バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

13章 娘の相手をする

「おねえちゃん、命を助けてくれてありがとう」

 サクラを見ていると、さっきまで植物状態だったとは思えなかった。どこからどうみても、元気な女の子である。

「どういたしまして」

「おねえちゃんは魔法使いなんだね」

「うん、そうだよ」

「いろいろな魔法を見たいよ」

 五歳くらいの少女を見ていると、子供の頃を思い出す。小学生にあがるまでは、人間が本気で魔法を使えると思っていた。

「ここではダメかな」

 サクラは大げさに唇を尖らせ、不満をあらわにする。

「どうしてなの」

「おねえちゃんの魔法は威力が強すぎるんだ」

 校庭の土が真っ黒こげになるほどの威力を誇る。人間に直撃しようものなら、跡形もなく吹き飛んでしまいかねない。 

「そうなんだ」

「サクラちゃん、ごめんね」

 他人の家に宿泊すると、誰かの相手をすることになる。スローライフを送りたいものとしては、あまり歓迎できる状態ではなかった。

「サクラ、お客様の邪魔をしないようにね」

「いやだ~。サクラはいろいろな人と話をしたいよ」

 五歳くらいの子供に、社会常識を理解させるのは難しい。大人になる過程において、少しずつ身につけていく。

「サクラちゃん、こっちにおいで」

「おねえちゃん、ありがとう」

「よしよし、よしよし」

 現実世界で生きていたら、これくらいの娘がいたのかな。アカネの脳裏に、そのようなことが浮かんだ。

「おねえちゃんは子供を産まないの」

 一ミリも予想していない質問だったので、吹き出しそうになった。

「私は相手がいないから」

「おねえちゃんはとっても美人だから、結婚しているんじゃないの」

「この街では間もないから、男性との関係はないの」

「そうなんだ・・・・・・」

 この話が続くのかなと思っていると、少女は近くにある本を取った。

「おねえちゃん、絵本を読んでよ」

「うん。いいよ」

 アカネは「サルカニ兄弟」という絵本を読む。サルとカニが兄弟となっており、一緒に生活しているという内容だった。異なる動物が、一緒に住む発想は大胆だ。 

 絵本を読んでいると、サクラの母親が料理を持ってきた。

「子供の相手をしてもらってすみません」

「いいえ、大丈夫ですよ」

「アカネさん、セカンド牛+++のステーキです。どうぞお召し上がりください」

 溢れんばかりの液体が、肉を包み込んでいる。アカネはそれを見て、肉に大量にソースをかけるのかなと思った。

「おねえちゃん、サクラも食べたいよ」

「サクラ、お客様の料理だよ」

「食べたい、食べたい、食べたいよ」

「わがままをいってはいけません」

 サクラの母親は、娘を連れていった。

 ゆっくりと食事できることを喜べると思っていると、どういうわけか寂しさがこみあげてきた。

しおり