第118話 静かに速やかに
僕とミーアは探知を最大で展開している。顔を見合わせハンドサインとアイコンタクトを交わす。お互いに頷き足音を忍ばせ追跡の応用で気配を消し移動をはじめる。数10メルド後ろには勇者パーティーが静かについてきている。パーティーメンバーのスカウトが魔獣に気取られないよう色々と世話をしているのが微笑ましい。彼は、きっとウィンドドラゴンの祝福を受ける前の僕達と変わらない程度には高レベルの探知がつかえるのだろう。彼としては一番近くのハグレに向かわないのを疑問に感じているはずだ。それでも、特に文句を言うことなくついてきているあたり、あの時のことで信頼はしてくれているのだろう。そんな事を考えながらも魔獣を目視で確認しミーアとアイコンタクトのうえで駆け出す。気配を出来るだけ断って風下から駆け寄り右手のオリハルコンブロードソードを一閃、ミーアも反対側から両手に持った片手剣を振り切っていた。
討伐完了後に近づいてきた勇者パーティメンバーが両手が切り離され、首が落ち、上半身と下半身が分かれた上位魔獣を見ながら。
勇者様が
「一声啼く間さえ与えず一瞬で上位魔獣の首飛ばして、胴体真っ二つとか、ちょっとマネできる気がしません」
戦士のレミジオは
「いやそれよりも、気配に敏感な上位魔獣に気付かれることなくあっという間に接敵するの、あれどうやってんの」
スカウトのライアン
「それもだけど、なんであんなに躊躇なく近づけるんですか。上位魔獣の腕のひと振りで人なんてぺちゃんこですよね」
そしてアーセルが
「ねぇ、ふたりって本来の武器は弓よね。使わないのは何故」
魔術師、アスセナは
「弓もですが、おふたりは強力な魔法も使えますよね。あえて接近戦を行う理由が分からないのですが」
探知で近くに魔獣がいない事を確認したうえで答える。
「切り捨てるのは、もう経験と技術とそれについてくる剣ですね。勇者様は聖剣をお持ちですので後は経験と技術を磨いてください」
勇者様は
「経験と技術か、精進するしかないということだな」
前向きで、出会った頃の傲慢さの欠片もない。
レミジオには
「気付かれずに接近するのは狩人の祝福の力ですね、スカウトの隠蔽に近いものですが基本的に森での狩りに特化しています。努力でもある程度は出来ますので頑張ってとしか……」
それに対しての反応として
「これも祝福か。狩人の祝福万能すぎるだろう」
と呟いていた。
「躊躇なく近づくことが出来るのは、慣れとしか言えないです。それにそうしないと逆に危ないですからね」
ライアンも
「それは分かるんですけど」
と黙ってしまった。
「弓は単体を狩る普通の狩りではリスクが低くていいんだけれど、ここで使うとまず間違いなく大声で啼かれて他の魔獣を呼び寄せるからね」
「ああ、そういうことね」
アーセルは理解してくれたようだ。
「魔法は、上位魔獣を仕留められるような強力な魔法を放つと音が結構でますからこれも封印です」
アスセナもそれで納得してくれた。
「言ってしまえばスタンピード前の間引きは全てを静かに速やかにって事に集約ですね」