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あの女とこの女 その1

 花祭りも終わり、各都市はいつもの様子に戻っていました。
 そんな中、コンビニおもてなしでは今までとはちょっと違った光景があちこちの支店でお目見えしています。

 本店に新たに加わったケロリンは、ヤルメキスと一緒に出勤してきました。
「この間の蛙人さんですね、よろしくお願いいたしますわね」
 僕がナカンコンベにある食堂ピアーグで調理指導をしているため、本店での弁当類作成業務の全般ならびに厨房の総支配人的立場になっている魔王ビナスさんが笑顔でケロリンを迎えていました。
 僕が元いた世界で言うところの洋系スイーツのヤルメキスに対して、和系スイーツを得意にしているケロリンはヤルメキススイーツの新作として自分のつくったお団子類を店頭に並べることになっています。
「せ、せ、せ、せっかくだし、ケロリンスイーツとか新しいブランド名を命名したらいかがでごじゃりましょう?」
 ヤルメキスはそう言ったのですが、ケロリンは
「い、い、い、いぃえぇ、私はぁ、ヤルメキスちゃんと一緒にお菓子を作れてぇ、その上お給金まで頂けるだけで十分なのぉ」
 そう言って首を左右に振っていました。
 そんなわけで、ヤルメキススイーツがさらに充実することになったわけです。

 4号店では、新たに店員になったレレンナが気合い入りまくりです。
 本店二階にありますおもてなし寮に入寮したレレンナは、まだ暗いうちから起き出すとまず寮の廊下掃除を始めていました。共同のお風呂やトイレなどもピッカピカに掃除していたんですよね。
「それは当番制ですから……」
 寮長のシャルンエッセンスがそう言ったのですが、
「いえ、新入りですのでこれくらいぜひともさせてくださいませ」
 レレンナはそう言うと寮をピッカピカに磨き上げていきました。
 その後、朝食を済ませたレレンナは誰よりも早く転移ドアをくぐって4号店へ移動していき、まずは店の掃除を行っていきました。
 そして店が開店すると
「いらっしゃいませ!」
 と、笑顔で接客し、
「ありがとうございました!」
 と、笑顔でレジ打ちをこなし、
「またお越しくださいませ!」
 と、笑顔で品物補充をしていたのです。
 一度は不採用になったレレンナですが、回り道をしたけれどこうして店の戦力になってくれていて本当に助かっています。

 で、クローコさんと一緒に住んでいるマクローコとその仲間達はですね、本店の裏にありますクキミ化粧品製作所として使用している巨木の実の部屋にやってきています。
 すでにクローコさんから化粧品の作成方法を教えてもらっているマクローコ達は、朝からここで化粧品を作成することになっています。
「こういう作業ね、マクローコバリ楽しいってば!」
 マクローコはそう言いながら笑顔で舌出しダブル横ピースをしていました。
 ……そうだったね、君はダブルだったね。
 今は化粧品の製造に専念しているマクローコ達ですが、元々は美容室を経営していたわけですし、いつかこの化粧品とうまく絡ませた感じの美容室をさせてあげることが出来たらな、と思ったりしてはいるのですが、ぶっちゃけた話、めぼしい店舗物件がどの都市にも見当たらないんですよね。マクローコ達が以前使用していた店舗もポルテントチップ金融に差し押さえられたままですし……
 なので、今のところは化粧品作りにに専念してもらおうと思っている次第です。

◇◇

 ざっと各店舗の様子を見て回った僕はナカンコンベにある5号店へと戻って来ました。
 ブラコンベで花祭りが開催されていた間も大勢のお客さんで賑わっていた5号店なのですが、そこにルアの姿がありました。
「よう店長。花祭りはお疲れさん」
 そう言ってニカッと笑うルアですが、その背にはしっかりと娘のビニーを背負っています。
 ルアは僕に歩み寄ってくると
「店の改修工事がさ、完全に終了したんで一緒に確認して回ってくれるかい?」
 僕の肩を叩きながらそう言いました。
 
 というわけで僕は、店をシャルンエッセンス達に任せて5号店の店内をルアと一緒に回ることにしました。

◇◇

 この建物は石造りの地上2階地下1階です。
 で、地下のパン工房と1階のコンビニおもてなし5号店の店舗部分、そして屋上にある魔道船乗降タワー部分はすでに完成していましたので、今回工事が完了したのは1階の店舗以外の部分と2階部分です。

