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第10話(2) 対常磐野学園戦前半戦~中盤~

18分…和泉、姫藤、趙とワンツーを狙うが、結城にカットされる。即座に前に蹴り出そうとした結城を武が後ろから倒してしまう。主審、武にイエローカードを提示。



 警告を受け、武が軽く天を仰ぐ。ベンチの緑川も一瞬だが、渋い表情を浮かべる。

(今、結城さんに蹴り出されていたらマズかった。止めに行った判断は間違っていない。ただイエローは余計だった。警告2枚で退場。これで秋魚は今後激しくチェックに行けなくなった……! 五分五分のボールの競り合いもファウルを取られるのを恐れて、後手後手に回ってしまうでしょう。向こうの退場を誘えればと思ったのですが、そう甘くはありませんか)



19分…常磐野、結城FKから右サイドの小宮山へのパス。受けた小宮山すぐさま中央の天ノ川へ。天ノ川、ゴールに背を向けたままダイレクトで小宮山に落とす。走り込んだ小宮山、左足で低い弾道のシュート。だが、ジャストミートせず、ゴール右に外れる。



 相手陣内からのFKでしたが素早い展開で、あっという間にシュートまで持っていかれてしまいました。正直相手のシュートミスに助けられました。ただ、“ピンチの後にチャンスあり”とはよく言ったものです。次はこちらにチャンスが巡ってくる可能性は高いです。永江さんがゴールキックを蹴る前に、私は成実さん、松内さん、秋魚さんにそれぞれ声を掛けました。皆一様に驚いた顔を浮かべましたが、私の考えに了承してくれました。



21分…和泉、永江のゴールキック。こぼれ球を拾った石野がすかさず前方の丸井へ。丸井、これをスルーする。ボールは松内に通る。松内、強めのボールを前線に送り込む。このボールを本場と武が競うが、ボールはこぼれる。そのボールを猛然と走り込んだ丸井が拾い、バイタルエリアに侵入する。



 こぼれたボールをいち早くキープした丸井。ゴール正面の位置、常磐野DFの要、本場は武との競り合いで体勢を崩している。絶好のシュートチャンス到来かと思われたその時、

「打たせるか!」

 栗東が素早く体を寄せてきた。丸井はシュートを諦め、パスを選択しようとしたが、コントロールを誤り、ボールを足の間に挟む形になってしまう。これではボールを前後左右、どこに運ぼうと、一回余計な動きが入ってしまう。丸井がボールを前に動かそうとしたのを見て、

「もらった!」

 栗東が足を伸ばしてカットしようとする。しかし、彼女の予想は外れた。丸井は前ではなく、踵を使って、上にボールを運んだのである。

(⁉ ヒールリフトじゃと~!)

 丸井が倒れ込みそうになりながら、栗東の左側を抜けようとする。しかし……

「ナメんな!」

 栗東が懸命に伸ばした足が当たり、ボールは丸井の思っていたところからは右方向に転がって行った。それでも丸井がボールに追いつく。大体ゴール前左30度の位置。シュートを打つかと考えたが、その前に戻ってきたアンカー結城が立ちはだかる。丸井はゴールに背を向け、ボールと結城の間に立った。結城にしても、その後ろに立つ常磐野GK久家居にしても、考えることはほぼ同じだった。

(後ろを向いた! 右サイドから上がってくる味方にパスを出す!)

 丸井は上半身の重心を右にやや傾けた。しかし次の瞬間、ボールを自身の左斜め後方に持ち出し、結城の左側を抜こうとした。虚を突かれた結城の反応がやや遅れる。丸井はすかさずキックモーションに入った。ゴール前左約20度の位置である。久家居は一瞬で考えを巡らす。

(そこから打つ? いや、桃は結城のブロックと私の両手を吹き飛ばす程の強烈なシュートは持っていない。ニアサイドに私たちを引きつけて、緩く高いボールをファーサイドへ? いや、本場さんが防いでくれる。それとも低い弾道? 緩いボールなら私が横っ飛びで抑える。速いボールなら栗東がスライディングで掻き出してくれる!)

 丸井の選択は意外なものであった。強めだが久家居の目の高さほどのボールを蹴りこんできたのである。ただし、自身の右斜め前にあるゴールではなく、真正面に向かってである。

(シュート性のクロス⁉ キャッチは無理だ、パンチングで弾……!)

 久家居の目に驚きの光景が飛び込んできた。パンチングを試みようと、両手を拳の形に握り締め、ボールに向かって突き出そうとしたその直前に、姫藤がゴール前に猛然と飛び込んできたのだ。久家居の手よりも先に、姫藤の頭がボールを捉えた。強烈なダイビングヘッドが常磐野のゴールネットに突き刺さった。1対0。仙台和泉が先制点を挙げる予想外の展開である。



「やったよ! 桃ちゃん!」

 倒れ込みながら得点を確認した聖良ちゃんがすぐさま起き上り、私に抱き付いてきました。

「すごいよ! よくあのクロスに反応してくれたよ!」

「ゴール前に詰めていれば、何かが起きるとは思っていたんだけど……もうドンピシャ!」

 聖良ちゃんほどではありませんが、私も興奮しています。先制点がどうしても欲しかっただけに、このゴールはとても大きいものです。



 仙台和泉ベンチも大いに沸き上がる。

「ちょっと先制したわよ! 小嶋ちゃん、これは凄いんじゃないの⁉」

「ええ、先生! 常磐野はこれが今大会初失点です!」

 喜びに水を差すまいと、緑川が静かに呟く。

「……ここからですね、絶対女王の怖い所は……!」

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