花祭り その6
花祭りは以後も順調に進んでいきました。
魔道船の運航が始まって初めて迎えた祭りなわけですが、その影響はやはり大きかったようです。
祭りが開催されているブラコンベはもちろんですが、魔道船が就航しているララコンベとガタコンベにもかなりのお客さんが流れていたようです。
以前なら馬車しか移動手段がなかったため移動に時間がかかるため主催都市以外への影響は軽微だったのですが、定期魔道船のおかげで各都市間の移動時間が大幅に短縮されたこともあり、花祭りにやって来たお客さん達が他の都市にもこぞって足を伸ばした結果のようです。魔道船からの眺めを楽しむついでに他の都市へ足を伸ばしたって意味合いも大きかったようですね。
これは今までに無い画期的な出来事だったと言えます。
特に温泉街として復興し続けているララコンベには、特に多くのお客さん達が流れたらしく、以前からある温泉宿に加えてオープンしたばかりの新温泉宿までもが祭り期間中ずっと満室状態になっていたそうです。その結果、ララコンベの街もお客さんで溢れかえりあちこちで嬉しい悲鳴が上がりまくっていたそうです。
コンビニおもてなし4号店もその恩恵にあずかりまして、ララデンテさんが販売している焼き温泉饅頭が飛ぶように売れたそうです。
この焼き温泉饅頭ですが、蒸した温泉饅頭を軽く焼くことで旨みを増しているんですが、ララデンテさんが作る端から売れていったそうです。
店内も、店長のクローコさんを中心にしてみんなで大勢のお客さんの対応をこなしていったそうです。
初日にクローコさんから、
「店長ちゃん、ちょっち忙しいっぽいから、商店街組合にヘルプ頼んでもよいよい?」
ってお知らせがあったので許可を出しておいたのですが、そのヘルプに来てくれた人もとっても頑張ってくれたそうです、はい。
魔道船のおかげで、ナカンコンベから大量にお客さんがやってきたわけですが、そのお客さんの数が半端じゃなかったんですよね。
例年の祭り会場って、朝一からお昼頃までは中央広場が大混雑して、午後になると街中に人が分散していくもんですから中央広場に出店していても交代で祭りを回る余裕があったのですが、今年は中央広場のお客さんが全く途切れることがなかったもんですから、誰一人として祭りを回る余裕がありませんでした。
そんな中、早々に屋台を終了させてパラナミオにあーんしてもらっていたテトテ集落の皆さんって……まぁ、コンビニおもてなしの屋台で販売している団子を買ってくれた上でやってもらっているので別にいいんですけど……せっかくいい場所をもらっていたのに勿体ないなぁ……
「何を言うか店長さん!」
「ワシ等にとっては祭りよりもパラナミオちゃんにあーんしてもらう方が重要なのじゃ!」
そう言い、真剣な表情で力説してくるテトテ集落の皆さんですが、
「はい、じゃああーんですよ」
そう言いながらパラナミオが団子を突き刺した爪楊枝を差し出すと、デレデレした顔になって
「あ、あ~ん」
って言いながら口をあけているんですよねぇ。
ただ、テトテ集落のネンドロさんに後で教えてもらったのですが、テトテ集落の屋台は準備していた生鮮野菜や干し柿などが早々に完売していたそうなんです。
つまり、この時の皆さんは売る物がなくなったから屋台を閉めてこっちに来ていたわけです、はい。
ちなみに、この時パラナミオが皆さんにあーんってしていた団子ですが、これはケロリンが作った品物です。
洋物系が得意なヤルメキスに対して、このケロリンは和物系が得意な感じですね。
コンビニおもてなしが提供した材料にもすぐ馴れて、団子を次々に作っていったケロリン。
途中で僕が串に団子3個を刺して軽く焼き、そこに砂糖醤油の葛餡をかけるいわゆるみたらし団子の作り方を教えてあげたところ、これもすぐにマスターしたんですよ。
試食してみたところ、十分売り物になるレベルの品物だったもんですからこれもすぐに店頭に並べてみたところ、これがまた飛ぶように売れたんです。
また、キョルンさんとミュカンさんのバイト……じゃなかった、ゴージャスサポートメンバーの2人が中心になって切り盛りしてくれたクキミ化粧品の屋台も初日から最終日までずっと大盛況でした。
ここを手伝ってくれたマクローコとゴブリン2匹とゴーレムの4人組が特に頑張ってくれたおかげが大きいですね。
