第7話(1)とりま、モードチェンジ
「よし、行くぞ!」
電光石火が刀を構える。
「まさか三機合体とはね……」
「関係ない、経験でこちらが勝る……」
水狩田が静かに呟く。
「まあ、それもそうだね!」
海江田が電光石火の脚部を狙って、インフィニ1号機の鞭を振るう。
「ちぃっ!」
大洋が舌打ちしながら、機体を後退させ、鞭の攻撃をなんとか躱す。
「あの鞭があると容易には近づくことが出来へんで!」
「そうだな、どうするか……」
「じゃあさ、モード変更でもしてみる?」
閃が大洋と隼子の顔を見比べながら尋ねる。
「な、なんやて?」
「だ・か・ら、モードの変更」
「そ、そんなことが出来るんか⁉」
「うん、わりと最近気付いたんだけどね」
「……そもそも今は何モードなんだ?」
「とくに名称はないみたいだけど、強いていうなら、近接戦闘モードだね」
大洋の問いに閃が答える。
「他に何モードがあるんだ?」
「どうやら複数あるようだけど、現在判明しているのは一つだけだね」
「どんなモードなんだ?」
「それは変更してからのお楽しみってことで……」
「いや、楽しんどる場合やないやろ⁉」
この期に及んでの閃のマイペースぶりに隼子は戸惑う。
「とにかくこの局面を打開するためにはなにかしら手を打たなければならない……閃、モードチェンジだ!」
「オッケー♪」
「いや、頼むからせめて確認くらいしようや!」
「それじゃ、モードチェンジ、スイッチオン!」
「⁉」
「な、なんや⁉」
突如として電光石火のコックピットが暗くなって回転した。
「な、なんやねん……って、ええっ⁉」
目を開けた隼子は驚いた。自身のシートが右側に移動し、隣に大洋が座っていて、そして先程まで大洋がいた位置に閃のシートが移っていたからである。
「こ、これは一体どういう状況や⁉」
「気分を変えるために席替えをしてみましたってところかな~」
「ええっ⁉ モードチェンジってそういうことなんか⁉」
「確かに気分転換には良いかもしれないな……」
「でしょ~?」
「いやいや! そんなお気楽なことでは困んねん!」
閃のマイペースに同調する大洋に対し、隼子は焦りの声を上げる。
「む……」
「色が変わった……?」
水狩田たちは電光石火の機体の色が変化したことに警戒を抱いた。これまで金色を基調としていた電光石火の機体が銀色を基調としたカラーリングに微妙に変わったのだ。
「どうする、水狩田?」
「機先を制する!」
水狩田はインフィニ2号機を加速させ、電光石火との間合いを詰める。隼子が叫ぶ。
「うわっ! 青白がこっち来るで!」
「させないよ!」
閃がパネルを素早く操作する。電光石火の両膝、いわゆる膝小僧の部分が上にスライドして、砲口が出てきた。閃は叫ぶ。
「レッグビームキャノン発射!」
「⁉」
電光石火の両膝から二筋のビームが放たれた。驚いた水狩田は機体を急停止させて、そのビームをなんとか躱してみせた。
「やるね! でもまだだよ!」
閃が続けてパネルを操作すると、今度は電光石火の両肩、人間で言えば鎖骨の辺りが横にスライドし、マシンガンの銃口が顔を覗かせた。再び閃が叫ぶ。
「ショルダーマシンガン発射!」
電光石火の肩からおびただしい数の銃弾が放たれる。インフィニ二号機の下半身部分を狙った攻撃だった。水狩田は機体を後退させるが、何発かが、機体の脚部を掠めたため、バランスをやや崩す。
「水狩田!」
「かすっただけ……騒ぐほどじゃない」
海江田の声に水狩田は落ち着いたトーンで返答する。
「そうか、ならば現状を把握しようか。どうやら向こうはモードチェンジしたようだ。恐らく、さっきの金色ベースの時が近接戦闘用のモード、そして現在の銀色ベースの時が砲撃戦に特化したモードのようだね。あくまでこれは予想だけどね」
「概ねその分析で合っていると思う……」
水狩田は海江田の言葉に頷いた。
「じゃあ、どうする? 生憎こちらはライフルを手放したままだ。鞭によるリーチの利点はあっさりと失われた」
「……」
「ベタだけど、どちらか一方が囮になって相手の攻撃を引きつけて、その隙に転がっているライフルを回収する?」
「いや、向こうも馬鹿じゃない。そんな狙いにはすぐ気付くはず」
「だよね……ならばどうするよ?」
「回りくどいことは止めよう。現状の手持ちで最善を尽くす……」
「うん?」
「つまり……」
「ええっ⁉ わ、分かったよ」
水狩田の提案に海江田は戸惑いながらも了承した。
「くるで!」
隼子が叫ぶ。インフィニ1号機が鞭を大きく振りかざす。閃が電光石火のレッグビームキャノンを1号機に向ける。
「まずは赤白から仕留める! って、ええっ⁉」
「なんだと⁉」
閃と大洋が揃って驚く。1号機が2号機の方を目掛けて、鞭を振るったからである。
「な、なんや⁉ 味方に攻撃しよった⁉」
「ま、まさか……」
閃の予感は的中した。1号機の振るった鞭が2号機の体を巻き付けた。そして、その状態のまま、2号機を電光石火に向けて、投げつけてきたのである。
「どわっ⁉」
2号機に勢いよくぶつかられて、電光石火は仰向けに倒れ込んだ。水狩田は機体を操作し、すかさず電光石火のマウントを取った。右腕を振りかざし、アームクローを構える。
「こうなれば距離は関係ない。喉元引き裂いて終わり……」
近接しているため、水狩田の物騒な言葉が電光石火のコックピットにも直接聞こえた。
「ひいっ!」
「くっ!」
隼子が悲鳴を上げ、大洋が呻く。すると、閃はニヤりと笑って呟いた。
「……ははっ、まさに飛んで火に入るなんとやらだね~」
「何⁉」
閃がパネルを操作すると、電光石火が頭部の口を思い切り開いた。その内部で急速に光状の粒子が充填される。閃が三度叫ぶ。
「マウスイレイザーキャノン、発射!」
電光石火の口から凄まじいエネルギー量のビームが放たれた。