42章 緊張の糸
アカネは話が脱線していることに気づいた。
「ミライさん、ご飯を食べに行こうよ。何を食べたい」
ミライのお腹がぎゅるるとなった。空腹の絶頂に達していると思われる。
「牛肉、鶏肉、豚肉などを食べてみたいです。うどん、ラーメンにも興味があります」
控えめな性格なのかなと思っていたけど、図太さも兼ね備えているのかな。
「今日は好きなだけ食べてもいいよ。お金はこちらが全額負担する」
「店のことから、食事のことまで面倒を見てもらってすみません」
「いいよ。お金がありすぎて、使うところもないんだ。完全に宝の持ち腐れ状態だよ」
宝石などは値段がするらしいけど、身に着けようとは思わない。宝石にお金を使うのであれば、自分の家をさらに豪華にしたい。
食事に行くのかなと思っていると、ミライは身体を横にする。
「すみません。もう少しだけ休ませてください」
「ゆっくりでいいよ」
体力的なものではなく、精神が病んでいるのかな。心が疲弊したことによって、身体を動かす意欲を失っている可能性もある。
張りつめていた糸が、ぷつんと切れたというのも考えられる。解雇の二文字が、ミライのモチベーションを全て奪ってしまったのかもしれない。
「アカネさんはご飯を食べなくてもいいんですか?」
「私は食べなくてもいいスキルを持っているからね。空腹になることはないよ」
「羨ましいですね。私もご飯なしで生きてみたいです」
何も食べたくないと思うときは、非常に役に立つスキルである。
「アカネさん、水を持ってきていただけますか。水分を取りたいです」
「いいよ」
「わがままばかりですみません」
ミライはそっと目を瞑る。生活苦から解放されて、ほっとしているように感じられた。