気のせいか、マクローコばりのヤマンバメイクの女性が祭りの中にチラホラ出現していたような気がしないでもないのですが……
イートインコーナーを併設していたエンテン亭の屋台も常に人でいっぱいでして、蝸牛人のテンテンコウ♂がてんてこ舞いしながら頑張っていました。
ここは、ルア工房とペリクドガラス工房のお弟子さん達が給仕の手伝いを大挙してやってくださっていたので、どうにか回っていた感じです、はい。
魔法使い集落の屋台はといいますと……当初は魔法使い集落で作成している魔石や魔法雑貨を販売する予定になっていたのですが、結局ずっと魔法少女戦隊キュアキュア5のグッズを売り続けていました。
気がつくと魔女魔法出版のダンダリンダの姿がありまして、
「さぁ皆さん、魔法少女戦隊キュアキュア5の絵本も数量限定販売していますわよ!」
って言いながら屋台の一角でちゃっかり絵本の販売を始めていました。
さすが抜け目ないですね、魔女魔法出版ってば。
で、本体であるコンビニおもてなしの屋台も当然のように大盛況でした。
一番人気の弁当やパンが飛ぶように売れ、本店の魔王ビナスさんに弁当の、5号店のトレイナとトラーナにパンの追加を何度も頼んだ次第です。
エンテン亭の屋台とお客を取り合ってしまうんじゃないかと最初心配していたのですが、どちらの屋台も大盛況でしたので特に影響はなかったようです、はい。
スアビールとパラナミオサイダーも飛ぶように売れていきまして、夜におもてなし酒場で販売する数量に影響がでた程でした……一応タクラ酒も売れましたよ、それなりに。
他にもホットデリカやスアの魔法薬、ルアの武具やペリクドさんのガラス製品などが次から次へと売れていきました。
◇◇
最終日、祭り終了の魔法花火が空に打ち上げられていました。
「いやぁ、今回はすごい人だったなぁ」
僕は伸びをしながら声をあげました。
そんな僕に、屋台のみんなも僕同様に伸びをしながら笑顔を浮かべていました。
「パパ、お疲れ様でした!」
そんな僕の横にパラナミオが笑顔で駆け寄ってきました。
その後方にはリョータの姿もあります。
2人はすっかりお気に入りになった魔法少女戦隊キュアキュア5の衣装に身を包んでいます。
パラナミオはともかくリョータは男の子なんですけど、この衣装がすごくよく似合っているんですよね。
で、我が家の4人の子供達はみんな祭りの間中この格好をしていたもんですから、魔法使い集落の屋台のいい宣伝になっていたわけです、はい。
ちなみに、今のアルトとムツキは疲れてしまったらしく赤ん坊の姿に戻ってスアにおんぶ紐で抱っこされて眠っています。
「みんなもご苦労様、お手伝いありがとね、ホントに助かったよ」
僕はそう言って2人の頭を交互に撫でていきました。
すると2人は嬉しそうに微笑みながら、
「パパのお役に立ててパラナミオも嬉しいです!」
「リョータもです!」
そう言ってくれました。
そうしていると、
「新記録ですです!メッチャ新記録ですですぅ」
ブラコンベ商店街組合の蟻人のパラパが跳びはねながら僕のところに駆け寄ってきました。
「コンビニおもてなし様が運航してくださった魔道船コンビニおもてなし丸のおかげですです! 今回の花祭りは過去最高の来客数を記録したですですぅ!」
そう言いながら、パラパは僕の手を握ると何度も何度もその手を上下にしていきました。
「いえいえ、お役に立てたのでしたら何よりですよ」
僕はパラパにそう答えながら笑みを返していきました。
すると、中央広場に屋台を出していたみなさんがどんどん僕の周囲に集まり始めました。
「いやホント、あの魔道船のおかげだね、こんなに売れたのは始めてだったよ。礼を言うよ」
「ウチもだ、ホントコンビニおもてなし様々だよ」
皆さんは、僕に向かって口々にそう言い始めました。
「い、いえ……あの魔道船は僕じゃ無くて妻のスアが運航出来るように整備してくれたのであってですね……」
僕がそう言いかけると、人混みの向こうからスアがボクを見つめながらにっこり微笑んでいるのが見えました。
同時に僕の脳内に、
『……旦那様が頑張ったから、魔道船は運航できたの、よ』
そんなスアの言葉が流れ込んできました。
その言葉と同時に、僕の周囲にどんどん人が押し寄せて来まして、気がついたら
「よっしゃ! 花祭りの大成功を祝して店長を胴上げだ!」
って声と同時に、僕の体は宙に舞っていきました。
こうして、今年の花祭りは大盛況で幕を閉じたのでした。