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花祭り その3

 魔道船コンビニおもてなし丸がナカンコンベを経由し始めて2日目。
 いよいよ今日からブラコンベで花祭りが始まります。
 ブラコンベの中央広場を中心にして開催されるこの花祭りですが、すでに中央広場には各都市からやってきた商隊や商店の屋台がところ狭しと並んでいます。
 早朝の今は、各屋台の関係者が荷物の搬入をしているところでして、あちこちで関係者の皆さんが忙しく動き回っています。

 僕達コンビニおもてなしの屋台もそれは同じです。
 5つある続きの屋台の中では、それぞれの屋台の責任者達が忙しく動き回っています。
 今回の花祭り出店に際しまして、僕は各屋台の責任者を決めました。
 総責任者はもちろん僕ですが、その下に個別の責任者を設けたわけです。
 と、いいますのも、まだ5号店の方が手が離せない状態なもんですから、花祭りの方につきっきりになれそうになかったんですよ。そのための措置なわけです、はい。
 
 コンビニおもてなしの屋台責任者はブリリアン
 クローコさんの化粧品の屋台はバイト……じゃなかった、ゴージャスサポートメンバーのミュカンさん
 ヤルメキススイーツの屋台は、同じくゴージャスサポートメンバーのキョルンさん
 魔法使い集落の魔法雑貨屋台は、手伝いに来ている魔法使いの1人テレコ
 エンテン亭の屋台はテンテンコウ♂

 それぞれの屋台にはペリクドさんのガラス工房とルアの武具工房の若手の職人さん達が手伝いに来てくれています。
 総勢で20人近いメンバーが、それぞれの屋台の責任者の指示に従ってテキパキと動いてくれているおかげで、各屋台の準備はすでにほぼ出来上がっている状態です。
 ただ、魔法使い集落の屋台だけは、扱っている物が魔法薬や魔石なんかの特殊な商品が多いもんですから魔法使い集落からやって来ている総勢5名の魔法使い達で切り盛りしている状態です。

 ちなみに、この魔法使い集落の屋台を切り盛りするためにやってきている魔法使い達5人ですが、屋台にやって来たときの5人は尖り帽子を目深に被り灰色の外套で体を覆っていて、どことなく暗い印象でした。
「……あの……き、今日と明日……よろしく……」
 ボソッとそう言ってペコリと頭を下げると、そそくさと屋台の奥に幕を張り巡らせて設けてある店員休憩ブースの中に駆け込んでいきました。
(なんか暗い感じの5人だったけど、接客とか大丈夫かな……)
 最初、そんな風に思っていたのですが……
 休憩ブースから駆け出してきた5人を見て、僕は目を丸くしました。
 そこには、桃・黄・青・紫・赤のきらびやかなコスチュームに身を包んだ5人の姿がありました。
「さぁみんな! 魔法少女戦隊キュアキュア5! がんばっていきまっしょい!」
「「「おー!!」」」
 リーダー格のテレコさんのかけ声に、他の4人が一斉に手をあげて気合いを入れていたんです。
 
 なんでも、この魔法少女戦隊キュアキュア5というのはですね……
 このテレコが執筆している子供向け絵本の主役達なんだそうです。
 で、これ、子供達の間で結構人気なんだそうです、はい。
 ちなみに、出版しているのは例によって魔女魔法出版なわけですが……

 で、テレコ以外の4人は、テレコの本に絵を描いているスタッフの魔法使いさん達なんだとか。
 もちろん、絵本の執筆だけでなく、魔法薬の生成や各種魔法雑貨の生成も頑張っている一同なのですが……気のせいか魔法使い集落の屋台の三分の二くらいが、この魔法少女戦隊キュアキュア5の関連グッズで埋め尽くされている気がしないでもないのですが……

 そんなこんなで、各屋台の準備も一部に不安を抱えながら進んでいました。

 ほどなくすると、空に魔法の花火が打ち上がりました。
 花祭り開始の合図です。
「さぁ、みんな。お客さん達が一斉にやってくるから、気を引き締めて行こう」
 僕が屋台のみんなに向かって声を掛けると、みんなも一斉に気合いの入った返事を返してくれました。

