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花祭り その2

 花祭りは明日と明後日の2日に渡って行われます。
 今日からその事前準備が開始になります。
 そのため、会場のブラコンベには城門の開門時間に合わせて多数の荷馬車がやってきていました。
 コンビニおもてなしが運航しています魔道船コンビニおもてなし丸の早朝便のうち荷馬車便にも多数の予約が入っていまして、すでに今日1日の荷馬車枠はすべて完売している状態です。
 ただ、完売といいましても、これはあくまでもブラコンベ―ガタコンベ―ララコンベの3都市間でのことです。
 今日の昼から運航を開始するナカンコンベへ向かう際には、一度ブラコンベで荷馬車をすべて降ろし、荷馬車枠を空にした状態にします。
 その上で、ブラコンベ→ナカンコンベ→ブラコンベの順番に運航する予定にしています。
 これは、花祭りへ向かうであろうお客さんや荷馬車隊に考慮した結果なわけでして、明日からは通常形態に戻す予定にしています。

 で、今日は朝一からこのブラコンベ―ナカンコンベ便の予約販売を行うコンビニおもてなし5号店です。
 最近の僕は朝一でピアーグに行きましてコンビニおもてなし5号店で販売する弁当の作成指導を行っているのですが、今日も例に漏れずにその指導に行っています。
 ナスア達はやはり料理の腕前はしっかりしていまして、日に日に作業効率があがっています。
 すでに5号店で使用する弁当の全てをまかなってあまりある状態です、はい。
 で、今日の販売用のお弁当が詰まった魔法袋を持って5号店へと戻った僕は、目を丸くしました。
 開店前のコンビニおもてなし5号店の前に行列が出来ていたんです。
 いえ、行列はここ数日毎日出来ているのですが、今日の行列はその比ではありません。
 昨日の5倍近い人が並んでいまして、その混雑解消のためにグリアーナやルービアスが店の外にでて声を張り上げ続けているではありませんか。
 で、事情を聞いてみますと……
「あぁ店長、この人達さ、例の魔道船のチケットを買いに来てんだよ」
 グリアーナが苦笑しながらそう言いました。
 ……って、え? これ全部? ……
 ある程度予期はしていましたが、この数は完全に想定外でした。
 僕は、ピアーグから一緒に戻って来たライへに弁当の陳列をお願いすると、準備しておいた魔道船の予約チケットを持って行列の前へと移動していきました。
「はい、では魔道船の乗船チケットの販売を開始させていただきます。魔道船の乗船チケット購入希望の方はこっちに並んでください!」
 僕はそう声をあげたのですが……なんか様子がおかしいんです。
 お客さん達は、僕の方にこようとしてはいるのですが、今並んでいる列から出ることを明らかに嫌がっています。
 で、先頭付近に並んでいるお客さん達に話を聞いて見たところ、
「……い、いや、確かに魔道船の乗船チケットも買いたいんだけどさ……」
「せっかく来たんだし、最近話題のこの店で買い物もしたいんだよな……」
 そんな事を口にされていたわけでして……

 いえね、コンビニおもてなしとしては嬉しいことこの上ないご意見なのですが、すでに街道をかなりの距離で埋め尽くしているお客さんの列をこのままにしておくわけには行きません。
 ナカンコンベ商店街組合のレトレにも
『行列は感心しないですです。早期解消に努めてくださいですです』
 って、注意されていますからね。
 そこで僕は、今日のコンビニおもてなし5号店の開店を早めることにしました。
 いつものように、ジナバレアによる弁当とパンを販売するリヤカー屋台も出ています。
 僕は、そのリヤカー屋台に並ぶ形で机を置き、そこで魔道船の乗船チケットを販売することにしました。
 すると、行列は僕とジナバレアの前を通過してから店内に入っていく形に変化していきました。
 連日5号店に通ってくださっている皆さんは、ジナバレアのところで弁当やパンを買い、僕のところで魔道船の乗船チケットを購入するとそのまま店を離れて行ってます。
 ですが、今日のお客さんの多くは、僕の元で魔道船の乗船チケットを購入するとそのまま店内に入っています。
 まぁ、昨日の5倍近いお客さんが押し寄せているわけですから、コンビニおもてなしに始めてこられたお客さんが多数含まれているのは間違いありませんからね、それも当然といえば当然なのかもしれません。ただ、これ、逆を言えば、まだそれだけのお客さんがコンビニおもてなしを未利用だったってことの裏返しでもあるわけです。
 これらのお客さん達が、列を成すことなくコンビニおもてなしを快適に利用してもらえるように何か手を考えないといけないのかもしれません。

