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29章 水中探索

 水の中の調査を始めて、二週間が経過しようとしていた。

 現在の写真の枚数は1万3000枚ほどとなっていた。依頼者の報酬からすれば、まだまだかなと思える枚数だった。300億ゴールドをもらうのだから、20000~30000枚はほしいところだ。枚数が少なすぎると、大幅に減額されるリスクがある。信頼度も大きく下がり、よい仕事を失うことになる。成果をあげることでしか、仕事を評価されることはない。

 同じ写真ばかりをとったとしても、何の意味もない。水中で生活をしている生物を、すべてとるくらいの気持ちで仕事したい。

 仕事を始めてから一睡もしていないにもかかわらず、瞼に重さは感じなかった。1秒も睡眠をとらなかったとしても、健康をキープできる。睡眠をとらなくてもいいスキルは、人間の夢や理想をかなえてくれる。 

 食事は水中にて行った。水の中にはチョコレート、ニンジン、わかめ、ポテトチップスなどがあった。多くは平凡な味だったものの、一部には質の高いものもあり、大いなる満足感を得た。

 現時点の一番のごちそうはさくらんぼかな。糖度の高さもあり、完成度は非常に高かった。市場に売り出せば、一粒で10000ゴールドくらいになるのではなかろうか。「セカンド牛+++++」と肩を並べてもおかしくないレベルである。スーパーで販売しているのであれば、購入したい一品だ。

 アカネは少しだけ横になる。336時間ぶりの休養を取ったことで、心は大いに休まることとなった。こちらにやってきてから睡眠はおろか、休息すらまともにとっていなかった。

 頬は柔らかい太陽が包み込まれる。眠りにいざなような心地よさだったので、瞼を閉じてしまいそうになった。

 ここで眠ってもいいけど、自宅の方がいいかな。あそこには特注の布団があり、アカネの心をおおいに和らげてくれる。あの布団で眠るだけで、一日の嫌なことを全部忘れることができる。

 五分だけ横になったあと、身体をゆっくりと起こす。その後、水中の中に身を預けた。

「セカンドライフの街」の水中では、日替わりで生息している生物が異なる。本日はどのような生き物と出会えるのだろうか。 

 本日に発見した新種は、化石さながらなのに恐竜の形をしている。何という名前なのだろうか。

 恐竜は襲ってくるかなと思っていたものの、特に何もしてこなかった。アカネはゆったりと泳いでいる様子を、写真に収めることにした。

 化石恐竜は大きな欠伸をする。見た目は非常に小さいのに、マンモスさながらに感じられた。

 化石恐竜の次は、羊さながらの形をした生物だった。羊は陸上で生活するイメージだったので、従来の常識を覆されることとなった。 

「セカンドライフの街」では、陸と水中の生物が一緒に生活しているのかな。そうなのだとすれば、アリ、セミといった生き物も水中で生きていることになる。これまでは発見できていないものの、後々に見つけられるかもしれない。  

 羊はゆっくりと目をつむった。これからシエスタタイムだと思われる。

 アカネは目を瞑る直前をカメラに収める。起きている、寝ているよりも、眠りにつこうとしている瞬間の方が価値は高い。

 羊が眠ろうとしている様子を写真に撮ったあと、植物のような魚を発見する。初日と似ているものの、全身の色は異なっていた。あちらは緑だったのに対し、こちらは黄土色をしていた。

 植物魚は尻尾をふっていた。身体のあまりの柔らかさに、骨が外れているのかなと思えた。人間ではまずありえない光景だ。

 自分の関節の柔らかさは調べたことがなかった。どれくらいなのかを、後で確認しようかな。関節の外れている植物魚よりも、柔らかい可能性が残されている。

 牛のような生物を発見。ゆったりとしているのかなと思っていると、超高速で横を通り抜けようとする。身体は大きいのに、俊敏な動きをできるようだ。

 サーモンが卵を生みつけようとしていたので、その瞬間をカメラに収める。子供を作る原理は、人間界と同じだとわかった。

 犬らしき生物が、子供と一緒にやってくる。アカネの脳裏の中で、水中でどのように出産しているのかという、純粋な疑問が湧いてきた。

 猫も子供をひきつれていた。こちらも水中出産をするのかな。アカネの中で、あたらな疑惑が増えることとなった。

 1日20時間労働の会社で働いていなければ、新しい命を誕生させられたのかな。そのように思ったからか、心が冷たくなる。

 心が冷たくなったからか、水も少しだけ冷たくなったように感じられた。アカネはどういうわけか、自分が風邪をひいてしまわないか心配になった。

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