第10話(3) 隊長、激闘
「ええい!」
御盾の振る軍配を御剣が刀で受け止める。
(凍らされた奴らの氷を溶かすつもりが、大分引き離されてしまった!)
「戦力は分散させるに限るからな……」
「!」
「貴様の考えていることなど大方そんなところだろう?」
「ふん、癪に障る奴よの!」
鍔迫り合いの状態から互いに力強く押し込んだ為、両者は反発し合い、距離を取る。
「言葉巧みに此方を尚右から降ろすとは! 色々と賢しい手を使う!」
「事実を捻じ曲げるな……挑発したのは又左で、それに乗ったのはあの妖犬だ」
「あの妖猫は尚右に相当対抗心があるようだな!」
「貴様ほどではない……」
「猫と同じにするな!」
「だから事実誤認を止めろ、猫未満だと言っている……」
「! キィ―――!」
御盾が軍配を振るうが、御剣が横に飛んで躱す。
「ちっ!」
御盾がすぐさま追撃しようとするが思い留まり、その場で呼吸を整える。
(落ち着け此方よ……冷静さを欠いてはならん、頭に血が上っていては奴には勝てぬ……それではこれまでの二の舞じゃ……)
呼吸を落ち着かせると、御盾は御剣の方にゆっくりと向き直る。
(軍配の一撃の重さが格段に増している……加えて、互いの得物のリーチ差を埋めるあのスピード……相当鍛え上げてきたようだな……)
御剣は刀を横に構えながら、警戒心を強める。御盾が軍配を横に振るう。
「『風林火山・風の構え・疾風』!」
「!」
巻き起こった突風を受けた御剣は体勢をやや崩す。それを見た御盾はニヤリと笑う。
(隙を見せたな! ここが狙い目よ!)
御盾は軍配を縦にして、それを前に突き出して叫ぶ
「『風林火山・火の構え・火炎』!」
「上杉山流奥義……『凍柱』!」
御盾の軍配から激しい炎が噴き出すが、御剣は自身の前に氷の太い柱を立てて、火炎の放射を防いでみせる。御盾が驚くが、すぐに気持ちを切り替える。
「その程度の氷柱、溶かしてくれるわ!」
「それは手間が省けて助かる」
「何っ⁉」
次の瞬間、御剣は自身の前の氷柱を思い切り蹴り飛ばす。炎によって溶けやすくなっていた柱はあっけなく折れ、その折れた柱は御盾のみぞおちに命中する。
「ぐはっ!」
「まだだ!」
「!」
御剣が宙を飛び、柱の端の部分に飛び乗る。てこの原理で、柱のもう片方の端の部分が上に勢い良く上がり、御盾の顎に激突する。
「ぐふっ!」
予想だにせぬ攻撃を喰らった御盾は仰向けに倒れ込む。それでも、やや間を置いてではあるが、なんとか半身を起こそうと試みる。その様子を見て御剣は感心する。
「ほう、随分とタフだな……」
「ぐっ……」
「脳が相当揺れているはずだ、下手に動かん方が良いぞ」
「……」
「この対抗戦は一度だけ回復がありだったな。貴様自身はまだ回復してなかっただろう。術を使わないのか?」
「キョナタノミャケダ……」
「ん? なんだ?」
「其方がアギョ(顎)を砕いたシェイデ(せいで)ウミャク(上手く)喋れんのだ……」
「そうか、それは悪かったな」
「キョキョデ(ここで)回復してもオソリャク(恐らく)同じキョト(事)……潔くミャケ(負け)を認めよう……」
「じゃあ、決着ということで良いわね?」
「⁉ み、雅さん!」
いきなり背後に現れた雅に御剣は驚く。
「相変わらず僅かに気を抜いちゃう癖があるわね、御剣っち。油断大敵よ~」
「はっ、精進します……」
「隊長!」
「大丈夫ですか⁉」
勇次と愛が遅れて駆け寄ってくる。
「ああ、二人とも無事だったか」
「まあ……」
「なんとか……」
「なによりだ」
御剣が安心したように頷く。それを見て雅が口を開く。
「ということでこの対抗戦は上杉山隊の勝利ってことで……」
「ちょっとお待ち下さい」
「ん?」
「まだ又左と尚右の決着が着いておりません」
「ああ、ニャンちゃんとワンちゃんね……放っておいても良くない?」
「そういうわけには参りません」
「どこら辺で戦っているのかしらね~?」
雅が周囲を見回すと、茂みから声がする。
「探しているのはこいつらのことかい?」
「⁉」
傷を負った又左と尚右が乱暴に投げ捨てられ、勇次たちの下に転がる。
「又左!」
「ニャオスケ!」
「半妖は半妖でも用があるのは人型なんだよなあ~」
首の骨をコキコキと鳴らしながら、長い黒髪を後ろで一つ縛りにした男が姿を現す。
「なんだ、てめえは⁉」
「答える必要は無いね、鬼ヶ島勇次。俺たちと一緒に来てもらうぜ」
男が勇次をビシッと指差す。
「なんだと⁉」
「勇次君のことを知っている……?」
「なかなかの妖力ね、接近を私に気が付かせないとは……しかもウチの隊員たちが張った結界も破ったっていうこと?」
「それなりやったけど、それほど手応えは無かったで?」
「⁉」
別方向に目を向けると、虎縞のジャケットを羽織り、ジーンズ姿の女が現れる。
「だ、誰だ⁉」
「凄い妖力……」
「貴様は……」
「貴女……ウチの可愛い隊員たちに何をしてくれたの?」
雅の問いにジャケットを羽織った女性は笑いながら首をすくめる。
「別に? 単に通り道におって邪魔やったから、軽くどついたっただけやで? 運が良ければ生きとるやろ」
「ふ~ん……」
「雅さん、こいつは……」
「御剣っちはそっちのロン毛くんをお願い、こっちの子は私がお仕置きしてあげるわ」
「……了解しました」
雅と御剣がそれぞれ、謎の乱入者と対峙する。