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 朝の外気を肺に取り入れて、ぼんやりと歩く。犬の散歩タイムと被ったのか、前方から来るのはやたらと犬連れが多かった。禅一はペットを飼ったことがなかったが、犬は好きな方だ。ちょっと癒されながら歩いていくと、声を掛けられる。

「禅一さん、早いですねー。珍しい。眼鏡ないから一瞬誰かと」
 麦が小型犬を連れて散歩していた。
「あれ、麦ちゃん……おはよう。その子は誰?」
「トイプーの以蔵くんです。かっこいい名前でしょ」
「うーん、ギャップ萌えかなんか狙ってる?」

 どう見ても以蔵くんというイメージではなかった。淡い色の被毛をテディベアカットにした愛らしい子だ。

「いや、最初はイクラだったんだけど、それが漢字になって、呼び方がイゾウに変化したという経緯がありまして。禅一さんはお散歩ですか? 眼鏡どうしました?」
「壊れたので、コンタクト入れてる。これから新しい眼鏡を作りに行くんだよ」
「禅一さん眼鏡ないと、なんか可愛……、若いですね。……写真撮っていいですか? 以蔵くん抱っこして貰っても?」

 何故だか麦はうきうきと禅一に以蔵くんを渡し、尻ポケットからスマートフォンを取り出している。以蔵くんはお利口に待っており、全体的にもふもふでつい構いたくなる。

「麦ちゃん。大学の夏休み期間なんだけど、多めにシフト組めるかな。珠雨が一ヶ月留守にするとか言ってて」

 言いながらも、もしかして夏休みを待たずして出ていくなんて事態になるかもしれない、などとうっすら考えていた。今日は珠雨と顔を合わせていないので、先がどうなるかまるでわからなかった。

「えー、どうでしょう。毎日は無理です。バイトの募集かけてみては?」
「ああ……うーん、そうだね。夏休みにバイトしたい子沢山いるだろうし」

 一から教えるのは面倒臭いなどと思いながらも、一応は考慮に入れることにする。麦がいい写真を撮れたらしく、嬉しそうに画面を見ている。

「麦ちゃん、以蔵くん返す」
「あっすみません! 禅一さん、ほら見てください」
「……なにこれ」

 麦が撮った写真を見て禅一はげんなりした。盛れる写真アプリで、相当加工されていたからだ。以蔵くんを抱っこした禅一は、きらきらと輝いている。

「消してくれない?」
「えーっ、じゃあ、じゃあ、加工なしのもありますけど、禅一さん大して変わらないですって」
「変わるよ。そういうの僕苦手」

 麦はぶつぶつ言っていたが、本人の意向で結局はきらきらの写真を消去した。

「眼鏡屋さんまでご一緒しても? 俺選んであげましょうか」
「麦ちゃんて世話焼きだよね。コンタクト入れてるから、普通に自分で選べるよ。それにまだ時間が早い」

 時間が早いのは事実だったので、麦とは途中で別れた。
 少し一人でいたかった。

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