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花祭り その5

 すっかり意気投合したヤルメキスとケロリンの2人。
 ヤルメキスも本店でのスイーツ作成作業が一段落したらしいので、屋台で一緒にスイーツを作るように配慮してあげたところ、2人は大喜びで作業を開始しました。
「こうして一緒にお菓子を作るの、久しぶりケロね」
「そうでごじゃりまするねぇ……あの頃はお金は無かったでごじゃりまするが、時間だけはいっぱいあったでごじゃりまする」
 2人はそんな会話を交わしながら作業していたのですが……ケロリンが背負っていたリュックから取り出した材料を見た僕は
「ちょ、ちょっと待った」
 思わず両手をその材料に伸ばしてしまいました。
 いえね……どうも何かの粉のようなのですが、見るからに不純物が混じっているといいますか……

 そう言えば、始めて出会った時のヤルメキスもお金がなくて、粗雑な材料で作ったカップケーキを裏通りで売っていたんでした。
 それだけに、その友人のケロリンがお金を持っていなくて当然といいますか……

 で、ケロリンからその材料を受け取った僕はすぐに中身を確認したのですが……やはりかなり粗末な材料といいますか、ケロリン的には一生懸命準備した材料なんだと思いますけど、これを使って作ったスイーツをお客さんにお出しするわけにはいきません。
 その材料を見たところ……どうやら穀物類を集められるだけ集めて粉にした物のようです。
「ケロリンはこれで何を作ろうとしてたんだい?」
「あ、はい。私わぁ、お団子を作るのが好きケロ。なので今日もヤルメキスちゃんにお団子を食べてもらおうと思ってたケロ。その後で、裏通りで販売しようと思ってたケロ」
 僕の言葉にそう答えたケロリン。
 となると……コンビニおもてなしで使用している米粉を使ってもらえばいいか。
 それに団子なら米粉の他にも砂糖や塩、みたらしにするなら醤油やみりんなんかもないとな……
 そう思った僕は、一度本店へ戻ると厨房から必要と思われる材料や調味料を片っ端から魔法袋に詰め、改めてブラコンベの屋台へと戻りました。
 で、その材料を前にしたケロリンなんですが……
「あ、あのぉ……こ、こんなに材料を使ったことなんて、ないですケロ……それに、この材料とか調味料とか……すっごく高そうケロ……」
 そんな感じでですね、目の前に並んだ材料を前にして体中から脂汗をダラダラ流し始めたんですよね。
 過度に緊張してしまうとこんな汗を流しちゃうのって、蛙人の習性なんでしょうね。
 ただ、まぁこれでは話がまったく進みません。
 とりあえず、ケロリンにいつも作っているようにお団子を作ってもらいました。
 ケロリンは、自分の持って来た材料を使って器用にそれらを混ぜ合わせていきます。
 砂糖も塩も使いません……正確には、高価なために使えないというか、使ったことがないのでしょう。
 その代わりに、果物を搾った汁を加えて甘みを加えています。
 それに水を加えながらさらにこね、団子状にしていきます。
 それを、沸かした湯の中で茹でること数分……浮かんできた団子を冷水に移して冷やした後、水気を切ったところで、
「はいぃ、出来ましたケロ」
 ケロリンは笑顔でそれをヤルメキスと僕に差し出しました。
 で、その1つを頂いた僕なのですが……正直、すごく美味しい!って品ではありませんでした。
 ですが、噛めば噛むほど団子の奥から果汁の甘みが仄かに漂ってきまして……素朴で懐かしい味……そんな表現がしっくりくる感じですね。
「これでごじゃりまする!ケロリンの味でごじゃりまする!」
 そのお団子を、ヤルメキスは嬉しそうに食べています。
 そんなヤルメキスの姿をケロリンも嬉しそうに見つめています。

 ケロリンのスイーツ作りの腕がしっかりしているのはわかりましたので、
「じゃあさ、今度は僕は言う通りに作ってっみてくれるかい?」  
 僕はそう言って、改めてケロリンにお団子を作ってもらいました。
 今度は、僕が本店から持って来た材料を使ってもらいます。
 で、僕の指導を受けながら、その通りにお団子を再度作っていくケロリンなのですが、手順がそう違う訳でもありませんので、ケロリンは特に戸惑うこともなく団子を完成させました。
 で、今度はそれを3人で試食したのですが、
「ん!?」
「んん!?」
 1つ食べると同時に、ケロリンとヤルメキスは互いに目を丸くしながら顔を見合わせました。
「これ、すごく美味しいでごじゃりまする!」
「こんなに美味しく出来たの始めてケロ」
 そう言うと、二人はどんどん団子を口に運んでいきました。
 確かにいい材料を使ったというのはありますが、やはりケロリンの腕が良いというのもあったと思います。
 この団子には、相変わらずどこか懐かしい感じの甘さが感じられましたからね。
 
