第11話(2) 対常磐野学園戦後半戦~中盤~
後半6分…常磐野、豆の速いパスを難なく収めた小宮山。鋭いカットインを仕掛け、中央に切り込み、シュートを放つが、神不知火のブロックに合う。
後半9分…常磐野最初のメンバーチェンジ。小宮山→真弓。対して直後、和泉もメンバー交代。脇中→緑川。緑川が左SBの位置に入り、神不知火が左のCBに入る。
「ちっ! あの4番……!」
小宮山が不完全燃焼といった様子でベンチに下がる。
「小宮山さんへの対応お疲れさまでした。この後は従来通り左のセンターバックに入って、ヴァネッサさんのカバーリングを主にお願いします」
「……」
ピッチに入ってきた緑川の指示を聞きつつも。どこか心ここにあらずな様子の神不知火。
「真理さん? どうかしましたか?」
「小宮山愛奈さん……凄い選手でした。こちらの想定外のプレーもいくつか飛び出してきました。上のレベルには彼女以上のプレーヤーがいるということですか?」
「! ……以上以下というとやや語弊があるかもしれませんが、彼女は現時点ではユース代表候補。少なくとも彼女を上回る評価を得ている選手が全国には数人ほどいます」
「そうですか……楽しみが増えました」
「それは何よりです」
後半10分…常磐野、左でボールを受けた朝日奈が天ノ川とワンツーで抜け出す。朝日奈、ゴール前にマイナス(ゴールとは逆方向)の低いクロスを送り込む。豆が左足でシュートを狙うが丸井が足を伸ばしてカット。
後半12分…常磐野、豆→押切→天ノ川の流れ。天ノ川が和泉DFラインの裏にスルーパスを通す。走り込んだ朝日奈のシュートを池田がスライディングで防ぎ、CKに逃れる。
後半13分…常磐野、左サイドからCK。豆、近くに寄ってきた巽とのワンツーを選択。すかさず中央にクロス。天ノ川、谷尾と競り合いつつ、後ろに数歩下がりながらジャンプという難しい体勢ながら頭で合わせるが、シュートはクロスバーに当たって外れる。
後半14分…常磐野、選手交代。朝日奈→座間。直後に和泉も交代。池田→白雲。
(何? こちらの両翼の交代に対して即座に手を打ってきたな。ここまでの展開は予想の範囲内ということか、気に食わんな……ただ、チャンスは作れている。下手にシステムをいじるよりもこのまま行く! )
常磐野の高丘監督はベンチ前で腕を組んだまま微動だにしない。その強い信念に基づいた不動の姿勢を見た和泉主将緑川は苦笑する。
(こっちは三年生の足が攣ってしまったら、まだまだ経験不足の一年生を投入せざるを得ない。あちらは全国レベルの両翼が下がっても、準全国レベルがベンチに控えている圧倒的な選手層……そりゃ慌てませんよねえ)
後半16分…常磐野、豆の縦パスを座間がダイレクトで横パス。これを天ノ川が落とし、中央で受けた豆が右斜め方向にスルーパス。和泉のDFラインの裏に抜け出した押切が和泉GK永江と1対1の体勢。押切、倒れ込んでボールを掴もうとした永江をジャンプしてかわしながらシュート。ボールは転々と無人のゴールに向かって転がるが、全速力で戻った白雲が懸命にクリア。
後半17分…常磐野、左サイドからのFK。豆が蹴ると見せかけて、地頭が左足でファーサイドで待つ真弓に速いボールを送るも、緑川が辛うじてヘッドでクリア。
「キャプテン!」
丸井が緑川に走り寄る。
「なんでしょう?」
「多少アバウトでも良いですから、ボールを持ったら前線にアーリークロスを頼みます!」
丸井に何か狙いがあるのだろうと察した緑川は黙って頷いた。
