夏のティーケー海岸ものがたり その5
初日は海に遊びに行く暇も無いほど頑張ったコンビニおもてなしティーケー海岸出店部隊です。
ここ、ティーケー海岸のお祭りは夜の部もあります。
ほぼ夜通し賑やかだそうでして、出店も夜通し営業しているところも少なくありません。
コンビニおもてなしティーケー海岸出店は無理では、夜間はパラナミオが召喚してくれた骨人間(スケルトン)達に営業をお願いしています。
夜間の売り物はアイスクリーム販売と、串焼き販売に限定しています。
その作業用に4体の骨人間(スケルトン)をパラナミオが召喚してくれていまして、出店の営業を行ってくれています。
それ以外のスペースには、スアが防壁魔法を展開してくれていますので、誰も入れなくなっているんですよね。
出店の夜間営業を骨人間(スケルトン)達に任せて、僕達は転移ドアをくぐってガタコンベのコンビニおもてなし本店裏にあります巨木の家に帰る予定にしていたのですが、スアが、
「……せっかくだし……ここで泊まる?」
そう言ったところ、
「ママ! パラナミオ賛成です! 泊まりたいです!」
「リョータもです!」
「アルトもですわ」
「ムツキもにゃし!」
と、子供達みんなが賛同しました。
「でもスア、今から泊まるにしても……宿はもうお客さんでいっぱいだと思うよ?」
僕は周囲を見回しながらそう言いました。
実際、このお祭り期間はどこの宿も予約で一杯だってアルリズドグさんが言ってましたからね。
となると……ファラさんの遠縁の女性、ファニーさんが切り盛りしてくれているおもてなし商会ティーケー海岸店の二階の空き部屋をお借りして……と、まぁ、僕はそんなことを考えていたのですが、そんな僕の前でスアは魔法袋の中から何やら種のような物を取り出しました。
僕やパラナミオ達が見つめている前で、スアはその種を出店の裏にある荷物置き場用の空き地の真ん中に穴を掘り、その中に埋めました。
そして、そこに向かって詠唱を始めたのですが……すると、スアが種を埋めた場所からですね、芽が出て膨らんで花が咲いてじゃんけ……じゃ、なくて、どんどん成長していきまして、あっという間に巨木が出来上がりました。
巨木といいましても、僕達が家として使っている巨木の家に比べればかなり細くて低いです。
その木がコンビニおもてなしティーケー海岸出店の屋根の上くらいまで成長しています。
葉っぱはあまり茂っていないのですが、その枝に大きな実のが何個か出来ていました。
「……さ、行きましょう」
スアは、そう言うと巨木の幹に手をかけました。
よく見ると、そこには扉がありまして、スアはその扉を開けるとその中に入っていきました。
僕達もスアに続いてその中に入っていったのですが、その中にはらせん状の階段がありまして、僕達はそれを昇っていきました。
その一角に横に伸びている廊下みたいな空間がありました。
そこをまっすぐ進んで行くと、そこには大きな部屋があったのです。
おそらく、ここって木の実の中なんでしょうね。
巨木の家にも、こういった木の実の部屋がいっぱいありますから。
「うわぁ、お部屋です! 広いです!」
部屋の中に入ったパラナミオ達は目を輝かせながら部屋の中を駆け回っていました。
部屋には窓がありまして、そこからは海岸が一望出来ます。
視線を下に向ければ、賑わっている屋台街を眺めることも可能です。
そんな窓からの眺めをパラナミオ達は勘当しながら楽しんでいました。
その間に、スアは部屋の中央に大きなベッドを召喚しました。
なんでも、
「……またドゴログマに行ったときに使えるかな、と、思って、作っておいたの」
だそうです、はい。
そんなわけで、今日の僕達はこの臨時巨木の家の中で宿泊することにしました。
うまくすれば、ここ、出店担当者達の休憩所や宿泊所としても使用出来そうですね。
で、今日はせっかくなのでグリアーナも一緒に泊まることになりました。
「え、い、いえ、拙者は店長様達のお邪魔なのでは……」
最初はそう言っていたグリアーナですけど、子供達に囲まれて
「グリアーナお姉ちゃんも一緒に泊まりましょう!」
そう言い続けられた結果、
「で、では、僭越ながら……」
と、まぁ、陥落した次第です。
