43章 飴玉だけの食事
水が一気に出ないよう、ゴムで縛られていた。1ゴールドを浮かすために、いろいろな知恵を絞っているようだ。
水道の蛇口をひねると、ちょろちょろと水が出る。節約したいのはわかるけど、やりすぎではなかろうか。
水を入れるように頼まれたものの、どれくらいの量なのかは聞いていなかった。コップの4分の3くらいにすれば、ミライは満足するのかな。
アカネが部屋に戻ると、ミライはゆっくりと体を起こす。
「ミライさん、水を持ってきたよ」
ミライは髪をかき上げる。慢性的な栄養不足ゆえに、髪の毛が泣いているような気がする。
「アカネさん、ありがとうございます」
ミライは水を一気に飲み干していた。喉がカラカラに乾いていると思われる。
「とってもおいしいです」
水道水で感動できるのは、素直に羨ましいと感じる。こちらにやってきてから、水道水で感動したことはなかった。蛇口から出る水くらいにしか思っていなかった。
「ミライさん、食べ物は食べなくてもいいの」
店内にはセカンド牛、パン、チーズなどがある。これらを食べることができれば、身体は元気になるはずだ。
「ペット用のエサに手を付けるわけにはいきません」
「ミライさんたちの食べ物はないの?」
「飴玉はありますけど、他の食べ物は切らしていますね」
飴を舐め続けるだけでは、体力、気力アップにつなげるのは難しい。ミライが体調不良になるのも当然といえる。
水分を取ったことで元気を取り戻したのか、ミライはゆったりと立ち上がった。
「水を飲んだことで、少しだけ元気になりました。アカネさん、ご飯を食べに行きましょう」
「あまり無理をしないようにね。私がスーパーから食べ物を買ってきてもいいよ」
「外食をしてみたいです。顔にやけどを負ってから、一度も外食したことはありません」
顔面に包帯がまかれている状態では、他人の顔向けするのは難しい。
「外で食べることで、過去の自分から脱却したいです」
「わかった。外食に行こう」
二人で外食に向かった。ミライは飴玉しか舐めていないのに、身体が大いに躍動している。外食できることを、心から喜んでいるのが伝わってきた。