第11話(1) 対常磐野学園戦後半戦~序盤~
後半戦
常磐野学園
__________________________
| | |
| 巽 朝日奈| 姫藤 池田 |
| 豆 | 武 石野 |
| 本場 | 谷尾 |
|久家居 結城 天ノ川| 永江|
| 栗東 | 脇中 |
| 押切 | 龍波 丸井 |
| 地頭 小宮山| 菊沢 神不知火 |
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
仙台和泉
常磐野は前半からメンバー変更無し。和泉は松内→龍波、趙→菊沢。姫藤が左から右に移った以外はシステム変更無し。
<常磐野>
「7番と9番を後半頭から出してきましたね」
後半開始前、和泉のメンバー交代を押切が豆に伝えた。豆が気怠そうに答える。
「まあ、1点獲らないといけないからね~打ち合い上等ってところかしら~?」
「生意気やの……いちいち癪に障る奴らじゃのう」
「この美陽ちゃんのゴールにも心折れてないってこと? それは心穏やかじゃないわね……」
「落ち着け、マリア、朝日奈。我々は前半のサッカーを継続するぞ。それで追加点は取れる」
本場がチームメイトを落ち着かせる。天ノ川が静かに呟いた。
「そう上手くいけば良いんですが~」
<和泉>
主審の合図が出るまで、ピッチ脇に並んで待機する菊沢と龍波。
「正直……カルっちは先発外れた今日の試合へそ曲げて来ないんじゃねえかと思ったぜ」
「生憎、そこまでガキじゃないの。腹立つけど、キャプテンの考えは理解できる」
「考えってのは?」
「ブランクがあるウチは体力面に不安を抱えている……フィジカルの強いヴァネや、スタミナ馬鹿の成実と違ってね。試合中盤でガス欠起こされるより中盤から終盤にかけてフルスロットルの方がマシだって判断したんでしょう。悔しいけど理に適ってはいるわ」
「ふーん、そういうもんなのか」
「それより問題はアンタよ」
「あん?」
「フォワードには1試合に3回チャンスが来るって言ったことあるわよね、ただ、この試合は既に半分終わっている……相手のレベルを考えても正直チャンスが1度くるかどうか……?」
「その1度を決めれば良いんだろ?」
あっけらかんと答える龍波に菊沢は少し苛立った顔を見せる。龍波は彼女を制し、話を続ける。審判に促されて、二人は和泉の円陣の元に小走りで向かい、丸井の両隣に入る。
「何てたってアタシには優秀なボランチがいるからな! ビィちゃん! 今日も頼むぜ!」
「え、あ、うん。頑張ろうね、竜乃ちゃん! 輝さんも!」
「……ふ、そういえばアンタたちには借りがあったわね」
「借りってなんだよ?」
「気が向いたら話すわ……竜乃」
永江さんが掛け声の前に一つ咳払いをします。
「ううむ……やはり慣れんから手短にいくぞ……仙台和泉、絶対勝つぞ!」
「「「オオォッ‼」」」
いよいよ後半開始。泣いても笑っても三十五分後には、勝者と敗者が決まる。
【後半】
後半1分…和泉ボールでキックオフ、龍波が後ろに下げる。受けた丸井が菊沢へ。
「……狙ってみようかしらね」
そう呟き、菊沢がハーフライン付近からシュートを放った。ドライブのかかった強いボールが常磐野ゴールに向かって飛んで行った。少し前に出ていた常磐野GK久家居は慌ててバックステップをして、後ろに飛びながら、ボールを懸命に弾き出した。和泉のCKである。
後半2分…和泉、右サイドからCK。キッカーは菊沢。
「9番のマーク確認!」
後半に入ったばかりの龍波のマークについて久家居が指示を飛ばす。本場が応える。
「9番OK! 私がつく!」
「へへっ……止められるものなら止めてみな」
「……」
「無視かよ!」
菊沢がボールをセットし、中央に目をやる。改めて静かに呟く。
「流れを引き寄せるには多少強引な方が……!」
菊沢が放ったボールはやや高めでカーブがかかり、常磐野ゴール左上を狙ったものだった。
「⁉ 直接だと!」
CKを直接狙うという中々ない形に少々面食らった久家居だがこれもなんとか弾き出した。
後半4分…和泉、丸井のパスカットからカウンター、菊沢へ。菊沢の速いサイドチェンジを姫藤がトラップし、シュートを狙うも結城に阻止される。
後半5分…和泉、中盤のこぼれ球を拾った丸井のパスが菊沢へ。菊沢の鋭い縦パスは武がトラップし、シュートを狙うが栗東に倒される。ゴール前左約25mの位置でFK獲得。
「壁5枚! もう少し左に寄って」
久家居が大声で指示を飛ばす。常磐野メンバーにも緊張感が強まる。
(今日7番は生憎絶好調のようだ……ゴール前ほぼ正面でFKを与えてしまうとは……)
壁の左端に立つ本場が久家居の方に振り返る。久家居は心配するなとでも言うかのように右手を軽く上げて、主将の視線に応えた。ボールは菊沢がセットした。傍らには丸井が立つ。
「ゴールから顔を反らしなさい、口元も隠して」
輝さんから突然話しかけられた私はワンテンポ遅れて、彼女の言う通りにしました。
「アンタ、中学ではキッカーだったの?」
「い、いえ、私より上手な娘や先輩がいたので、試合ではほとんど……練習でも……」
「……それなら向こうも予測困難って訳ね。よし、じゃあこのFKはアンタが蹴りなさい」
「えええ⁉」
「向こうは十中八九ウチが蹴るものだと思っている。その裏をかく……!」
「で、でも……」
「さあ前を向いて、直前にフェイントは入れる。コースは任せる。頼むわよ、桃……!」
時間にして僅か数秒ではあったが、久家居は菊沢と丸井が顔を背けた行動に気付いていた。
(私に聞かれてはマズい会話? 読唇術の心得までは流石に無いが……驚きが顔に出る内容のやりとり? ……つまりこのFK、7番でなく桃が蹴るということか‼)
そう判断した久家居は立ち位置を中央からやや右に移した。主審の笛が鳴り、菊沢が短い助走からキックモーションに入った。
(! やはり7番か!)
久家居は体の重心を左に傾けた。しかし、菊沢はシュートを打たなかった。代わりに丸井がキックモーションに入った。壁は飛び、久家居も右側に横っ飛びした。
(くっ、桃か! 反応がやや遅れた! ただまだ間に合う! 奴のキックの勢いなら壁を越えてゆっくりと落ちてくるはず! ……落ちてこない? 馬鹿な⁉ ボールは⁉ ……‼)
FKを蹴ったのは確かに丸井だった。ただ彼女は飛んだ相手の壁の下に生じたわずかな隙間を狙い低い弾道のシュートを放ったのだ。久家居が伸ばした手の遥か下を通ろうとしている。
(壁の下を通してきたか! くっ、届けぇ!)
久家居は懸命に手を伸ばしたものの、僅かに触るのが精一杯だった。ボールは彼女の手を弾いてゴールマウスに吸い込まれていった。2対2。仙台和泉が後半早々に同点に追いついた。
「いやったぜぇぃ、ビィちゃん!」
「本当に凄いよ……桃ちゃん!」
「ふ、二人とも、く、苦しいって」
竜乃ちゃんに聖良ちゃん、抱き付いてきた二人の祝福を抜けた先に輝さんが居ました。
「壁下は恐れ入ったわ、ナイスゴール」
そう言って、ふっと左手を上げる輝先輩。私も右手を上げ、ハイタッチを交わしました。