 予想通り、開場と同時に中央広場になだれ込んで来たお客さん達は、中央広場に出店している各屋台に殺到していきました。
 この中央広場に出店している屋台達は、各都市の代表の店達なんですよね。
 お客さん達もそこは承知の上なわけでして、お客さんの大半がまずはここに殺到してくるのが毎年恒例なわけです。

 今年の花祭りは、温泉郷として再生を果たしたララコンベや、祭り初参加のナカンコンベからの屋台に加えてテトテ集落やオトの街、ティーケー海岸のアルリズドグ商会といった目新しい屋台が目白押しなわけです。
 それを、各都市の商店街組合が巧みに喧伝して回ったおかげで、ララコンベには前日からすごい数のお客さんが殺到していたんですよ。

 会場警備にかり出されている元猿人盗賊団だった衛兵達もてんてこ舞いしながら会場整備にあたっていますが、全然追っついていない状態です。混雑振りを聞いて駆けつけてきたゴルア率いる辺境駐屯地の皆さんも急遽会場警備に加わっている状態です、はい。

 中央広場の屋台には、どこにもすごい数のお客さんが殺到しています。
 それは、僕達コンビニおもてなしの屋台も例外ではありません。
 コンビニおもてなしの屋台では、ドゴログマでスアが過去に仕留めていた魔獣グレンノタテガミライオンの肉を使った焼き肉弁当を数量限定で販売しているのですが、これが開店と同時に飛ぶように売れています。通常のタテガミライオンの焼き肉弁当もよく売れていまして、まずはこれら食料品類が大盛況ですね。
 同様に、ヤルメキススイーツの屋台とエンテン亭の屋台にもすごい数のお客さんが殺到しています。
 ヤルメキススイーツを仕切っているキョルンさんは、
「ここは私一人で大丈夫ですわ。ねぇ、そう思うでしょ?ミュカンさん」
「えぇ、キョルンお姉様、私もそう思いますわ」
 と、化粧品の屋台を取り仕切っているミュカンさんと優雅に談笑していたのですが……
 いや、この人ホントすごいです。
 見た感じ、ニコニコ微笑みながら優雅な動作で商品を紹介したり、お買い上げになった商品を包んで手渡しているのですが……その動作はすごくスローモーに見えて、実はすさまじく高速で行われているんです。
 キョルンマジックとでもいいますか……キョルンさんの周囲だけ時間の流れがなんかおかしいんじゃないか?って思えるくらいなわけです、はい。
 そんな事を思っている僕の側に、アナザーボディを駆使して屋台の手伝いをしてくれていたスアがこそっと寄って来ました。
「……あれ、時間操作魔法使ってる、よ」
「あ、やっぱりそうなんだ」
 スアの言葉を聞いた僕は、思わず納得しながら頷いていきました。

 キョルンさん同様に、化粧品コーナーのミュカンさんも時間操作魔法を駆使しながら化粧品を求めてやってきているお客さん達に笑顔で優雅に接客し続けています。
 ……気のせいか、クローコさんばりのヤマンバメイクのダークエルフさん達がとってもたくさん押し寄せている気がしないでもないのですが……

 そんな化粧品屋台の横にあります魔法使い集落の屋台も大盛況となっています。
「あ! 魔法少女戦隊キュアキュア5だぁ!」
 子供達が、そんな歓声をあげながら屋台に殺到しているんですよ。
 後で聞いたのですが、テレコ達が執筆している絵本「魔法少女戦隊キュアキュア5シリーズ」はですね各地の学校に無料寄贈されたりしているそうでして、そのせいで各地の子供達の認知度が異常に高いんだそうです。
 で、魔法少女戦隊キュアキュア5の変身用アイテムや、魔法簿武器なんかが飛ぶように売れています。
 ちなみに、さすが本物の魔法使いが作成したアイテムですね。この変身用アイテムを使用すると、短時間ですが本当にそのキャラのコスチュームに変化出来るんですよ。
 その変身用アイテムを購入した子供達が屋台の前で早速変身して遊んでいるのですが、その様子を見た別の子供達が、
「パパ!あれがほしい!」
 って、親にねだる姿があちこちで発生しているわけです、はい。
 なんか、いい宣伝にもなっていますね。

 ひょっとしたら、パラナミオ達もこういうの好きかも知れないな……
 昼過ぎに遊びに来る予定になっている子供達の事を思いだした僕は、そんなことを考えていました。
 
 そんなわけで、花祭りは大盛況で進んでいます。

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