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第10話(1) 対常磐野学園戦前半戦~序盤~

 朝、私たちはバスに乗って会場に早目に到着。アップを終え、一旦ロッカーに戻ってユニフォームに着替えた私たちがピッチに再び出ると、スタンドに驚きの光景が広がっていました。

「え、ウチの生徒もあんなに沢山……⁉」

 流石に強豪校の常磐野ほどではありませんが、我が仙台和泉の生徒もスタンドの一角を占拠するほどの大勢が応援に駆けつけてきてくれています。

「応援団長には一応声を掛けてはいましたが、まさかこれほどとは……」

「これは想定外です……」

「ふっふっふ……作戦成功ね!」

「作戦って、知子先生何をやったんですか?」

「SNSでそれとなく流したのよ。今日サッカー部の応援に来た生徒は、前期の英語の成績、無条件で“良”以上つけちゃうわよ!ってね」

「ド、○―ピング……! で、でもグッジョブですよ、先生!」





『○年度 第XX回 宮城県高等学校総合体育大会サッカー競技2回戦 対常磐野学園』 

日付:5月○日(日) 天候:晴れ 記録:小嶋美花



基本フォーメーション

 常磐野学園

__________________________
|            |           |
|  巽      朝日奈|  趙     池田 |
|       豆    |     石野    |
|  本場        | 武       谷尾|
|久家居  結城  天ノ川|         永江|
|  栗東        | 龍波     脇中 |
|       押切   |     丸井    |
|  地頭     小宮山|  姫藤  神不知火 |
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

                      仙台和泉

                    

常磐野学園(以下常磐野)は予想通り4-3-3の発展形、4-1-2-3。仙台和泉(以下和泉)はオーソドックスなお椀型に並べたいつもの4-4-2。



<常磐野> 

試合開始前、和泉の先発メンバーを見て、常磐野主将本場は驚きを隠さなかった。

「流石に驚いたな……9番どころか、7番まで、更には主将までが先発を外れるとは」

「前半は耐え忍んで、後半に勝負を掛けるということでしょうか?」

 押切の疑問にも、首を捻るしかない本場。一方、豆の答えはシンプルだった。

「付き合う義理はないでしょ~。前半の内にちゃっちゃっと終わらせちゃいましょう~」



<和泉>

 円陣を組みながら、キャプテンマークを巻く永江さんが思わず愚痴をこぼします。

「全く……OGとの紅白戦で試したとはいえ、菊沢と龍波まで外すとは思い切りすぎだ」

「ワッキー、リラックスしていこうー」

「は、はい」

 予想外の先発に戸惑う脇中さんに池田さんが声を掛けます。

「ふふ、この大事な一戦に僕を先発させるとは流石はキャプテン。期待には応えよう」

 松内さんはいつも通りのマイペースに見えますが、秋魚さんが目ざとく見つけます。

「マッチ、脚ごっつ震えとるで」

「な、何を馬鹿なことを! こ、これはそう、“決戦の前の高ぶり”という奴さ!」

「……聖ちゃん、莉沙ちゃん、ウチらでフォローしたろうな」

「はい」

「了解」

 永江さんが掛け声の前に一つ咳払いをします。

「慣れてないから手短にいくぞ……仙台和泉、絶対勝つぞ!」

「「「オオォッ‼」」」

 いよいよ試合開始です。正真正銘の“絶対に負けられない戦い”です。



【前半】

1分…常磐野のキックオフでスタート。DFラインまでボールを下げて、地頭が前方の天ノ川に向かってロングパス。谷尾が天ノ川との競り合いを制してクリア。

2分…常磐野、こぼれ球を拾った巽が斜め前方の小宮山へロングパス。小宮山、ジャンプして、胸トラップに成功。しかし、着地際を狙っていた神不知火が抜け目なくカット。

3分…常磐野、押切からのパスを左サイドで受けた朝日奈。縦に抜けると見せかけて中央にカットイン。シュートを試みるも、池田と石野が上手く挟みうちにしてボール奪取。



 序盤の攻勢をしのがれた形となった常磐野。すかさず後方から本場が味方に声を掛ける。

「良いぞ! このまま焦らずに行こう!」

司令塔の豆が小さく呟く。

「思っていたよりも、面倒な娘たちかもね~」



5分…和泉、松内から武への縦パスがカットされる。こぼれ球を趙が拾い、中央にカットイン。常磐野、巽が倒してファウル。和泉、ゴール正面やや右側からFK獲得。キッカー松内が狙う。良いコースに飛んだが、GK久家居が横っ飛びで防ぐ。

7分…和泉、丸井の縦パスを受けた姫藤、武とのワンツーで相手DFラインの裏に抜け出そうとするも、結城がスライディングでクリア。ゴールラインに逃れ、左サイドからのCKを得る。キッカーは松内。鋭く速いボールを中央に送り込むが、谷尾の頭に届く前に、判断良く飛び出した久家居が両手で難なくキャッチ。



 ベンチで戦況を見つめていた和泉主将緑川は思わず拳を固く握りしめた。

(千尋さんの調子は良い。ただ、久家居さんがこちらの想像以上に良いキーパーですね。こういったセットプレーのチャンスはこれからそうそう巡ってこないはず……。やはり輝さんを先発させるべきでしたでしょうか? ……いえ、まずは先発の11人を信じましょう!)



10分…常磐野、後方からのロングボール。天ノ川が谷尾に競り勝ち、落としたボールを走り込んできた押切がシュート。脇中がブロック。

12分…常磐野、サイドからのクロスを谷尾がヘッドで跳ね返す。そのクリアボールを豆がダイレクトで朝日奈に通す。朝日奈、中にカットインと見せかけ縦に抜け出し、池田をかわして左足シュート。しかし、力んだかシュートは当たり損ねで永江が難なく抑える。



 再び立て続けの相手のシュート。しかし、ここで退いてしまうと、一気に強豪校の相手の波に飲み込まれてしまいます。私たちも懸命に反撃を試みます。



15分…和泉、丸井のパスから石野がミドルシュートを狙うも栗東にブロックされCK。

16分…和泉、松内からの左CK。ニアサイドで武がボールを後方(ゴール前中央)に逸らす。中央に谷尾が待ち構えていたが、その寸前で本場が頭で弾き返す。



 呆然とする谷尾に対し、本場は静かにこう告げる。

「そのパターンは知っている……!」

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