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花祭り その4

 屋台がどれも問題なく営業出来ていることを確認した僕は、ここで一度ナカンコンベのコンビニおもてなし5号店へと移動しました。
 スアが休憩ブースの中に臨時の転移ドアを作ってくれていますので、それを使って5号店へと戻ったのですが……
「あぁ!? て、店長はんええとこに戻ってきてくれはったわぁ」
 今日のお客さん誘導係のジナバレアが困惑しきりの様子で僕へ視線を向けてきました。
 ちなみに、今日のシャツには「大誓文払い」と手書きされています。
 ……っと、そんなことよりも店内です、問題は。
 店には昨日以上のお客さんが殺到していました。
 その大半のお客さんが定期魔道船コンビニおもてなし丸のチケット目当てのお客さん達のようです。
 ですが、よく見ると今日はその客層が若干違っていたのです。
 ジナバレアの前で列をなしているお客さん達は、ジナバレアが僕を店長と呼ぶなり、その視線を僕へと向けてきました。
「あなたがこの店の店長さん?」
「ちょっとお話があるのですわ」
「こら!こっちが先に並んでるんだよ!」
 とまぁ、そんな感じで僕と話をしようと、一斉に僕の元へと駆け寄ろうとしてきたんです。
 ジナバレアが必死になって誘導灯を振り回しているのですが、その一群は僕だけを見ているためまったく効果がないようです。

 とにかく、この一群にこのまま店内になだれ込まれたら大変です。
 僕は、とにかく一度店の外に出てそこで皆さんのお話を聞きました。
 で、この一群の皆様なのですが、全員このナカンコンベで店を開いている商店やお店の関係者の皆さんでした。
 要件は全員同じです。
「定期魔道船コンビニおもてなし丸の荷馬車枠の定期利用契約をさせていただきたい」
 とのことでした。
 なんでも、ナカンコンベから東方というのは、悪路が続くため行き来が困難なんだとか。
 このナカンコンベで言えば、ドンタコスゥコ商会が唯一頑張って定期的に通っていたくらいなんだそうです。
「ですが、この魔道船があるというのなら話は別です」
「ぜひ販路拡大のために利用させて頂きたい」
 皆さんはそんな感じで僕に向かって熱く語ってこられました。
 ただ、この定期魔道船コンビニおもてなし丸の荷馬車枠の定期利用契約に関しては考えていなかったもんですから、僕はとりあえず皆さんの連絡先を教えてもらい
「目処が付いたら説明会を開催させていただきますので……」
 そうお話させて頂き、この場は一度お帰り頂くことにした次第です。
 ただ、この皆さんの大半は引き続き
「出来れば、そちらの商品を卸売りして頂きたいのですが」
 そう、申し出てこられました。
 すると、この話を聞きつけたおもてなし商会のファラさんがそろばん片手に笑顔で駆け寄ってきました。
「はいはいはい、卸売りのお話でしたら私がお聞きいたしますわ」
 そう言うと、ファラさんは卸売り契約希望者を引き連れて店の裏手にあるおもてなし商会の事務所へと移動していきました。

 ただ、このお客さん達には申し訳ないんですけど、ドンタコスゥコ商会以上に荷馬車枠を優遇したり卸売りしたりする気はないんですよね。
 ドンタコスゥコ商会は自分達で頑張ってガタコンベまで通って来てくれていたわけですしね。そんなドンタコスゥコ達を優遇してあげたいと思っているわけです、はい。

 これでようやく店の前の異常な混雑が解消されました。
 どうやら、今日は僕とスアのアナザーボディがいなかった上に、先程のいつもと違うお客さん達が押し寄せたせいで店内がパニックになってしまったようですね。
 少し考えた僕は、2号店に勤務しているシャルンエッセンスの元メイド達を2人と、3号店に勤務している木人形のワザンに急遽ヘルプに来てもらいました。
「シャルンエッセンス、これでまだ問題が起きるようなら転移ドアで僕を呼びに来てね」
「はい、リョウイチお兄さ……あ、いえ、タクラ店長様、了解いたしましたわ」
 シャルンエッセンスはそう言って僕に笑いかけました。

