2話 代償
俺は、決定的な弱点を見つけてしまった。
ここで使うダークボルトは、威力の調整がうまくできない。そればかりか、全力でしかも一日で五回までしかできない。
それを使い切ったら当然ガス欠と同じで、ウンともすんとも言わずだ。
この状態になったら、悪意をもったただの肉でしかない。
唯一救いなのは、身体能力と頑丈さがまだ悪魔よりなことだけだ。どの程度まで問題ないかは後で検証が必要なことは間違いない。
他に気になることは、不意に現れたこの手元にあるハンドガン一丁と、格闘術が脳裏に刻まれていることだ。
転生二回目にして、元の世界の物をこうして手にするとは、思いも寄らなかった。
そんな物を眺めていると、この元の持ち主の苦悩が窺い知れる。
理由はシンプルだ。
ダンプカー以上の大きさの魔獣が跋扈する世界で、ハンドガンと格闘術でどうしろというんだか。
俺の状況からすると敵は、悪魔と神族とその他信者大勢だ。こいつら相手にハンドガンでは、
少々心許ない。
言い換えると、弾のない銃と人ならずの魔獣相手に格闘術では太刀打ちができない。
銃が利用できるのは、もちろん装填する弾丸がある前提になる。ところがそんな物はあるわけもなく、手に入れる手段すら思いつかない。
だからこそ今は、苦渋しかない。
利点があるとするならば、このハンドガンは体内にしまうことはできて、俺から決して離れない奇妙な物になっている。
ひとまず、このハンドガンの弾は今後の課題として、一旦体内に格納しておく。
今はもともと培った技と、ダークボルトのこのふたつでどうにか駆使して切り抜けるしかない。
体ならしのついでだ。俺は、持ち主がいたと思われる町へ向かう。
結論から言おう。
見つけ次第、殺す。邪魔するやつも殺す。関係者も殺す。必ず殺す……全員だ。
記憶を頼りに道なりに下山すると、周囲を開墾したような大きめの町が見える。周りは険しい山に囲まれて道は一本しかなく、天然の要塞化としている。
魔獣避けのためか、城壁はしっかりとした作りにも見えた。
とくに身体検査も身分証提示も求められることもなく、町の中に入っていく。
ところが、町を往来する者も門番も同じく、俺の姿を見るなりギョッとした表情をしている。
俺は店のガラス窓に映る自身の姿を見て、理由がわかった。
単に、派手に血塗れの状態で、衣類が血の色でどす黒く染まっている状態だ。
気にせず俺は記憶のある方角へ歩き進めると、遠くから飛び跳ねながら迫ってくる女がいる。
記憶から敵対しているわけでもないので、そのままやり過ごそうとする。
「レン! レン! 何その格好!」
「……」
「ちょっと大丈夫? ねえレンたら! 返事してよ」
「……」
妙に馴れ馴れしく近づいてくるこの女は、どうやらレンの知り合いのようだ。偶然にも持ち主の名前もレンだった。正確には蓮次郎だ。
記憶には微かに残っているだけで、それ以上は読み取れないしわからない。
「ねえ、ほんとにどうちゃったの? 怪我は大丈夫? それにその目何? 真っ赤だよ?」
「……」
ただ言えるのは、厄介な奴が現れた。
「本当に……レンなの?」
「ああ。俺は……レンだ」
「ブッ。何それ? 新しいギャグ? 自分で自分のことをレンというなんて変だよー」
「……」
すると、目先には記憶にある男がこちらを見て慌てている。
そうだ、アイツだ。俺を谷底に突き落とした仲間の内のひとりだ。
近くにいた奴らもこちら見て慌てている。
「どうしたの? 何? あいつらまたレンに何かしたのね?」
「ああそうだ。奴は……」
俺が答えるまもなく、向こうにいた奴はこっちに駆け寄って言い放つ。
「なんでお前!……」
「シネ」
「ブッハッ!」
俺は手刀で心臓を突くと肘まで貫通した。
当然ながら、悪魔と違いこれで奴は仰向けに倒れて死んだ。血だまりは広がり、ぽっかり開いた胸からは夥しい血が溢れ出ている。
周りは悲鳴をあげて、蜘蛛の子を蹴散らすかのように逃げていく。
残りの二人いた仲間は、展開の速さに驚いたのかもたついている。
間髪入れず、右のやつから頭をつかみ背負投げの状態で首を折る。
簡単にやられた遺体は、このまま投げ捨てた。
これで二人目。
それに恐れ慄いたのか、三人目は不恰好に剣を上段に構えたまま突っ込んでくると、すれ違いざまに
足をひっかけて転倒させる。
転げ落ちて仰向けの状態になった隙に、膝を使い首に着地し、へし折った。
五分もかからず、仕留めた。
これで三人目だ。
記憶では後二人いるはずだ。探していると割と近くにいた。
魔法の準備をしているのか、二人で混成魔法を放つつもりなんだろう、俺は構わず奴らに放たせた。
紫色をした魔力の塊の直撃を受けた俺は、衣類以外無傷だ。人の魔法はこんな物だろうとたかをくくっていたら、本当に貧弱だった。
慌てふためく二人が再度行おうとした時に、俺は試しに放つ。
「ダークボルト!」
轟音が鳴り響き、地面はえぐれ当然ながら二人とも腕だけ残して、直撃した体だけ消滅した。
それだけにおさまらず、民家も含めて向こう側が見えるほど損壊は激しい。
人々は蜘蛛の子を蹴散らすかのごとく、ちりじりに逃げ惑う。
持ち主のレンへ、手向けの花にはなったことだろう。思わず口元がニヤついてしまう。
俺は周りの喧騒を気にせず、このまま町を通り抜け次の目的地に向かおうとした。
すると、先の女が詰め寄ってくる。
「ちょっと! レン! 何普通にしているの? 人殺しよ!」
「……」
「ねえ! 聞いているの?」
非常に面倒だ。心底どうでもよかった。
「……お前が知っているレンは死んだ」
「え?……。それって……どういうこと」
「言葉の通りだ。レンはレンでも俺は違うレンだ」
俺は、この女の前を通り過ぎていく。
「行かせない!」
俺の前に立ちはだかるこの女は、いいかげん邪魔だ。
「ならば、シネ」
「……え?」
俺の手刀は胸を貫く。ところが、貫いた相手は衛兵だった。
どうやら咄嗟に庇ったようだった。
前のめりに、膝から崩れ落ちそのま動かなくなってしまう。
「拾った命、好きに使え」
「あたし! 諦めないから! 絶対に!」
何か喚いていても俺には響かない。ただやたらとこの女の言動は、頭のなかでもやもやしてくる。
このままの足で俺は、この町を通り過ぎていく。