君たちに決めた!
花祭りが無事終了しました。
その夜、会場だったブラコンベで関係者を集めた慰労会が開催されました。
会場として、おもてなし酒場を提供したのですが、多数の人々が集まっていました。
会は、ブラコンベの領主代行を努めている辺境駐屯地隊長のゴルアの挨拶で始まりました。
「皆様、花祭り本当にお疲れ様でした。思い返せば半年前、不肖この私がこの辺境都市ブラコンベのですね……」
根が真面目なゴルアは酒を片手に延々と挨拶を続けていったのですが、その挨拶があまりにも長いもんですから、いつしか会場のあちこちから
「もういいじゃねぇか!」
「乾杯だ乾杯!」
そんな声と同時に本当に乾杯する声が響き始めまして、気がつけばいつの間にか会場内は慰労会本番に突入していたんです。
で、完全に置いてけぼりをくらった格好のゴルアですが、そんな会場内の様子などお構いなしとばかりに最後まで挨拶を続けていきました……中盤以降は誰も聞いていなかったんですけどね。
さて、僕はまず各都市の商店街組合の蟻人達が集まっているテーブルへと移動していきました。
なんといっても、この蟻人達がいたからこそ今回の祭りが成功したといっても過言ではありませんからね。
参加費の管理やテントの割り振り、宿泊場所の確保・案内や両替、万引き対応・不良品の苦情対応から迷子の対応までとまぁ、何から何まで手を回しまくってくれていたのですから。
「皆さん、ほんとにお疲れ様でした」
僕がそう言うと、蟻人さん達は一斉に
「「「いいえ、こちらこそお世話になりましたですです」」」
そう言いながらスアビールを一気に飲み干していきました。
……しかしあれです、この蟻人さん達って見れば見るほどみんなそっくりなんですよね。
こうして一同に介されてしまうと、誰が誰なのかわからないといいますか……
僕はしばらく蟻人さん達と祭りの話題で盛り上がりました。
今回、コンビニおもてなしの屋台からほとんど移動することが出来なかった僕なのですが、会場内はどこも大盛り上がりだったそうです。
特に人気だったのが、ロジクワールドサーカスだったそうです。
動物達を巧みに操りながら、様々な芸を披露していくその出し物は毎回拍手喝采の雨あられだったそうです。
なんでも、「この街気に入ったよ。ララコンベってとこの温泉もいいねぇ」と、団長のロジクさんが言っていたそうで、また近いうちに公演に来てくれることになったそうです。
ちなみに、歌を歌っているトキ人はいなかった?って聞いてみたところ、
「あぁ、それなりに人が集まっていたですです」
蟻人さんの一人がそう教えてくれました。
確か仲間を探していたはずですけど、ここで見つかったのかなぁ……
ララコンベからやってきたドンタコスゥコ商会の屋台も大盛況だったそうです。
あちこちで品物を仕入れているドンタコスゥコ商会は、今回は南方の珍しい果物や北方にしか住んでいない魔獣の毛皮など、ブラコンベ一帯では入手が困難な逸品・珍品を多数販売していたそうです。
コンビニおもてなしで仕入れた品は別の都市で販売しているということなんでしょうね。
こういった臨機応変な対応はさすがだなぁ、と思った次第です。
「いやぁ、それほどでもありますねぇ」
「うわ!? ドンタコスゥコ、いたのか!?」
と、いきなり僕の横に出現して照れ笑いし始めたドンタコスゥコにびっくりしたりた僕だったりします。
ちなみにオトの街の屋台も、ラテスさん達のパンや軽食を中心に盛り上がっていたそうです。
慰労会は、どの屋台も、街の店も大盛況だったこともあって夜遅くまで和気藹々と続いていきました。
◇◇
翌日。
今日はコンビニおもてなしの各支店・関連店の店長会議が行われる日です。
会議は閉店後ですので、それまでの間に僕は各支店を回っていきました。
まず最初に出向いたのは、ララコンベにある4号店です。
「あらら、店長ちゃん昨日はお疲れお疲れぇ!きゃは!」
そう言って店長のクローコさんが舌出し横ピースで出迎えてくれました。
なんか、この出迎えにもすっかり馴れた僕は、
「クローコさんもお疲れでした」
と、普通に挨拶を返していきました。
……慣れって怖いですね。
で、そのクローコさんに、僕はある提案をしました。
「どうだろう、妹のマクローコさんとその仲間のみんなをクキミ化粧品のスタッフとして雇わせてもらえないかな?」
そうです。
今回の花祭りで、マクローコと彼女の店の元従業員だった二匹のゴブリンとゴーレム達はクキミ化粧品の屋台でかなりの戦力になっていました。祭りの中で聞いたところ
「こういうの、めっちゃ好きだし、なんかねバリ楽しい」
そう言っていたんですよ。
で、このクキミ化粧品部門は慢性的な人手不足でもありましたしね。
なんせ、クローコさん以外のバイト……じゃなかった、ゴージャスサポートメンバーのキョルンさんとミュカンさんはヤルメキススイーツと掛け持ちで受け持ってくださっているもんですからね。
それをクローコさんに伝えると、
「店長ちゃん、マジ神だよ! もう最高パーリナイトだよぉ!」
そう言うと、僕の両手を掴んで激しく上下にしていきました。
と、まぁ、こうしてマクローコさんとその仲間達がクキミ化粧品部門のスタッフとして加わることになりました。
ちなみにこの4号店も花祭り中は温泉目当てでやって来たお客さん達で大繁盛していたのですが、店長のクローコさんを始め、店員のツメバ・クマンコさんと商店街組合から派遣してもらったバイトさんが頑張ってくれて店を切り盛りしてくれたんですよね。
……ん?
