30章 仕事終了
水質調査は一ヵ月くらいで終了。当初は三日くらいで終わると思っていたけど、予定よりもかかってしまった。
時間がかかった要因は、アカネが水中調査を楽しんでいたため。未知の生物に興味を持ってしまい、どのように生活しているのかを知りたくなってしまったのだ。
水の中にいる間、睡眠は一秒もとっていない。食事もほとんどしなかった。それにもかかわらず、身体は元気そのものだった。疲れない、食べられずとも生きていけるスキルはガチのようだ。
海の中にあるニンジン、サクランボなどはとってもおいしかった。機会があれば、また食べに行きたいな。
「マツリさん、仕事が終了しました」
「アカネさん。おつかれさまです」
「写真を撮ってきました」
アカネは数えきれないほどの写真を納めてきた。水中探索を楽しんでいるうちに、自然と枚数が増えてしまったのである。
「写真の量がすごいですね」
「水の中を楽しんでいるうちに、いろいろなものを取りたくなってしまいました」
「これだけの数があれば、依頼主は大喜びではないでしょうか。1000枚くらいでいいといっていましたよ」
1000枚なら最初の一日で終わっていた。残りの日数は必要なかったということになる。
「頬や髪の毛がきれいになってますよ。女性としてとっても魅力的ですね」
お世辞であったとしても、嬉しく思えた。1日20時間労働の会社で働いてから、「奇麗」、
「美人」といってくれる人は誰もいなくなっていた。
「ありがとうございます」
アカネは不思議な生物の写真を取り出す。
「これはなんというのですか?」
『「イザタコ」といいます』
イカ、ザリガニ、タコを強引に足し合わせたような名前だ。もう少しまとも名前を付けられなかったのだろうか。
アカネは植物の色をしている魚の写真を見せる。
「これはプラントフィッシュですね。魚ではあるものの、植物のように見えることから、そのように名づけられました」
植物のプラント、魚のフィッシュをかけ合わせているのかな。
マツリは犬のような生物の写真を手にする。
「こちらはウォータードッグですね。セカンドライフの街においては、水中で生きられる犬がいるんです」
犬が水の中を泳いでいるのを発見したときは、自分の目がおかしくなったのかと思った。
「ウォーターキャットです。水中で生きることができる猫です」
犬だけでなく、猫も水中を生きられるとは。現実世界の常識にとらわれていると、頭がおかしくなってしまう。
マツリの手は一枚の写真のところでストップする。
「滅多に見られない、シーラリュウではないですか」
「シーラリュウ?」
「シーラカンス、恐竜を合わせているんです」
二つとも絶滅種であるため、非常に珍しい組み合わせだ。ゲームに例えるなら、超超超超激レアクラスだ。
「一〇〇年に一度くらいか見られないといわれています。それゆえ、こちらでは目にした人はいません」
そんなに希少な生物だったとは。事前情報がなかったので、普通に生きているのかなと思ってしまった。
他には珍しい魚はいなかったのか、マツリから生物の説明をされることはなかった。
「アカネさん、広大な範囲を調べてくださったんですね。依頼主も喜ぶと思います」
一ヵ月間、飲食、睡眠をとらずに潜り続けたからこそ、これだけの成果を出すことができた。凡人であったなら、写真をとることすらままならなかった。
「アカネさんの写真を預からせていただきます」
三〇〇〇〇枚近くのうち、一枚だけを自分の部屋に飾ることにした。仕事であったとしても、誰にも渡したくなかった。