53章 旅立つ
一〇分後、裏世界の住民が戻ってきた。片手に持っていたのは、アカネがこれまで見たこともない食べ物らしきものだった。
「名産品のタバガラシ、すじくら、カチューです。是非、お持ち帰りください」
タバガラシは見るからに辛そうだった。タバスコ、唐辛子を混ぜたものなのかなと思われる。
タバガラシはどのようなものなのかなと思っていると、裏世界の住民から説明があった。
「見た目は辛いですけど、甘さも感じる仕上げとなっています。生で食べることもできますよ」
真っ赤な色をしている調味料のどこに、甘さの要素があるのだろうか。アカネは信じることができなかった。
すじくらはすじこ、いくらを合わせたような食べ物だった。食べてはいないものの、期待してはいけないような気がする。裏世界の住民の口には合っても、人間には合うとは思えなかった。
カチューはカレーとシチューのミックス品。こちらはおいしく食べられるのではなかろうか。現実世界においても、カレーとシチューをミックスさせた食べ物はあった。
「急でしたので、これくらいしか用意できませんでした。今度来たときは、いろいろなものを準備させていただきます」
いろいろな変わり種の中には、大当たりがあるかもしれない。アカネの心の中には、期待感が芽生えていた。
「今回はありがとうございました。またの機会があればよろしくお願いします」
命を狙われたときはどうなるかと思ったけど、無事に帰還することができそうだ。自分の持っている能力の高さに、おおいに感謝する。
「失礼なことばかりして、大変失礼いたしました」
アカネは空を飛ぶ能力を使い、裏世界から飛び立っていく。その姿を、裏世界の住民は静かに見つめていた。