのような腕で武装駅馬車内にある捕縛室の中へと放り込んでいました。
この捕縛室は、コンビニおもてなし本店の地下倉庫へつながっていまして、放り込まれる→倉庫へ直行になる仕組みになっています。
駅馬車を守れて、しかも仕入れにもなる、まさに一石二鳥なわけです、はい。
その後、何度か魔獣と遭遇したものの、その全てを武装駅馬車が排除してくれました。
やがて隘路を抜けた駅馬車がオザリーナ温泉郷へと近づいていきました。
すると、
「ようこそ! オザリーナ温泉郷へ!」
そんなかけ声とともに、シャラ達が乗った馬車が登場し、駅馬車と併走し始めました。
シャラ達がステージとして使用しているその馬車は、駅馬車に向かって馬車部分を開放していまして、その中でシャラ達が踊りを披露しています。
レイレイの歌と音楽も駅馬車内に程よく響いています。
「ほう、これはこれは」
「なかなか楽しいお出迎えですね」
駅馬車の中の皆様も、笑顔でシャラ達の踊りを見ています。
マクローコが化粧と髪結いを担当し、衣装はテトテ集落の皆さんの特製です。
馬車も、ルアの手で見違えるほど綺麗になっています。
そんな中で踊っているシャラ達です。
以前の踊りの何倍も素敵なわけです、はい。
そんなシャラ達の荷馬車に併走されながら、駅馬車は停留所へと移動していきました。
下車した僕達は、出迎えてくれたオザリーナ達と握手を交わし、その場で友好契約書にサインをしていきました。
恥ずかしながら、僕もサインをさせて頂いた次第です。
その光景を、多くのお店の関係者に混じって、チュパチャップ達コンビニおもてなし6号店のみんなも見つめていました。
さぁ、今日からみんなで頑張っていかないと……
「きゃあ、またこけたぁ」
「ひゃあ!? こ、こんな時に私のスカートを脱がさないでくださぁい」
……気合いを入れかけた僕の眼前で、ただ立っていただけですっころんだアレーナによってスカートをずり下げられてしまったチュパチャップが、制服の上着を必死に下げながらその場にしゃがみ込んでいた次第です。
……うん……まずはあのアレーナさんからどうにかしないと……