第13話(1)鬼神覚醒
「気が合うのお! 金色のパイロット! 名前は何だったかの⁉」
幸村は機体を光の方に向けて、語りかける。大洋が力強く答える。
「疾風大洋だ!」
「! そうか、お前が! って、ひえええ⁉」
モニターを繋ぎ、大洋の姿を目にした幸村が悲鳴に近い叫び声を上げる。
「ど、どうした⁉」
「それはこっちの台詞じゃ! な、なんちゅうあられもない恰好しちょるんと⁉」
「あられもない……?」
大洋は首を捻る。
「なにを首捻るところがあんねん! 至極真っ当な反応やろ!」
「フンドシ一丁は15歳の少女に見せる恰好では無いよね~」
「兄上に聞いていた男とは違う! ふしだらじゃ!」
そう言って、幸村はモニターを切った。大洋がうなだれる。
「ふしだらな男と言われた……!」
「だから落ち込んでいる場合ちゃうねん! 大事なこと言うてんねん!」
「来るよ!」
閃が叫ぶ。一機の巨大な機体となったトリオ・デ・イナウディトがその右腕に持つブレードを振りかざし、大洋たちを狙って斬り付けてくる。
「躱せ!」
大洋が叫び、三機ともイナウディトの鋭い攻撃をなんとか躱す。
「合体だ!」
大洋が号令し、三機は合体し電光石火となる。冷静さを取り戻した幸村が呟く。
「な、成程、あれが噂の電光石火か……!」
イナウディトが返す刀の要領で、今度は鬼・極を狙う。幸村はやや反応が遅れたものの、刀を縦に構え、その攻撃を受け止める。
「ほう! さっきとはパワーも段違いじゃな!」
するとイナウディトが左腕に持った三つ又の槍を鬼・極に突き立てようとする。
「しまっ……!」
しかし、イナウディトの繰り出した槍は鬼・極の機体の寸前で止まる。海江田が駆るインフィニ一号機が鞭をイナウディトの左腕に巻き付け、その動きを止めたからである。一瞬間が空いて、幸村が礼を言う。
「すまん! 助かった!」
「お礼の請求は御社にすれば良いのかな? ……って、なんてパワーだよ⁉」
インフィニ一号機が引きずられそうになる。水狩田が叫ぶ。
「もう少し堪えろ海江田! 奴を大人しくさせる!」
水狩田が自身の駆るインフィニ二号機のバーニアを思い切り吹かし、がら空きになったイナウディトの前方に回り込む。機体の左腕のクローを振りかざしながら、イナウディトの胸部辺りに飛び掛かる。
「敗者復活戦は無い! 茶番は終わりだ……!」
「待て!」
「!」
大洋の叫ぶ声と同時に、水狩田の攻撃はバリアのようなものに弾かれる。
「やはり! あの双頭犬と同様にバリアを発生させることが出来るんだ!」
「バリア⁉ 一旦退け、水狩田!」
海江田が叫ぶ。だが、水狩田は再びイナウディトに向かって飛び掛かる。
「出力を最大にして、連撃を浴びせれば、多少のバリアだろうが破れ……⁉」
「な、なんや⁉」
イナウディトの胸部から黒く長いトゲのようなものが鋭く突き出され、空中のインフィニ二号機を串刺しにする。閃が驚く。
「第三の武器⁉」
「水狩田‼」
「ぐっ……」
水狩田の呻く声が聞こえてくる。海江田は少し安心しながら、問いかける。
「無事なの⁉」
「間一髪でコックピットへの直撃は避けた……ただ困った、これでは動けん」
「今度はウチが助ける番じゃ!」
幸村はイナウディトの右腕をなんとか押し返す。そして飛び上がり、トゲを斬ろうと、刀を大きく振りかぶる。
「チェスト――‼」
威勢の良い掛け声とともに振り下ろされた刀だったが、トゲを斬ることは叶わず、ポッキリと折れてしまう。
「あら?」
「ええっ⁉ 折れた⁉」
「危ない、避けろ!」
「⁉」
刀が折れて、空中で無防備な状態になっていた鬼・極に対して、イナウディトの右脚のキックが飛んでくる。
「ぐおっ⁉」
強烈な蹴りを喰らった鬼・極は後方に吹っ飛ばされる。大洋が声を掛ける。