みんなで屋台街を少し回りまして、屋台で販売されている食べ物で夕食を済ませたのですが、さすがティーケー海岸だけありまして海鮮を使った料理を販売している屋台がとても多かったです。
イカもどきなイカールの串焼きは、身だけでなく、いわゆるゲソだけのものもありましてなかなか美味しかったです。
海の幸を贅沢に焼き上げて皿に盛った海鮮焼きや、魚を串に刺して焼いた串焼き、貝の壺焼き風なものなどもありました。
海鮮類は、アルリズドグ商会から仕入れていまして、コンビニおもてなしでもあれこれ調理して販売してはいるのですが、やはり海の近くで食べるのは格別ですね。
パラナミオも
「パパ、すごく美味しいですね!」
そう言ったのですが、
「あ、でもパパの作ってくれる御飯が一番美味しいです! 本当です!」
慌てた様子でそう付け加えてくれました。
なんか、こういうのってすごく嬉しいですね。
……ただ、僕の後方で、最近料理を手伝ってくれているスアが、自分の名前が出なかったことで若干複雑な表情をしていたのですが……ははは。
しばらく屋台を満喫した僕達は、翌日の営業もありますので少し早めに臨時巨木の家へと戻りました。
コンビニおもてなしの屋台では、骨人間(スケルトン)達が営業している串焼きとアイスクリームの前に結構な数のお客さんが集まっていました。
どうやら、思っていた以上に人気のようで、僕としても安堵しきりです。
臨時巨木の家の中に設置されているシャワーで汗を流した子供達は、ベッドで横になるとすぐに寝息を立て始めました。
グリアーナまで、子供達の横で寝息を立てています。
やはり、初日ということもあってみんな張り切りすぎて疲れていたのでしょうね。
そんなみんなを残して、僕とスアは寝室の上にある小さい木の実の部屋へと移動しました。
そこには、寝室の物よりもかなり小型のベッドが1つ置かれていました。
僕とスアは、ベッドに腰掛けると窓の外へ視線を向けました。
暗闇の中、星灯りに照らされた海が綺麗に見えています。
「そういえばスアってさ、弟子の人達と何年かに一回お茶会をしてるんだっけ?」
「……うん、そう」
「その時はどんなことを話しているんだい?」
「……そう、ね……魔法の情報交換、や、近況……そんな感じ」
スアは、そう言いながら僕に寄り添って来ました。
「……みんなね、私が結婚して、子供が出来たっていったら……驚いてた、の」
スアはそう言うと、僕を見上げました。
「……だから、ね……いっぱい自慢したの、よ」
そう言うと、スアは嬉しそうに微笑みました。
なんでしょう……その笑顔を見ていると、自慢してもらえた事が、なんだかこそばゆいといいますか、嬉しいと言いますか……
そんなスアと視線を交わしていた僕ですが、しばらくするとスアが目を閉じました。
僕は、そんなスアに覆い被さりながら唇を重ねていきまして
……はい、ここから先は黙秘させていただきますね。
◇◇
翌朝になりました。
早く寝たおかげで、パラナミオ達も相当早くに目を覚ましていました。
「パパ! 海岸に行ってみたいです!」
「リョータも!」
「アルトもですわ」
「ムツキもにゃし!」
そんな子供達の言葉を受けまして、僕達は朝食前に海岸を少し散歩することにしました。
海岸では、アルリズドグさん達が何かなさっていました。
「アルリズドグさん、何をなさっているんです?」
「あぁ、タクラの旦那。いえね、夜の間に海岸に捨てられたゴミを集めているんですよ。祭りは夜通しやってますんでね、どうしてもゴミを捨てる不届き者がいるもんですから」
アルリズドグさんはそう言いながら手にしているゴミ袋の中に、海岸に落ちているゴミを拾っては入れています。
よく見ると、その後方には先日川を遡ってきたシンディラさんの姿もありました。
どうやら、アルリズドグさんの仲間に加わられたようですね。
で、そんなアルリズドグさん達の姿を見た僕は
「僕達も手伝いますよ」
そう言いました。
その言葉に、パラナミオ達も
「はい! 私達も手伝います!」
笑顔でそう言いました。
そんな僕達を前にして、アルリズドグさんは。
「そうかい? そりゃありがたい」
そう言って笑われました。
その後、僕達はしばらくの間アルリズドグさん達と一緒にゴミ拾いを続けていきました。