第4話
陸上部に『今日は帰る』ひとこと言伝をして瑠宇のお見舞いに行こうと下校準備をしていると
「天野はどうかしたのか。今日は休んでいるようだけれど」
陸上部顧問の八幡先生に呼び止められた。学校への連絡自体はおばさんがしてあるはずだけれど、詳しい話までは伝わっていないようで、いつも一緒にいる私に聞きにきたらしい。事故の事を話し、今からお見舞いに行くと伝えて下校した。
家で着替えて病院に行く。面会の手続きをしようとするとICUには家族以外は中々入れてもらえないらしく少し揉めてしまった。おばさんが来てくれて家族みたいなものと言って入れてもらえてほっとした。専用のガウンや帽子マスクを着用してICUに入る。すぐに瑠宇のベッドに行ったけれどまだ意識は戻っていなかった。面会時間の間ずっと瑠宇の手を握って話しかけていた。瑠宇からの返事が無いのが切なかったけれどきっと届いていると信じて話しかけた。
それからまっすぐ学校から帰ってお見舞いに行く毎日。4日目に瑠宇は一般病室に移ったので横に居る時間を長く出来た。ICUから出て付けられている管や機械は減ったけれど瑠宇はまだ目を覚まさない。
そして事故から1週間目。私は母親に頼まれた買い物を済ませて家に向かっていた。『もう、こんな時くらいお母さんが買い物行ってくれてもいいのに』そんなことを思いながら荷物を積んだ自転車を走らせているとスマホが鳴った。これは通話の呼び出し音。母さんからだった。道路の隅に自転車を止めて通話ボタンをタップする。
「瑠宇ちゃんの意識が戻ったそうよ。早く帰ってきなさい」
私は喜びで叫びだしそうになりながら、家路を急いだ。荷物を置いてまたすぐに自転車に飛び乗る。途中の赤信号がもどかしい。病院につき、走りそうになりながら瑠宇の病室に飛び込む。
「瑠宇」
そっと呼びかけると
「祥子ねぇ。怪我はなかった?あと悪いけど顔の向きも変えられないんだわ、正面に来てもらって良い?」
自分の方が大怪我してるのに最初に私のことを気遣ってくれる大切な幼馴染の声に泣きそうになりながら、正面に回って
「あたしは大丈夫。どこも怪我してないよ。それより瑠宇、あたしを庇ったせいで、こんなに。ごめんね」
嬉しい。瑠宇が目を覚ました。混乱するかもって言われていた記憶もちゃんとしているみたいだ。しかも瑠宇は私のことを全然責めない。出られなくなったジュニアオリンピックさえ私の方が大事なように言ってくれる。復帰のサポートをと頼ってくれる。こんなの泣くなって方が無理。私は瑠宇の手を両手で包み込むように掴み
「うん、うん。一緒に頑張ろう」
涙を流しながら答えた。瑠宇の怪我がほとんど選手生命を絶っていることを分っていても。ううん、きっと瑠宇自身も分っている。でも瑠宇は諦めない。それなら私が諦めてどうする。絶対に瑠宇をもう一度あの眩しいトラックに送り出すんだ。