 そこで、ケロリンには、ヤルメキスと一緒にスイーツ屋台を手伝ってもらうことにしました。
「ケロリンが作った団子の売り上げは全部あげるからさ」
「えぇ!?で、でも、材料代とかありますケロ」
「なら、屋台の手伝いも一緒にしてくれるかい? その手伝い賃と材料代を相殺ってことでどうだろう?」
「そ、そういうことでしたら……よろしくお願いしますケロ。頑張るケロ」
 そう言ったケロリンは、ヤルメキスと一緒にはりきってスイーツ屋台を盛り上げていってくれました。

 この2人がスイーツ屋台を仕切りはじめてくれたので、ここを手伝ってくれていたキョルンさんには、ミュカンさんがやっている化粧品屋台の手伝いに回ってもらいました。
 と、いうのがですね……
 時間操作魔法を駆使しながら接客を行っていたミュカンさんなんですが、そんなミュカンさんを持ってしてもさばききれない程の女性客の皆さんが化粧品屋台に殺到していたんです。
 この世界ではあまり馴染みのない乳液や化粧水なんかも販売している上に、メイク落としや、衣類に付きにくい口紅なんかも販売しているわけです。
 それに加えて、そういった化粧品を始めて目にするナカンコンベからのお客さん達が多数この広場に集まっているわけです。
 噂が噂を呼んで、ナカンコンベからの女性客達がどんどんこの化粧品屋台に集まって来ているわけです、はい。
 ペリクドさんの工房やルアの工房の若い女性職人さん達が手伝いに来てくれていますけど、キョルンさんやミュカンさん程化粧品の知識をもっていないもんですから接客では役に立ちません。
 で、2人体勢になったにもかかわらず、この屋台の前の列はどんどん長くなっていました。
「店長さん、さすがにこれはまずいと思いますわ、ねぇミュカンさん」
「えぇ、私もそう思いますわ、キョルンお姉様」
 キョルンさんとミュカンさんは笑顔でそう言っていますが、マジで焦っているのは間違いありません。
 物が化粧品だけに僕が手伝うことも出来ません。
(さて、どうしたもんか……)
 僕がそんな感じで考え込んでいると、
「店長ちゃま!? この混雑ってばマジやばくね?」
 僕の後方からそんな声が聞こえて来ました。
 僕が振り返ると、そこにはマクローコの姿がありました。

 先日、ピアーグで一悶着起こした後、現在はコンビニおもてなし4号店で姉のクローコさんにビッシビシしごかれているマクローコです。

 どうやら、4号店から化粧品の追加を持って来てくれたところのようですね。
「あぁ、クローコか、確かにそうなんだけどさ……さてどうしたもんかと悩んでいたところなんだよ」
 僕が困惑しながらそう言うと、マクローコは 
「店長ちゃま、よかったらマクローコが手伝うし! クキミ化粧品のことならマクローコ、マジパナイから!」 
 そう言って舌出しダブル横ピースをするマクローコ。
 ……そうか、君はダブルか……
 そんなマクローコを見ながら、クローコさんの舌出し片手横ピースを思い出していた僕でした。

 で、早速化粧品屋台の手伝いに入ってくれたマクローコですが……本人が言う通り、化粧品の説明がバッチリです。
「これね、基礎化粧品でね、マジパナイの!」
 とまぁ、言葉遣いには要改善の余地がありまくりですが、祭りの雰囲気もあってかそれを気にするお客さんは皆無でした。
 で、マクローコと一緒に荷物を持ってきていた2匹のゴブリンとゴーレム……マクローコの美容室の元従業員達ですね……この3人も化粧品の説明がばっちり出来るもんですから、しっかり戦力になっていました。
 一番びっくりしたのは、この3匹が女性だったってことですかね……

 そんなこんなで、予想外の出来事があちこちで発生した花祭り初日ですが、どうにか乗り切ることが出来たわけです、はい。

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