第117話 勇者と聖女
翌日からも残された森で魔獣の間引きを続ける。ハグレの魔獣が徐々に強くなってきていて少しずつスタンピードの中心部が森の表層に近づいてきているのを感じる。そろそろ勇者パーティーは魔獣狩りに時間が掛かりすぎるようになってきていた。
「勇者様、そちらのパーティーでの間引きはそろそろ限界かと思います。スタンピード本番に備えて休養を取ってください」
「いや、フェイウェル殿。我々もまだいけます」
「勘違いしないでください。魔獣に負けると言っているのではありません。今は間引きの時期です。静かに速やかに狩る必要があります。これは僕達狩人の領域です」
「しかし」
「しかしでは、ありません。勇者様の役割を忘れてはいけません。極論すれば勇者様以外の戦闘職は勇者様を王種の前に立たせるためにいます。それ以外の戦いでも経験を積み鍛えるのはいいでしょう。しかし、その戦いで消耗されては本末転倒です。スタンピードには王種がいる可能性があります。それは確かにそれほど大きな可能性ではないでしょう。けれど通常の狩り・探索にくらべれば圧倒的に可能性が高くなります。王種と遭遇した時には勇者様と聖女たるアーセルが万全でいてもらうのが必要なことは言うまでもないでしょう」
「そうは言っても……」
「王種を倒せるのは聖剣を携えた勇者だけ。そしてもしもの時、勇者様の傷を癒せるのは聖女たるアーセルだけ。教会の癒し手の回復魔法は効果がないのですから」
「知っておられたのか」
驚きの表情を見せる勇者様に
「父が勇者でしたから」
と嘘の知った理由を告げる。勇者様の後ろでアーセルが微妙な表情をしているが別に構わないだろう。実際のところ勇者の傷を癒せるのが聖女の癒しのみであることは、それほど知られていない。それこそ、聖女と勇者の直接の関係者だけにしか教えないのが通例。それを逆手に聖女を先に狙われることを出来るだけ防ぐためだ。王族や高位貴族に対しても秘匿されているはずだ。
「だからこそ、勇者たるあなたは万全の状態で待機していていただかないといけないのです」
まだ勇者様は不満そうであったけれど、こればかりは納得してもらうしかない。けれど、砦の自室で休養を取れと言っても無理そうだ。僕は溜息を吐き、ミーアと顔を見合わせる。ミーアも仕方ないなという表情で頷いてくれたので
「では、僕たちの戦いを見ますか。どこまで参考になるか分かりませんが」
「良いのですか。冒険者にとって戦い方・戦略というのはかなり重要度の高い情報と思いますが」
「正直なところ今更です。それに戦い方を見られたからと言ってどうこうなるようなものでは無いという自負もあります」
「では、頼む」
「はい、明日からは僕たちの戦いを見て参考になる部分があれば参考にしてください」