(2)
三時限目の選択授業で環奈の隣に爽多が座った。あれから一週間くらい経つが、環奈はまだ返事をしていない。
なんだか気まずく、ちらちらと送られる視線が嫌で授業に集中出来なかった。案の定、授業が終わったあとに引き留められる。
「考えてくれた? 試合見に来てくれるだろ」
断られないこと前提で話すのは、断られるのが怖いからだろうか。他人の目がある教室で、このことについて話すのはどうかと思った。環奈は少し下を向き、どう伝えたらいいか考えていた。
「……こんなとこじゃ落ち着けないか? 昼休みはどう。俺弁当だけど、どっかで一緒に食わない?」
環奈が困っているのに気づかないのか、爽多は気軽に誘ってくる。今は三時限目で、次の授業か終わったらすぐに昼休みだ。
どの道話さなくてはならないなら、昼休みにさっさと終わらせてしまえばいい。そう結論づけて、環奈は承諾した。
「じゃあ、演劇部の部室でもいい? あたし副部長だから、鍵開けられるの。場所わかる?」
「おう、大体。じゃあ行くから。――あ、次の授業間に合わなくなる。また!」
大急ぎで去って行く爽多の後ろ姿を見送り、元気だなあと苦笑する。爽多を好きになれたら、それはそれで幸せかもしれない。学校に彼氏がいたら、毎日が楽しくて仕方ないだろう。
けれど環奈の好きな人はこの学校にはいない。
(あ……禅さんと話したい……)
それは恋愛感情とはまた別の、環奈にとっての癒しだ。禅一と話すことによって、乱雑に散らかった心が整えられる。
(だけど昨日は、休みだったなぁ……やってるかな)
ぐだぐだと考えていたら、予鈴が鳴った。