ちょっと待った。
今、店内で作業している4号店の店員の中に1人見覚えのない人物がいるのに気がつきました。
商店街組合から派遣されたバイトさんって、花祭りの間だけだったはずですが……
そのもう一人……「レレンナ」って名札を付けているのですが、よく見るとこの人、どこか見覚えがあります……
僕が腕組みをしていると、レレンナは
「あ、あの……私……商店街組合から派遣されて頑張らせていただいていたのですが……あの……」
しどろもどろな感じでそこまで言うと、ここでクローコさんが会話に割り込んできました。
「店長ちゃん、この子ねバリ頑張ってくれたの、出来たらね、このまま雇いたいなとクローコ思っててね、それで今日も来てもらっちゃってたんだけど……駄目かな?」
そう言いながらレレンナを抱きしめていきました。
ここで僕、ようやく思い出しました。
そうです、このレレンナってば、4号店を開店する際に書類審査で落選していたにも関わらず面接にやってきていた元上級魔法使いのお茶会倶楽部の下っ端構成員だった上級魔法使いです。
で、詳しく話を聞いてみますと……なんでもレレンナは4号店の面接を落ちた後、商店街組合のバイトとして一生懸命仕事をこなしていたんだとか。
その態度が認められて最近ではあちこちの店のヘルプ要員として派遣されるまでになっていたそうなんです。
で、レレンナは商店街組合のペレペの紹介状を持っていたのですが、それによりますと、
『勤務態度は非常に良好ですです。本人はコンビニおもてなしでの勤務を強く希望していますですです。私もお勧めしますですですので、まずはお試しからでも雇ってやっていただきたいですです』
そう書かれていました。
その内容を確認した後、僕は改めてレレンナへ視線を向けました。
そんな僕の前で、レレンナは深々と頭を下げています。
「お願いします。尊敬する伝説の魔法使いのステルアム様の旦那様のお店で働きたいんです。どうか、どうかお願いしますぅ」
「店長ちゃん、クローコからもお願い、みたいなぁ」
レレンナの横で、クローコさんも頭を下げています。
……そうですね、ペレペの紹介状もありますし、クローコさんもここまで言っていますし、何より本人もすごくやる気のようですし……
「わかった。じゃあまずはバイトから始めてもらおう。それでいいかな?」
僕がそう言うと、2人はその場で抱き合って喜んでいました。
次に僕は本店に戻りました。
厨房に移動すると、そこにはヤルメキスと一緒にケロリンの姿がありました。
昨日はヤルメキスの家……つまりはオルモーリのおばちゃまの家に宿泊したケロリンは、今朝もヤルメキスのお菓子作りを手伝ってくれていたのですが、
「どうだろうケロリン。このままコンビニおもてなしで働く気はないかい?」
僕はケロリンにそう言いました。
するとケロリンは
「ふ、ふぉ!?」
目を丸くすると同時にすさまじい勢いで真上に飛び上がり、天井にぶつかっていきました。
で、床に落下すると同時に、その場で土下座をしています。
「な、な、な、なんと言いますかぁ……ほ、ほ、ほ、ホントによろしいのですかぁ……わ、わ、わ、私のようなふつつか者がお世話になってしまっちゃってぇ……」
「うん、ケロリンのお菓子作りの腕前は花祭りでしっかり見させてもらったしね。是非ともお願いしたと思っているんだけど……」
僕がそう言うと、ケロリンはおずおずと頭をあげまして、
「ふ、ふ、ふ、ふつつか者ですがぁ、よ、よ、よ、よろしくお願いいたしますぅ」
そう言いました。
そんなケロリンに、ヤルメキスが
「ケロリンよかったでごじゃりまするぅ! また一緒にお菓子を作れるでごじゃりまする!」
そう言いながら抱きついていきました。
「ヤルメキスちゃん、嬉しいぃよ~」
ケロリンも泣き笑いしながらヤルメキスを抱き返していました。
こうしてスイーツ部門にもあらたな人員が加わることになりました。
◇◇
その日の閉店後に行われた店長会議でこのことを発表したところ、みんなもこれに賛同してくれました。
こうして、コンビニおもてなしに、新たなメンバーが加わる事が正式に決定しました。
ちなみに……
マクローコとその仲間達は今までどおりクローコさんの部屋に居候しながら通うそうです。
レレンナは蟻人達の宿舎を間借りしていたそうなのですが、本店の二階にありますおもてなし寮へ引っ越ししてきました。
ケロリンは、ヤルメキスの希望とオルモーリのおばちゃまのご厚意もありまして、オルモーリのオバちゃまの家に居候することになりました。ケロリンのお母さんも一緒です。
とまぁ、こうして頼もしい仲間が新たに加わりましたし、僕もいっそう頑張らないといけませんね。