第13話(2)桜島、浮上
「ちょ、ちょっと待てって!」
ナーの声が響き、美馬は機体を急停止させ、ウンザリした口調で尋ねる。
「何だ?」
「盛り上がっているところ悪いんやけど、どうせあのドラゴン?もこないだの犬と同じでバリア持ちってオチやろ? 斬り込んでも弾かれてまうで? って、おい!」
双頭竜の片方が口を開き、炎を吐き出した。まるで火炎放射器のような炎がテネブライに襲いかかる。美馬は機体を操作し、これを躱す。
「お約束の火炎放射かい! こりゃ簡単には近づけんで!」
「テネブライの機動力ならば!」
美馬は機体の背面バーニアを一杯に噴き出させて、空中を素早く動き、炎を吐き続ける頭とは反対の頭に回り込む。しかし、反対の頭も口を開き、火球を数発吐き出す。
「こっちは火の玉! 連射のおまけ付きかい!」
「ちっ!」
美馬は火球を躱しつつ、頭部のバルカンを数発発射する。しかし、ナーの予想通りバリアのようなものに弾かれる。美馬は機体を後退させ、距離を取って様子を見る。
「バリアか、厄介だな。さて、どうするか……」
「英雄のお兄さん! それとも救世主さんだったかしら⁉」
美馬はモニターを開く。海江田と水狩田の姿が映る。
「尋問の際に同席していた女たちか……悪いが世間話などをしている暇はない」
「こっちもそのつもりは無いから! ここは私たちに任せてくれる⁉」
「任せるとは手があるのか?」
「ふふっ、こちらにございますはエテルネル=インフィニ専用のライフル、二丁!」
海江田は機体にライフルを構えさせる。傍らに立つ水狩田も無言で構える。
「この二丁のライフルを組み合わせ、パーツを付けて、アレをナニしてコレすると……あ~ら不思議! 大型バスターライフルの出来上がり!」
瞬時に組み立てたバスターライフルを二機のインフィニが支えるように持つ。
「いや、アレをナニしてコレするってなんやねん! 大事なところをはしょんな!」
「細かいことを気にするな……アー=ナツヤスミ……」
「ナー=ランべスや! 伸ばす棒しか合うてへんやないか!」
「スも合っている……それはどうでもいいが、そのバスターライフルの衝撃にそっちの機体が持つのか? だいぶボロボロの様だが……」
美馬が冷静に問う。水狩田が淡々と答える。
「その点は問題ない……この三機がエネルギーを供給してくれる」
水狩田が機体の親指を自機の後方に立つ三機に向ける。そこには辛うじて立ち上がったトリオ・デ・イナウディトの姿があった。
「「「⁉ 聞いてないぞ⁉」」」
松下たち三人が揃って驚く。水狩田が呟く。
「今言った。迷惑をかけた弁償代がわりだ」
「そ、そんなこと言われても……」
「俺らはなにかに操られて……」
「時間が無い!」
水狩田の言葉に梅上と竹中が黙る。松下が口を開く。
「……分かった! エネルギーを供給する! 行くぞ、お前ら! あの二機を支えろ!」
松下の指示で、トリオ・デ・イナウディトはインフィニ二機の後方にケーブルを繋ぎ、エネルギーを送り込む。海江田が叫ぶ。
「よし! 3.5機分のエネルギーを確保! 水狩田!」
「バスターライフル……発射!」
膨大なエネルギー量を持ったビームが放たれ、双頭竜に目掛けて飛んで行く。双頭竜は即座にバリアを張るも、ビームがこれを破り、見事命中する。これにより双頭竜の片方の首が吹っ飛び、体勢を大きく崩す。美馬がそれを見逃さず、機体を接近させ、サーベルを振り下ろす。
「エレメンタルバースト!」
テネブライの攻撃をもろに喰らった双頭竜は消滅した。ナーが快哉を叫ぶ。
「やったで!」
「ああ……ん⁉」
テネブライのレーダーの反応を確認し、美馬が舌打ちする。
「ちっ! こんな時に!」
何もないはずの空間に紫色の穴のようなものが開き、そこから紫色の機体が姿を現す。
「アルカヌム!」
アルカヌムはテネブライを一瞥すると、電光石火に向かい急降下する。大洋が驚く。
「何だと⁉」
「こっちに来たで⁉」
アルカヌムがサーベルを素早く振り下ろす。その速さにガードが間に合わず、直撃を喰らった電光石火は片膝を突く。アルカヌムがそれを見下ろすような形で立つ。
「ぐっ……速い」
「……まだこの程度か」
「⁉」
電光石火のコックピットに聞き覚えの無い女の声が聞こえてくる。閃が驚く。
「この声は⁉ もしかしてアルカヌムのパイロット⁉」
「今の貴様らには倒す価値も無い……」
「何を!」
「もう少し強くなってもらわなければならない……」
電光石火の画面にメッセージが表示される。それを確認した閃が再び驚く。
「こ、これは……⁉」
「健闘を祈る……」
そう言って、アルカヌムは左腕をかざして空間に穴を作り出し、そこに入ろうとする。
「逃がさんぞ! シャイカ=ハーン‼」
テネブライが迫る。シャイカと呼ばれたアルカヌムのパイロットは静かに呟く。
「テネブライ、ミマ=タカモト、貴様の相手はまたいずれしてやる……」
そう言って、アルカヌムは姿を消す。テネブライの振り下ろしたサーベルは空を切る。
「くっ! ⁉」
先程に比べると小規模ではあるが、桜島が数度噴火した。噴煙の中から、双頭竜よりは幾分小柄ではあるが、数十頭の竜が翼をはためかせ、電光石火たちに向かってきていた。
「あ、あれは⁉」
「イマイマツィイヤツラメ……オヤノアダハコラガウツ……」
「またあの女の声や! 親の仇って⁉」
「双頭竜の子供ということだろう!」
「あ、あんなにぎょうさん……」
大洋の言葉に隼子が絶句する。
「あ~あ~、マイクテスト、マイクテスト……」
「⁉」
またもや違う女の声が戦場に響き渡る。
「皆さん、大変恐れ入りますが、足場から離れて下さい~」
「なんや⁉」
「飛行能力の無い機体の方は、お近くのハッチを開きますのでそこに入って下さい」
足場が大きく揺れる。大洋が戸惑いながらも隼子に指示する。
「隼子、飛行形態に変形だ!」
「わ、分かった!」
電光石火が飛行形態になり、その場を飛び立つと、桜色の足場がゆっくりと浮上する。
「う、浮いたで⁉」
足場は浮かび上がると、花のつぼみが開くように、ゆっくりと左右に開閉する。
「これは……⁉」
大洋が目を疑う。開花したその中に、巨大戦艦の姿があったからである。
「航空戦艦『桜島』出航せよ‼」
「⁉ も、もしやこの声は⁉」
電光石火のモニターに軍服に身を包んだ眼鏡の女性が映り、にっこりと微笑む。
「ごきげんよう、この桜島の“艦長”を務めております高島津伊織です」
「「「ええっ⁉」」」