夏のティーケー海岸ものがたり その4
花火とともに、屋台街に一斉にお客さんが押し寄せてきました。
さすがはティーケー海岸随一のお祭りですね、その数はかなりのものでした。
アルリズドグさんからも事前に聞いていたのですが、なんでもこの祭りに参加するために何日も前からや宿屋に泊まって待ち構えているお客さん達もいるほどなんだそうです。
そんな中、コンビニおもてなしティーケー海岸出店は屋台街の中央に近い場所に店をださせてもらえています。
ちなみに、今日の出店は5号店のグリアーナ以外は、すべて僕の家族が店員として働いています。
「いらっしゃいませ~かき氷ですよ~」
「冷たくて美味しいですわよ~」
店頭でかき氷を販売しているのはリョータとムツキの2人です。
水着姿の2人は笑顔で声をあげています。
そんな2人の可愛い姿を前にして、街道を歩いていた皆さんは
「あらあら、可愛い店員さんね」
「何を売っているんだい?」
と、かなりの方々が足を止めてくださっています。
集まってくださったお客さんの前で、リョータは早速手回し式のかき氷機を使ってかき氷を作成していきます。
始めてみるかき氷機の様子に思わず感嘆の声をあげていたお客さん達は、容器に入った氷をリョータから受け取っていきます。
するとそこにアルトが歩み寄っていきました
「さぁ、シロップはどれになさいますか? イルチーゴ、レーモン、メルロンと、色々取りそろえておりますわ」
アルトは、笑顔でシロップの入っている筒が置かれている場所を指し示しています。
「ほぉ、これをかけるのかい?」
「えぇ、そうですわ。なんでしたら私がおかけいたしましょうか?」
「あぁ、じゃあ頼むよ」
「はい、おまかせくださいな」
お客さんの要望を受けたアルトは、営業スマイルをその顔に浮かべながらお客さんの持っているかき氷にシロップをかけていきます。
そして、そのかき氷を口に含んだお客さんは、もれなく
「んん!? こりゃいい! 冷たくてうまい! この暑い中食べるのにちょうどいいな!」
そんな言葉を口にされながら、美味しそうにかき氷を口に運んでいかれています。
中には、勢いよく氷を口に入れすぎて頭がキーンとなっておられる方も少なくない感じですね。
店内では、ムツキがアイスクリームを販売しています。
アイスは、ムツキが腰につけている魔法袋の中に入れてありまして溶けないようにしているのですが、いくつかは試食をかねてムツキが手で持っています。
ムツキは、手の中のアイスクリームが溶けないうちに、と
「さぁさぁ、アイスクリームの試食にゃし! みんな食べて行ってほしいの!」
満面の笑顔で声をあげています。
すると、かき氷に目当てで集まっていたお客さん達が
「へぇ、アイスクリームねぇ」
「おもしろそうだね、ちょっと試食させてもらおうか」
そんな言葉を口にされながら出店内へと入ってこられました。
そして、ムツキから木のスプーンにのったアイスクリームの試食を手渡されたみなさんは、それを口に運んで行かれたのですが、
「ほぉ、これはかき氷よりも濃厚な……」
「甘くて冷たくて美味しわ!」
皆さん、顔を輝かせながらそう言うと
「おっ嬢ちゃん、このアイスクリームを3つもらおう」
「私は2つね」
アルトから商品を購入しようと、改めて声をかけておられます。
そんな皆さんに、アルトも満面の笑顔を浮かべながらアイスクリームを販売していました。
店頭でリョータ・アルト・ムツキの元気な声が響いています。
もちろん、店内も負けてはいませんよ。
少し店内に入った場所で、僕が串焼きを焼いています。
いつもはお弁当に入っているタテガミライオンの肉を贅沢に使用した串焼きを炭火で焼いているのですが、このお肉ってば本当にいい匂いを周囲にまき散らしながら焼けていくんですよね。
その匂いにつられて、どんどんお客さんが僕達の出店に集まってきています。
「その串焼き、5本もらおうか!」
「こっちには3本ちょうだい」
お客さんの声を前にして、僕は
「はい、毎度ありがとうございます!」
元気な声を返しながら、タテガミライオンの肉が刺されている串をどんどん焼いていきました。
パラナミオは、魔法少女戦隊キュアキュア5の商品コーナーを担当しています。
自らもキュアキュア5のキャラクターの衣装をモチーフにしたセーラータイプのビキニを着ているパラナミオは、
「皆さん買っていってください! キュアキュア5の商品です!」
元気な声をあげていました。
さすがは大人気の絵本のキャラクターグッズです。
パラナミオが切り盛りしているコーナーは、あっという間に子供連れのお客さんで一杯になっていきました。
さすがにちょっと多過ぎないか……と、僕が心配するくらいすごい人だかりになっていたんですけど、そんなパラナミオの周囲に、いつの間にかスアのアナザーボディが手伝いとして出現していました。
アナザーボディ達4体は、言葉は話せませんけど、スアに遠隔操作されていてですね、商品の補充やレジ作業は無難にこなせるようになっています。
そんな感じで、パラナミオはスアのアナザーボディと一緒に接客を行っていました。
グリアーナは、店内で残りの商品の販売を担当しています。
主な商品としましては、ヤルメキスとケロリンが作ったスイーツや魔王ビナスさんがメインで作成している弁当、それにルア製の武具や、ペリクドさんのガラス製品、それにスアの魔法薬などを持ってきていまして、それらの販売を一手に引き受けてもらっています。
どの商品も、王都で販売しても恥ずかしくない品物だと自負している僕なんですけど、その思惑どおりグリアーナの前にも多数のお客さんが殺到していました。
そんな感じで、コンビニおもてなしティーケー海岸出店は、開店直後からお客さんでいっぱいでした。
周囲の出店にも結構お客さんが集まっているのですが、コンビニおもてなしティーケー海岸出店が群を抜いている感じです、はい。
そんな中で、僕達はみんな笑顔で接客を続けていきました。
そんな中、海岸の方から大きな歓声があがりました。
「な、なんだ?」
タテガミライオンの串焼きを焼きながら、僕はそちらへ視線を向けたのですが、僕の視線の先では数匹の魔獣や大型の亜人達が芸を披露しているところでした。
その真ん中には、ピエロの格好をしている男性が立っていまして、その魔獣や大型の亜人達に合図を送り続けています。
その合図を受けて魔獣達が大型の亜人の周囲を規則正しく駆け回っていきます。
それは、まるでサーカスの猛獣ショーの様相でした。
「……おや、あれはひょっとして」
僕は、そんな事を思いながらその集団を見つめていたのですが……その中央にいるピエロの格好をしている男性に僕は見覚えがありました。
確か、ナカンコンベでロジクワールドサーカスを開催しているロジクさんです。
以前、春の花祭りの際に見かけたんですよね。
「へぇ、ロジクさん達もここで営業してたんだ」
そんなことを口にしている僕の前で、ロジクさん達は、火の輪くぐりや魔獣の玉乗りなどを次から次へと疲労し続けていました。
その熱演に、周囲に集まっているお客さん達も拍手喝采を送り続けています。
僕は、しばらくその様子を横目で見ていたんですけど
「うん、僕もロジクさん達に負けないように頑張らないと」
そう気合いを入れ直しまして、改めて炭火コンロに向かっていきました。
こんな感じで、僕達は夕暮れ時まで屋台を頑張りました。
残念ながら、初日は、海に遊びに行くことも出来ませんでした。