インターローグ 真っ赤な褌を見ただろうか
「FtoVって一応は東北方面担当でしょ? 西南方面に駆り出され過ぎじゃないの?」
「あら、沖縄行けるから良いじゃない? 私、新しい水着買っちゃったわよ」
ぼやく殿水とは対照的に火東は嬉しそうに話す。土友が眼鏡を直しながら呟く。
「残念だが、任務をこなしたらすぐに引き返すことになるぞ……」
「え~海に行けないの⁉」
「う~ん、正義の味方に休息なしってことだね~」
「義一さんは年中休息みたいなもんでしょ……」
スナック菓子を頬張る木片を殿水が冷ややかに見つめる。小金谷が怒鳴る。
「お前ら! ブリッジは休憩所じゃないんだ! やることないなら部屋で待機だ!」
「はいはい……」
「はいは一回だ! ったく……」
小金谷は四人がブリッジを出ていくのを見届けると、手元の端末に視線を戻して呟く。
「やはりFtoVの性能強化を上に認めさせんとな……」
「姉上、もうお出掛けですか?」
幸村が大きなカバンを車に積み込む伊織に声をかける。
「ええ、10日程かけて、九州中の関係各所を挨拶回りよ。人手不足の艦は辛いわね……」
「出港はその後に?」
「そう、高知、呉、と寄って、大阪にね。予定の船員がそれで揃うわ。クルーの経験不足という懸念もある程度解消されるはずだわ。それより鬼・極の刀は大丈夫なの?」
「元々打ってもらうちょっ刀がもうすぐ出来上がります。全国大会には間に合います」
「全国大会は……今年は淡路島だったわね、休みが合えば、大阪か神戸で食事でもしましょう。ちょっと足を伸ばして京都も良いかもね」
幸村は笑顔で頷く。そして真顔になって尋ねる。
「姉上、疾風大洋のことは兄上には……?」
「竜王りゅうおうには連絡したけど返信なし……しばらくは様子見ね。それじゃあ行ってくるわ」
伊織は車に乗り込み、車は走り出した。幸村はそれを見送った。
「海江田、今後の方針は?」
水狩田は端末でゲームをしながら、運転席の海江田に尋ねた。
「全国大会に出るよ、ベスト8がノルマだから気合いを入れないとね」
「楽勝でしょ……いざとなれば“奥の手”使えば良いし」
「それはそれは、頼もしいことだね」
「フンドシくんのことは?」
「……興味を持ちそうなところに話は持ちかけているけど、どこも態度がはっきりしなくてね。まあ、もう少し他を当たってみるよ」
「面倒だから、その辺は任せる。着いたら起こして……」
水狩田はゲームを止め、小さく欠伸をして、目を閉じた。
「これがツインテ―ル嬢ちゃんからのお礼のサイドカーか! 気前がええのう!」
ナーの言葉にヘルメットを被った美馬が頷く。
「早速出掛けるぞ。どこか行きたい場所でもあるか?」
「ええんか? またアルカヌム……シャイカがちょっかいかけて来よったら……」
「しばらくは来ないだろう。そんな気がする。何かあれば大洋たちが連絡をくれるしな」
「そうか、救世主にも休息が必要やしな! それじゃあ、モジに行こうか! なんでも若者に人気のデートスポットらしいで!」
「何故お前と行かなきゃならん……まあ良い、門司方面に向かうか」
美馬はサイドカーを発進させた。
「さっき、異世界コンビがツーリングに出掛けていたで」
地下格納庫に降りてきた隼子が閃と大洋に声を掛ける。
「リフレッシュになれば良いね……そう言えば真賀先生が目を覚ましたらしいよ~」
「ホンマか⁉ ど、どうなるんやろ?」
「小金谷さんや眼鏡の艦長が色々掛け合ってくれているみたいだから……最悪の事態はなんとか避けられそうだと思うよ」
「さよか、それは良かった……」
隼子がホッと胸を撫で下ろす。大洋が閃に尋ねる。
「それで今後はどうする?」
「う~ん、二人は引き続き、愛機の練度向上に努めてくれる?」
「アンタはどないすんねん?」
「勿論トレーニングはするけどさ、電光石火の分析が最優先だね、まだまだ隠されている機能がありそうだからさ」
「マトモな機能であることを願うで……」
「よし! 隼子、模擬戦だ!」
「なんや大洋、随分気合い入ってるなあ……ってなんで脱ぐねん⁉」
大洋が褌一丁になる。いつもの白い褌ではなく、真っ赤なフンドシである。
「それは気合いも入るだろう! 今日はコイツのデビューだからな!」
「ア、アンタとはもう戦闘(や)ってられんわ!」
~第一部完~