 1階で新たに完成したのは店の奥にあるおもてなし商会ララコンベ店部分と、おもてなし診療所部分です。
 おもてなし診療所はコンビニ部分と商会部分のちょうど間にあります。
 縦長の建物のちょうど真ん中部分ですね。
 コンビニの店内の壁に出入り口の扉が設けてありまして、5号店開店中はここから診療所の中へ入ることが出来ます。
 コンビニおもてなし内で販売しているスア製の薬品のうち、効能が特に強かったり使用上の注意をよく守って使用する必要がある、僕が元いた世界で言うところの薬剤師の説明を受けてからでないと購入することが出来ない要指導医薬品や第一種医薬品にあたると思われる品々をお求めの皆様にはこちらへ入って頂いて、おもてなし診療所の店員というか先生をしているテリブルアの指導を受けてもらってから購入してもらう仕組みになっています。
 で、5号店が閉店してからは、コンビニの入り口の横にある脇道を少し入ったところの壁に扉が設置されていまして、ここから診療所内に入ってもらう仕組みになっています。
 この診療所部分にはもうひとつ仕組みがあるのですが、それはまた改めてということで。

 僕が店内側の扉を開けるとその中は診療所になっていまして、奥にテリブルアの姿がありました。
 テリブルアは、ちょうどお客さん対応をしているところのようでしたので、僕はそっと扉を閉めました。
 診療所部分の確認を一通り終えた僕は、今度はその奥にありますおもてなし商会ナカンコンベ店へと移動していきました。
 店員専用の扉をくぐり、廊下を歩いていくと、程なくしておもてなし商会の部屋へと到着しました。
 扉を開けると、部屋の中ではファラさんが忙しそうに書類のチェックをしながら大勢のお客さんの対応をしているところでした。

 ここおもてなし商会では、コンビニおもてなしで取り扱っている商品を卸売りしたり、店内の品物を作成するのに必要な資材をまとめ買いしたりしています。
 部屋の前には荷馬車を複数台止めることが出来る荷馬車係留所と、品物を溜めておける倉庫が併設されています。
 先程本格的に業務を開始したばかりのおもてなし商会なのですが、荷馬車係留所はすでに荷馬車で溢れかえっています。
 で、ファラさんの前には、その馬車の持ち主と思われる方々が大量に並んでいるんです。
 この方々、全員ナカンコンベでお店を開いている商会の方々なんですよね。
 皆さん、コンビニおもてなしのプレオープンにお越しくださり、コンビニおもてなしで扱っている品々をぜひとも卸売りしてほしいと言ってこられているんです。
 特に人気なのは、スア製の魔法薬・スアビール・ペリクドさんのガラス製品・ルアの龍の鱗製の武具類ですね。中には化粧品や赤ちゃん用品の購入の打診をしてくる方もいるようです。
 かなりの数のお客さんを前にしているファラさんですが、
「じゃあまずはスアビールの入札からいきましょうか」
「え? に、入札ですか?」
「それはそうでしょう? これだけの方々が欲しておられるのですからねぇ」
 そんな感じで、そろばん片手にうまく話を進めてくれているようです。

 ファラさんには、あとで部屋や各種施設の使い勝手を確認することにして、僕とルアは2階へと移動していきました。
 
 2階部分は倉庫と居住空間になっています。
 倉庫は、コンビニおもてなしの在庫を置いておく場所です、
 で、居住空間は何かといいますと、おもてなし第2寮として使用することにしているんです。
 というのもですね、今回新たにレレンナがおもてなし寮に入寮したのですが、これでガタコンベの本店の二階にあるおもてなし寮がほぼ一杯になってしまったんです。
 そのため、今後のことも考えて新たな寮施設をここに作ったんです。
 第一寮の物ほどほど大きくはありませんが、共同風呂もちゃんとあります。
 ちなみに、グリアーナとジナバレア、それにトルソナ3姉妹がここに入る予定になっています。
 
 一通り工事が終了した箇所を見て回った僕とルア。
「さすがルアだね、ばっちりだったよ」
 僕はそう言って親指をグッと立てました。
「あったり前だろ、このルア工房が下手な仕事するわけないってのさ」
 ルアもニカッと笑いながら僕同様に右手の親指をグッと立てました。

 コンビニおもてなし5号店の改修工事が終了しましたので、ルア達は今度は商店街の奥、街の郊外へ向かって移動していきました。
 ルアが購入した廃屋がそこにあるのですが、その廃屋を改修して、ルア工房ナカンコンベ支店を作るんです。
 支店を出すのが長年の夢だったって言ってたルアなのですが、それだけに支店を作ることが出来ることになったのが嬉しくて仕方ないらしく、街道をスキップしながら進んでいきました。
「さて、僕も5号店の営業に戻ろうか」
 僕はそう言いながら軽く肩を回しました。

 すると、そんな店内に商店街組合の蟻人レトレがやってきました。
 レトレは、妙に渋い表情をしたまま僕の方に歩いてきます……はて、何かあったのでしょうか?

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