◇◇

 そんな感じで、列が途切れることなくお昼近くになりました。
【商売繁盛笹もってこい】って手書きされたシャツを着ているジナバレアは
「はっはっはぁ、こらたまらんな店長はん。こんだけ売れたらマジで気持ちええわ」
 心底嬉しそうに笑顔で揉み手をしています。
 で、
「はいこれ、ウチからのせめてもの気持ちや。飴ちゃん舐めたってや~」
 そう言いながら包みに入った小さな飴を配布しています。
 っていうか、この世界でも飴のことを飴ちゃんって言う人がいたんだ……
 そんなことに感心している僕の頭上がふいに暗くなりました。
 見上げて見ると、空中にコンビニおもてなし丸が接近してきていまして、コンビニおもてなし5号店の屋上にあります乗降タワーにちょうど接岸しようとしているところでした。
 すでに魔道船乗降タワーの出入り口部分には、この記念すべき魔道船コンビニおもてなし丸の就航第一便のチケットを購入出来たお客さん達が列を成しています。
 ちなみに、荷馬車の乗り込みは街外れにある空き地で行う予定になっていまして、ここで乗客を乗せた後、そこへ向かう予定になっています。
 で、こことその空き地にはナカンコンベの衛兵達が数名ずつ配備されていまして、乗降客らのチェックをしています。
 といいますのも、このナカンコンベへ入退場する人々は、城門で全員チェックされる決まりになっているんです。これは、指名手配犯が街中に入ろうとしたり、取扱禁止物が街中に持ち込まれるのを未然に防ぐための措置なわけです。
 で、魔道船が運航された場合、このチェックを行っている城門を飛び越す形になってしまいますんでね。商店街組合のレトレとも相談した結果、衛兵に数名常駐してもらいここでチェックをしてもらうことにしたわけです。
 まぁ、そうは言いましても、ガタコンベに回ってきている指名手配書はすべてスアがチェックしていまして、魔道船乗降タワーの出入り口にありますゲートに常に最新情報を魔法入力しています。で、指名手配犯がこのゲートを通過しようとすると魔法罠が発動し即座に取り押さえる仕組みになっています。これは魔法で姿を変えていても発動しますので、まぁまず間違いないわけです。同様に荷馬車の乗降口にも同様のゲートが設けられていまして、取扱禁止物を積んだ荷馬車がこのゲートを通過しようとすると魔法罠が発動してその荷馬車と関係者をすべて捕縛する仕組みになっているわけです、はい。
 ただ、出入りする人や物はすべて衛兵がチェックするというのがこのナカンコンベの決まりですので、それに従いますけどね。
 その衛兵達のチェックを終えたお客さん達は、どんどん魔道船に乗船していきます。
 時間にして10分くらいで、すべてのお客さんが乗船し終わりました。
 魔道船コンビニおもてなし丸は、程なくすると乗降タワーを離れていきました。
 この後、街外れにある荷馬車乗降所に移動し、そこで荷馬車を積み込むわけです。
 この荷馬車第一便の中には、先日出会ったロジクワールドサーカスの皆さんの荷馬車隊と、ドンタコスゥコ商会の荷馬車隊も含まれています。
 どちらも、花祭りに参加するためにブラコンベに向かうわけです。
 そう言えば、あの時広場で歌を歌っていた鳥のトキ人さんも、一般乗客として魔道船に乗り込んでいましたね。

 この日は、午後だけ3便の運航だった魔道船コンビニおもてなし丸ですが、全3便全て満席で運航されました。
 今回の魔道船に乗船してブラコンベに向かったお客さんの大半は花祭り見物の皆さんです。
(この分だと、今年の花祭りは大賑わいになりそうだな)
 僕は、明日以降の魔道船の予約チケットを販売し続けながらそんなことを思っていました。

 ちなみに、今日の僕は1日中魔道船の乗船予約チケットを販売していたわけでして……

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