僕が守りたかったけれど

　それから更に５日勇者パーティーに言うなれば見学をさせながらスタンピードの間引きを行った。しかし、そろそろ……。ミーアが僕を見上げる。僕は頷き
「これで間引きは最後にします。そろそろスタンピード本番が始まりそうです」
僕の言葉に勇者パーティーの面々が反応している。
「では、さっそく……」
レミジオなど前に出て森の中で始めそうだ
「こんなところで始めてどうするんですか」
ミーアが慌てて止めている。僕はクスリと笑いながら。
「言い方が悪かったですかね。これ以上の間引きはスタンピードのきっかけになりそうなので一旦引き上げます。多分あと１日２日でスタンピードが起きると思いますので実際に起きるスタンピードに森の外で対応ですね。それまでは休養をとるのと、装備の確認。監視は騎士団に頼んで良いですよね」
勇者様は目をぱちくりとさせ
「さすがに、慣れてますね」
「まあね、初回はさすがにきつかったですけど、あれを乗り越えたらもう何も怖くなくなりましたね。いや、大切なものを無くす恐怖は今でもありますけど。それを守るために力をつけてきたはずだったんですけどね」
後半は、言うつもりのなかったことだったので。
「いや、今言った事は忘れてください」
軽く手を振り。
「戻りましょう」

割り当てられた部屋に戻りソファに座るとミーアが何も言わずそっと抱き寄せてくれた。この想いは僕とミーアの間だけのもの。ふとした時に浮かび上がってくる痛み。これは２人でしか分かち合えない、そして決して忘れることの出来ない想い。心の底に沈め、普段は何気ないフリをして過ごしている心の傷。それでもミーアとふたりならきっといつかラーハルトとの優しい思い出だけを……

　”コンコンコンコン”ドアをノックする音で意識が浮上する。いつしか僕たちはソファで寝入ってしまっていたようだ。身体には薄手のブランケットが掛けられている。部屋付きのメイドが気を利かせてくれたのだろう。
ドアの外から声が掛けられる。
「お食事の準備が整いました」
メイドに目配せをすると。ドアの外の人と小声でやり取りをしている。
「グリフィン侯爵閣下、グリフィン侯爵夫人。お召替えを」
僕たちは間引きから帰って装備を外しただけだった。さすがにこれは貴族の夕食に出席するにはふさわしくない。僕たちだけが笑われるのなら構わないけれど、立場上そういうわけにもいかないため、それなりの服に着替える。僕は落ち着いた赤を基本としたスーツ、ミーアは深い青のドレスに虹色に輝くレインボーストーンと呼ばれる小さな宝石をあしらったネックレスをつけている。場所が場所なのでそれほど盛装というわけではないけれど侯爵としての最低限の装いをして夕食のテーブルについた。

「うわあ、フェイもミーアも素敵ね」
アーセルは薄いピンクのドレスにパールのネックレスと落ち着いた装いでテーブルについていた。
「ふふ、アーセルも可愛らしくて素敵よ」
アーセルの方が１つ年上なのだけれど、潜ってきた修羅場の違いだろう、ミーアの方が年上にさえ見える。でもそれは悲しみを飲み込んできた数の違いでもあって、ここでも僕の心を泡立ててくる。
「グリフィン侯爵ご夫妻を、おもてなしするのには十分とは言えませんが間引きも終わり一区切りついたところですので、せめてもの歓待をさせていただきます。当領地の自慢の料理の数々です。お楽しみください」
さすが子爵家の嫡男、勇者様の挨拶も堂に行っている。となれば僕も挨拶を返さないといけない。
「歓待いたみいる。ヘンゲン子爵家ご自慢の料理楽しませていただこう」
僕と勇者様のやりとりにアーセルが目を丸くしている。本当に貴族になるとこういう時のやり取りさえ面倒くさい。もっとも形式的なものはここまで。この後はスタンピードに対処する仲間として簡単に最終打ち合わせと雑談に興じた。