「だ、大丈夫か!」
「ぐ……な、なんとかな……」
幸村のやや苦し気な声が聞こえてくる。
「うおっ⁉」
大洋たちが視線を移す。海江田の機体が真上に引っ張りあげられている。
「ちょっ、ちょい待ち! どおっ!」
海江田の制止も空しく、機体が床に叩き付けられる。
「お、おおう……」
「満足に動けるのは俺たちだけか! 行くぞ、二人とも!」
「あのバリアを破れるんか⁉」
「分からん!」
「分からんのかい! どうなんや、オーセン⁉」
「出力をMAXにすればワンチャンあるかも!」
「なんとも心許ないな!」
「やってみるしかない!」
大洋が叫び、機体を突っ込ませる。イナウディトのブレードや槍が襲い掛かるが、これを巧みに躱し、懐へと飛び込む。
「喰らえ! 大袈裟斬り‼ ⁉」
渾身の力を込めた一撃だったが、バリアによって虚しく弾かれてしまう。次の瞬間、イナウディトの左脚による蹴りが電光石火を襲う。
「どおわっ⁉」
電光石火も後方に吹っ飛ばされる。何とかガードをとったために受ける衝撃は幾分緩和された。大洋はすぐさま機体を起こし、二人に語り掛ける。
「くそ! もう一度行くぞ!」
「いや、ちょっと待てや!」
「現状のスペックではやはり厳しいよ!」
隼子と閃が大洋を引き留める。
「それでも、ここは俺たちがやるしかない!」
「待てや……」
声のする方に振り返ると、立ち上がった鬼・極の姿があった。幸村が呟く。
「ウチに任せとき……」
「どうする気だ⁉」
「全国大会まで隠しておくつもりじゃったが、こん状況じゃそうも言ってられんな……モード『鬼神』発動!」
「何⁉」
幸村が発した掛け声とともに、鬼・極の機体が光り出し、頭部の二本のアンテナが長く伸び、正に鬼の様になった。
「こいつで片を付ける……」
「し、しかし、刀はどうするんや⁉ 折れてもうたぞ!」
「鬼の得物はやはりこいで決まりじゃ……」
そう言って、幸村は鬼・極の背部から長い棒を取り出す。閃が驚く。
「そ、それは金棒⁉」
「そうじゃ、『鬼に金棒』じゃ!」
幸村はそう叫びながら、イナウディトに飛び掛かり、金棒を思い切り振り下ろす。
「⁉」
鬼・極の金棒はバリアを豪快に打ち砕き、イナウディトの機体に当たる。直撃を喰らう形となったイナウディトはその場に崩れ落ちる。大洋が驚嘆する。
「な、なんてパワーだ……」
「! あれは⁉」
隼子が叫ぶ。見ると、イナウディトを包んでいた黒い光が消え去り、イナウディトは元の三機に戻った。
「ん……ここはどこだ? 俺たちは一体……?」
イナウディト・ビアンコから松下のやや間の抜けた声が聞こえてくる。閃が呟く。
「? 正気に戻ったのか?」
「フン、マアヨイ……トキハミチタ……」
「また女の声⁉ って何や⁉」
次の瞬間、桜島が轟音を立てて噴火した。噴煙の中から、双頭の竜がその姿を現した。
「犬の次は竜か!」
「フウインハトケタ……アバレルガヨイ」
女の言葉に呼応するかのように、双頭竜は物凄い勢いで大洋たちの方へ向かってくる。竜は鋭い爪を立てて、鬼・極に迫る。大洋が叫ぶ。
「狙われているぞ、避けろ!」
「そいつは無理な相談じゃ……モード鬼神の稼働後はしばらく動けんからの」
「何だと⁉」
大洋が鬼・極を守ろうと、機体を動かすが、とても間に合いそうにはなかった。
「間に合わんか! ⁉」
すると、竜の爪を黒い影が弾き飛ばした。閃と大洋が叫ぶ。
「テネブライ!」
「美馬か!」
「遅くなった……観客の避難誘導をしていたものでな」
美馬の脇でナーが呑気に話す声が聞こえてくる。
「え~っと、これで通算七度目の世界救出になるんやったっけ?」
「何度目でも良い! 何度だって救うだけだ!」
美馬はテネブライを双頭竜に向けて突っ込ませる。