(3)
店内が、環奈と禅一だけになった。先ほど出掛けていった店員の男性はまだ帰ってこない。
会話がないので店内の音楽が際立つ。何の曲だかは知らないが、とても気分が落ち着く静かな音楽だ。どこかで聞いたピアノ。
先ほど頼んだほうじ茶ラテはもうなくなってしまった。また何か頼もうと再びメニュー表を見ていたら、ふと、下の方によくわからないメニューがあるのに気づく。
(なんだろ、この。……お好きなドリンクに+100円で店主10分、というのは)
ドリンクの基本料金に、100円を追加すると注文出来るらしい。
何度も来ているのにこの変なメニューに今まで気づかなかった。前からあったのだろうか。なんとなく気になる。
「あの、オーダーいいですか」
環奈が声を掛けると、店の奥で静かに座っていた禅一がやってきた。
「このメニューってなんですか?」
「……ああ、それは、お好きなドリンクを召し上がりながら、僕とお喋りしたり、あるいはゲームしたりとか、ですね。空いてる時にしか受けられないんですけど、今は空いてますね。ご所望ですか?」
棚にゲームに使うであろう物がディスプレイされていた。アプリゲームなどではなく、テーブルゲームなのだろう。遊び方がわからない物もある。
(チェスとか、わかんない……でも綺麗)
チェスについては見た目で認識出来たが、名称のわからない物もいくつか置いてあった。しかし今はゲームをする気分ではない。
「そうですねぇ……どうしようかな」
眼鏡の奥の視線は穏やかで、全体的に男臭さが薄く、人畜無害な印象を与える。環奈は少し考えてから頷いて、クリームソーダ+店主10分をオーダーした。