◇◇

 どうにか5号店の混雑を解消させることに成功した僕は、再びブラコンベの屋台へと戻りました。

「あ! パパ!」
 すると、店内にはパラナミオを筆頭に、リョータ・アルト・ムツキら、子供達の姿がありました。
 
 ……で、ですね……

 パラナミオ達の姿を見た僕は目が点になりました。
 いえね……4人全員が例の魔法少女戦隊キュアキュア5のコスチュームに着替えていまして、その姿で接客のお手伝いをしているんですよ。
 なぜか男の子のリョータまでフリフリの女の子用の衣装を嬉しそうに着ています……その姿からは男の子とはまったく想像出来ない感じです、はい。
「パラナミオ、その衣装はどうしたんだい?」
「あ、はい! 魔法使いのお姉さん達に『魔法少女戦隊キュアキュア5大好きです!』ってお話したら貸してくれたのです!」
 パラナミオはそう言って嬉しそうに僕の前でくるりと一回転しまして、
「どうですか? 似合ってますか」
 そう言ってにっこり微笑みました。

 なんでも、この魔法少女戦隊キュアキュア5の絵本がパラナミオが通っている学校の図書コーナーにもあるそうでして、パラナミオはそこでこの作品のファンになっていたみたいですね。
 で、リョータ・アルト・ムツキの3人はキュアキュア5のことは知らなかったみたいなんですけど、パラナミオが着たフリフリ衣装が可愛いもんですから「自分達も着てみたい!」って願い出たそうなんですよ。

 確かに、みんな似合っています。
 で、よく見ると向かいに屋台を出しているテトテ集落の皆さんがしきりにこっちを凝視しているではありませんか。
「おぉ……ぱ、パラナミオちゃんが天使に……」
「もうワシ、召されてもいいわい」
「馬鹿もん!まだまだ満喫させてもらわねばバチがあたるぞい!」
 なんか、そんな声がこっちにまで聞こえて来ていますけど……

 ちなみに、魔法使い集落の屋台ですが、魔法少女戦隊キュアキュア5の絵本のファンだという親子連れ達が殺到していまして大盛況となっています。
 いつの間にか一般の魔法雑貨は全て撤去されていまして、屋台の中は完全に魔法少女戦隊キュアキュア5一色になっていたんですけど、まぁ、どの商品も飛ぶように売れていますので、まぁいいのかな……

 そんなわけで、パラナミオ達が加わった屋台は、さらにお客さんが殺到しています。
 お昼が近づいていますので、特にコンビニおもてなしの弁当・パン類と、エンテン亭のイートインコーナーにお客さんが集中し始めている感じですね。
 手伝いに来てくれているルア工房のお弟子さん達にエンテン亭の屋台のサポートを集中的にお願いしていた僕は、屋台を遠くから眺めている1人の女の子に気付きました。
 その女の子は、ヤルメキススイーツの方をしきりに覗き込んでいます。
 商品を購入したいというよりも、誰か人を探しているといった感じですね。
 その少女のことが気になった僕は、屋台を出ると
「お嬢さん、誰かお探しですか?」
 そう声をかけました。
 すると、その少女はビクッと体を震わせると。
「すいませんケロすいませんケロごめんしてケロごめんしてケロ」
 そう言いながら、僕に向かって何度も何度も土下座をし始めました。
 ……なんか、まるでヤルメキスのようです、はい。

 しばらく話しかけ続けて、ようやく落ちついたその少女は
「あの……アタシはぁ、蛙人(フロッグピープル)のケロリンと言いますケロ」
 そう言って深々とお辞儀をしました。
 少し痛んだ服を着ているのですが、白いシャツに紺色のモンペ姿でして、なんか僕が元いた世界の一昔前の田舎の女の子って感じなんですよね。
「あの……ここにヤルメキスちゃんがいるんじゃないかと思って来たのですケロ」
「ヤルメキスなら今日はここには来てないけど、知り合いなのかな?」
「あ、はい……ヤルメキスちゃんとは良く一緒にお菓子を作ってたケロ……ただ、アタシが両親と一緒に出稼ぎに出ている間にぃ、こちらのお店に雇われたとお聞きしましたケロ」
 ケロリンはそう言うと、少し寂しそうに笑いました。
「……久々にぃ、ヤルメキスちゃんと会えると思ったのですケロねぇ……」

 で、まぁそういうことなら、と……
 僕はケロリンを休憩ブースへと連れていくと、転移ドアをくぐって本店へと移動しましてヤルメキスを連れて来ました。
 で、ヤルメキスとケロリンは顔を会わせるなり、
「け、け、け、ケロリンじゃないですかぁ!? ご、ご、ご、ご機嫌うるわしゅうごじゃりましたでしょうかぁ!!!」
「ヤルメキスちゃんケロ、お久しぶりケロお久しぶりケロ会えて嬉しいケロ」
 お互いにその場で土下座をしながら、同時にペコペコし始めまして……なんですか? 蛙人ってまず土下座するのがお約束なんですかね?

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