後半20分…和泉、左サイドを攻め上がった緑川がアーリークロス。武とポジションを入れ替わった龍波だが栗東に弾き飛ばされる。
「くっ!」
栗東が膝を突く龍波に話しかける。
「はん、そのガタイは見かけ倒しかのう?」
「ふん……目線を合わせてやってんだよ」
「はっ、口の減らん奴じゃ……!」
後半22分…和泉、丸井が左サイドに移ってきた姫藤に縦パス。姫藤、DFラインの裏に抜け出そうとした武にパスを出すと見せかけて中央にカットインして右足でシュート。鋭いシュートだったが、右のゴールポストに当たって外れる。
後半23分…和泉、緑川がクロス。本場が武に競り勝つが、こぼれ球を丸井が拾い、右サイドに移っていた菊沢へ。菊沢、シュートを打つと見せかけて、自身の後側を回ってきた石野に対してスルーパス。石野の速いクロスに龍波、今度は栗東に競り勝って至近距離から強いヘディングシュートを放つも、GK久家居のファインセーブに阻まれる。
栗東に競り勝った龍波の良いヘディングだったが、久家居が一枚上手だった。
「今の止めんのかよ……。ふん、それならもう一度だ!」
龍波はすぐさま頭を切り替えた。
後半24分…常磐野、二人選手交代。巽→砂原。栗東を左のSBに回し、砂原が左のCBに。栗東を攻め上がらせ、和泉の右サイドを牽制する狙いか。同時に押切→那須野。
後半25分…和泉、緑川のクロスを龍波と砂原が競り合う。そのこぼれ球を巡った競り合いの中、武がファウルを取られる。
武がファウルを取られたことで、緑川の頭に再び迷いが生じた。
(秋魚は既にイエロー一枚、もう一枚貰ったら退場……。残り時間約十分とはいえ、ここで一人少なくなるのはどう考えても不利。交代枠は後一枚、さてどうするか……)
「交代、迷っているんでしょ?」
「ひゃ⁉ 急に後ろに立たないで下さいよ……」
いつの間にか自分の背後に立っていた菊沢に驚く緑川。
「アンタがいつもやっていることでしょ……それより最後の交代だけど、残り十分、スコアは同点。この状況で切るカードはチーム全体への重要なメッセージになる」
「ええ、分かっています」
「アフロパイセンを退場に誘い込む……強豪校はそれ位エゲつないことを平気な顔でやってくる。ここは先手を打つべきよ、選択肢が残っている内に。桜庭先輩を入れて守備を固めて、PK戦での勝利を狙うか、それとも……」
「……プレーが再開します。ポジションに戻って下さい」
後半27分…和泉、最後の選手交代。武→伊達仁。
「おーほっほっほ! 流石は主将さん! 良い見せ場をご用意して下さいましたわ!」
伊達仁が高らかに笑いながらピッチに入る。菊沢が緑川の方に振り向く。緑川は微笑む。
「意外性に賭けてみました」
菊沢はただ黙って頷いた。小嶋がベンチで呟く。
「伊達仁さんのデータはほぼ無いはず……ここでの投入は相手にとって不気味なはず……!」
常磐野側はこの交代についてやや戸惑った。それでも本場が冷静に周囲に声を掛ける。
「FWの枚数は2枚で変わらんはずだ! 9番は私が付く。13番は砂原と結城で見ろ」
「桃……!」
菊沢が丸井に声を掛ける。丸井は静かに頷く。
後半28分…和泉、丸井が菊沢とのワンツーで、バイタルエリア手前まで進む。ここで浮き球のパスを選択。ボールは伊達仁のもとへ。伊達仁、胸トラップからすぐさま左足でボレーを放つ。ペナルティーエリアの外側からの強烈なシュートだったが、久家居が捕る。
「ほ、ほう、あれをお捕りになるのですか……。流石は強豪校、褒めて差し上げますわ」
「ブツブツ言ってねえで、ディフェンスだ! スコッパ!」
「わ、分かっていますわ!」